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ICY SONIC BOOM  作者: 津辻真咲
2/11

上空出入国ターミナル


成層圏。そこで二人は空を見ていた。階下には雲海。それが地平線にまで続いていた。今日は雨。階下の雲は積乱雲だ。

「今日のお弁当、何?」

「おにぎりとだし巻き卵とベーコンアスパラと……」

帆夏はお弁当の蓋を開ける。

「わぁ」

航は今日のお弁当に喜ぶ。今日は帆夏の手作りだ。

「だし巻き卵好きなんだ」

航は静かに目を輝かせる。

「本当に? 良かった」

帆夏は微笑んだ。すると、そこへ結城が自身の弁当を持ってやって来た。

「二人ともここか。探したよ」

「蓋だけ開けて、待ってたんだよ」

結城も席へ着く。

「今日は雨なんだってな」

結城は箸でふりかけのかかった白米を食べる。

「だから、地上が見えないんだね」

「確かに」

帆夏はだし巻き卵を食べる。

すると、遠くの方から雷鳴が聞こえて来た。

――スプライトだ。

三人は窓の外を見た。積乱雲から上空に向かって稲光が見えた。

「珍しいね。スプライトだなんて」

「うん。そうだね」

航は窓の外を見たまま、おにぎりをかじる。一方、結城は。

「ちょうどいいんじゃないか? 今日は出入国ターミナルでの勤務だ」

「それもそうね」

帆夏は最後のベーコンアスパラをほおばった。

「ごちそうさまでした」

三人はそれぞれ、手を合わせた。



1時ちょうど。帆夏と結城は中央セントラル空港の上空出入国ターミナルへ滑り込む。三人で上空整備基地でお弁当を食べていたら、遅くなりかけたのだった。

ここの出入国ターミナルには、ターミナルを管理する人工知能が二人いる。それは、元生命体で今は機械として生きている入国管理官、楓亜樹かえで あき。それと、元機械で今は生命体として戸籍も所有している出国管理官の桜井春樹さくらい はるきだ。

彼女、楓亜樹は、脳の60%が機械で出来ている。10代で精神疾患を患い、無機物で脳内分泌物をコントロールしていた。

一方、彼、桜井春樹は脳の90%が有機物で出来ており、10年かけて有機物が脳を侵食し、脳内構造を形成した。

「こんにちは」

現場担当の人工知能、夏月なつきが立体映像をスライドさせてやって来た。

「こんにちは」

「今日はよろしく」

二人はそれぞれ、挨拶をした。

「今日は、X線のところの警備をお願いしようかな」

「分かったわ。エリア32ね?」

「うん。よろしく」

夏月は立体映像の画面で笑顔を作った。


「……」

二人は黙って、辺りを見回している。今回はX線荷物検査のある32エリアの警備だ。暴れたり、逃走しようとしたりする人物を確保するためだ。

「……」

二人は仁王立ちで目を光らす。それと同時に監視カメラを通じて、出入国管理官の二人も目を光らす。

彼ら人工知能は、超個体状態だ。監視カメラで逃走者の位置を確認し、現場へ伝えるのだ。


すると、そこへ航がやって来た。

「帆夏」

「?」

彼女は振り返る。

「え!? どうしたの? こんなところまで」

帆夏は少し驚いていた。

「携帯端末。忘れてたから」

航はおずおずとその携帯端末を差し出す。どうやら、帆夏は上空整備基地で昼食を食べた時に、携帯端末を忘れてきてしまったようだ。

「ありがとう」

帆夏が微笑むと、航も少し微笑んだ。

「よっ。今日も仕事終わりに行くだろ?」

 結城が航に話しかける。

「えっ」

 航は戸惑う。

「結城、勤務中。飲み会の話はまた今度」

「はいはい」

結城は帆夏のその言葉を聞くと、航の肩を組んでいた手を放した。

「じゃあね。気を付けて」

「またね」

航は小さく手を振った。そして、そのまま上空整備基地へ戻って行った。


「緊急警戒体制。赤手配犯が旅客の中にいるとの情報。至急、捜索に取り掛かって下さい」

インカムから楓亜樹の緊急命令が聞こえて来た。

「結城、聞こえた?」

帆夏は結城の方を向く。

「あぁ、聞こえた」

彼は真剣な表情で頷いた。すると、その赤手配犯の画像が携帯端末に送られてきた。二人はそれを確認すると、周りを見渡した。


――まだ、この辺りにはいないのか。

帆夏は視線を周りへ移す。すると。

「エリア32警備員。赤手配犯がエリア32の監視カメラにとらえられました。警戒を続けて下さい」

インカムから楓亜樹の命令が聞こえて来た。

――このエリアに?

帆夏は辺りを見渡す。すると。

――いた!!

帆夏は赤手配犯を見つけた。

――服装も同じ。彼だ。

「結城。赤手配犯を確認。行こう」

帆夏はインカム越しに結城へ話しかけた。

「分かった」

二人はその男性のもとへ向かった。

――残り10メートル。

しかし。男性は走り出した。

――しまった。気付かれた。

「待て!!」

結城は走り出す。帆夏もあとを追う。しかし、相手との距離は縮まらない。

――あいつ、速い。このままじゃ。

次第に、中央ゲートが見えて来た。

――どうしよう、もうすぐ出口。

「中央ゲートを閉鎖します」

その言葉が共通無線から聞こえて来た。

――閉鎖。

目の前の中央ゲートが閉まって行くのが見えた。二人はその男性を追い詰めた。すると、その男性は逃げ遅れた女性の手を掴み、人質にしようとした。

――しまった。

男性は銃を持っていた。そして、その銃を女性のこめかみへ突きつける。男性はその女性を人質にしてしまった。すると、その男性が一瞬、口角を上げたのが見えた。

「出入国管理官を連れて来い」

彼は淡々と言葉を発していた。

帆夏は時間稼ぎをしようとした。

「どうして?」

しかし、無駄だった。甲高い音が辺りへ響く。彼は、近くにいた警備機械の人工知能を撃ち抜いた。その警備機械はその場に崩れ落ちた。

「!!」

帆夏は息を飲む。すると、インカムから入国管理官、楓亜樹の声が聞こえて来た。

「すぐ、向かう。しばし、待て」

無線は切れた。

――まさか、ここへ来る気なのか!?

帆夏は硬直状態の現場を見渡した。辺りにはもう、警備機械しかいない。

――犯人はどうやって逃げる気だ!?

帆夏はそれを考えていた。すると、二組の走る足音が聞こえて来た。

――こちらへ向かっている。

帆夏は振り返る。

「待たせた」

入国管理官、楓亜樹と出国管理官、桜井春樹だった。二人は、脳は機械の部分はあるが、肉体は、ほぼ人類である。それにより、現場への出動は人類と同じ、命がけだ。

「目的は何でしょうか?」

楓亜樹が淡々と話を進めた。すると、男性は黙って、銃口を彼女へ向けた。

楓亜樹と目が合う。すると、彼女は意識を失い、地面へと倒れた。

「え!?」

帆夏は驚き、駆け寄る。すると、次の瞬間、人質犯の男性の一番近くにいた警備機械がその彼に飛び蹴りをした。

楓亜樹は人類の身体から意識だけを移動させ、近くにいた警備機械の人工知能へ意識を入り込ませたのだった。楓亜樹と桜井春樹は、半分、人類の管理人工知能。それにより、意識を他の機械へステルス寄生させることが出来るのだ。

「え!?」

帆夏は振り返る。しかし。再び、甲高い音が辺りに響いた。隣の桜井春樹がその場に倒れ込む。腹部からは出血が見られた。

――大変!!

「誰か、止血を手伝って!!」

帆夏は周りに叫んだ。人質犯の銃が暴発し、桜井春樹に命中したのだった。

――この後、どうすれば。

帆夏の手が止まった。すると。

「確保!!」

その声が辺りに響いた。その声を聞くや否や、周りの警備機械たちは人質犯に襲い掛かった。

「確保いたしました」

手錠をかけた警備機械が叫んだ。帆夏の耳にもその声は入って来た。彼女は止血の為、傷口を圧迫している両手から、確保現場へと目線を移した。

人質犯は手錠をかけられ、連行されていく。一方、人質だった女性は警備機械たちに保護されていた。しかし、帆夏は胸を撫でおろせない。目の前の赤い出血がそうさせる。すると、隣に倒れていた楓亜樹の身体が目覚めた。意識が警備機械から元の身体へと戻って来たのだった。

「ありがとう。あと5分で救急車が到着します」

彼女は帆夏の赤く染まる右手を掴んでいた。そして、口角を上げる。彼女は帆夏の視線に自分の視線を合わせた。

「あとは私たち、機械がやり遂げます」

元人類の彼女は、頼もしく頷いた。

「大丈夫ですか?」

救急隊員が到着した。救急隊員は彼を担架に乗せると、救急車へと運んで行った。楓亜樹はそれを見届ける。そして、彼女は再び、出入国ターミナルを管理する為、自室へと戻って行った。

「あなたは怪我はしていないですか?」

救急隊員が帆夏へ話しかける。

「いいえ、大丈夫です」

帆夏はそう答えた。救急隊員は一礼をすると、去って行った。

「大丈夫か?」

結城が声をかけて来た。

「うん」

帆夏は彼を見上げた。結城は手を差し出す。

「いいよ、手に血液がついてしまう」

しかし、彼は帆夏の右腕を掴み、引き起こした。

「手、洗って来いよ。俺はここで待機してるからさ」

「うん」

帆夏は走って行った。


次の日、桜井春樹は仕事へと復帰した。身体は病院だったが、意識だけ出入国ターミナルのコンピュータにステルス寄生していた。



「そんなことがあったの?」

航はきょとんと帆夏の話を聞いていた。

「うん。でも、もう大丈夫らしい」

「そっか、良かった」

航は微笑んだ。


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