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恋のツボ

作者: 星野美月

この世には「恋のツボ」というのがあるらしい。

そんな事は知らない僕は今、仕事をしていた。


「秘義、失眠押し!」


なんてことはない、ただのツボ押しである。

その瞬間から女性は気持ち良さそうに寝はじめた。

失眠とは足の裏にある、かかとのふくらみの中央にあるツボで、それを押す事で不眠解消や足の疲れなどをとるツボである。

全身にツボは361個あると言われ僕は彼女にマッサージをしつつツボを押していた。

僕のゴッドハンドの前では女性はイチコロである。

女性とはつまり客であり、ここ「ツボで悩みを解決 相場屋」という一見、物売り屋ぽいが、ただのマッサージ屋さんだ。

僕は、この小さなマッサージ屋さんの、あん摩マッサージ指圧師を持つマッサージ師である。あん摩マッサージ指圧師をは養成校で3年以上学んで国家試験に合格した者で、この店をオープンするのに資格を取ってから10年にして、ようやく店をオープンしたのだった。店は新宿の一等地ではないが良い場所にある5階建ての建物の一階のフロアを借りている。

それまではバイトに明け暮れていたのである。


僕の名前は相場直哉(あいばなおや)34歳、独身だ。

身長は170センチ、顔だって悪くないはずだ。今はマッサージをするのに白い独特の服を着ているが仕事が終わればカジュアルな服に着替え家に帰る。そんな毎日だ。車など持ってはいない。帰りは電車で30分、徒歩20分の所にある東京都大田区にあるマンションだ。マンションといっても一階の中央付近にある部屋で家賃は安い。

今日は、この女性で最後だ。主に服の上からツボを押しているので直接肌に触るのは手足や顔ぐらいだ。その女性はマッサージをしてもらい気持ち良さそうに寝ていた。女性はイチコロといっているが男性だってイチコロである。時間が経ち寝ている女性を起こす。マッサージを終えた女性は清々しい顔で店から出ていく。


「ありがとうございました」


スタッフの女性が丁寧にお辞儀し去っていく女性に頭をさげた。これでも僕はマッサージ師兼経営者である。スタッフは4人。その中にもマッサージ師はいるが、たまに手伝っているのである。今日の仕事が終わりスタッフと別れ駅まで歩いて帰るのが日課だ。


「社長おつかれさまでした」


「おつかれさま」


スタッフと別れ俺は一人で山手線にのり京浜東北線を経由して大田区にある駅に着く。そこからは歩きである。仕事の日以外ほとんど歩かないので良い運動である。駅から家があるマンションへ向かう途中、女性に声をかけられた。


「壺を買ってくれませんか?」


いかにも怪しい女性である。初対面の人に、このように声をかけるのは怪しいに決まっている。それに壺を買ってくださいと言うのに現物がない。だが、そんな彼女の顔は僕のタイプであった。ショートボブの髪に少し明るめのメイク。服はおしゃれな白のブラウスに紺のスカートであった。少しだけなら話を聞いてもいいかもしれない。僕は、その女性の話だけ聞くつもりで言ってしまった。


「ちょっとだけなら話を聞きます」


すると女性は笑顔で


「ありがとうございます」


そう言った。その女性と近くにある建物の中で、お茶をする事になる。


(緊張感がやばいっ)


一つの机に面と向かい僕と女性は座った。少しお洒落なカフェである。

初めて、この女性と話すのだが、これではまるでデートしているようなものだ。

僕にとってゴッドハンドにかかれば女性はイチコロと言っていたが今は、その反対だ。

この女性に僕はイチコロであった。彼女の年齢は顔や話し方から25歳ぐらいに思える。そんな彼女が僕に言った。


「安い壺を買ってくれるなら、これから付き合ってほしい所があるの…」


(騙されてはダメだ。これは悪徳商法というものではないか)


だが彼女の可愛さに僕は二つ返事でOKしてしまった。

しばらく彼女の話を聞く。彼女の名前は花咲苺花(はなさくいちか)という。

年齢は予想通りで27歳だと話してくれた。どうせ偽名だろうと思ったが免許証を見せ本物だと判断した。だがすぐに免許証をしまう花咲さんであった。

僕は自己紹介をし、一応彼女を信用し話を聞く。彼女は壺鑑定士と呼ばれているらしく壺を売って生計を立てているそうだ。


「どうしても壺を買ってほしいの…」


可愛い素振りで彼女は言った。だが真剣な表情だ。売れなくて生活に困っているのか?


「それで花咲さん、壺はおいくらですか?」


「そうね…五万ってところだけど三万あればいいかな?」


(やはりこれは悪徳商法なのだろうか?)


そう判断する前に花咲さんは席を立ち僕の手を掴んだ。


「もっと壺の事話したいから、私のオススメの場所へ行きましょ?」


カモにされているのだろうが僕は彼女の手の温もりで思考が止まっていた。

女性と手を繋ぐのは小学生以来だからである。彼女に促されるまま、お茶の会計をすませ俺は、とある場所まで来ていた。


「さぁー着いたわ…ここよ」


そこは高そうな物が置いてある店であった。


「いらっしゃいませ」


一人の販売員の男が声をかける。

その男性に花咲さんはウィンクをして僕を店の中へいれた。

ショーウィンドの中には鞄や時計などが置いてある。どれも高そうな物ばかりだ。僕が社長といって言っても、そうそう買える値段ではない。


「あっあの…」


僕は勇気を振り絞り花咲さんに言った。


「ぼっ僕…やはり買えません」


だが花咲さんは笑っていた。笑いのツボにはまったみたいだ。右手で口をおさえ笑っている。


(やはり…騙されてたんだ)


近くには販売員が目を見張らしている。

逃げ場はない。そう思っていると彼女が僕の顔をまじまじと見つめた。

その無邪気な顔が可愛くてしかたない。だが、これは悪徳商法だ。

僕は、そう思い彼女の手を離した。だが彼女、花咲さんは僕を見て笑っている。

そして言った。


「もしかして悪徳商法と勘違いしてる?」


その言葉にきょとんとなる僕。


「へっ違うのですか?」


「あははっ…わたしにそんな器用な真似なんてできないわよ」


彼女は笑い僕の手をまた握った。


「ここの店に有名な人が作った壺が置いてあるの。壺の良さを知ってもらいたくて」


そう言い彼女は俺の手を握り、そこまで小走りに歩いた。

そこには、たしかに壺が置いてあった。


「これは?」


「えへへっわたしのお気に入りだよ」


綺麗な模様の小さな壺がそこにはあった。お値段は100万である。


「わたしの夢は、この壺を買うことが夢なんだ。だから相場さんに声をかけた時、立ち止まってくれたあなたに壺の良さを知ってもらいたくて」


「ははっ…そうなんだ」


その笑顔が可愛い。今の僕は彼女の為に、この壺を買ってあげたい。

そう思った。


「あっ、ごめんね無理やり…あっ、ちょっとお手洗い行ってくるね。待っててよね?」


花咲さんは、そう言うと通路の角にあるトイレへ向かった。

そんな彼女は僕に軽く手を振り通路の角を曲がる。

その瞬間、僕は恋のツボを押されてしまったようだ。

僕は販売員を呼び壺を取り出してもらう。

そしてその壺をクレジットカードで一括で買ったのだった。

僕は彼女の夢である壺をプレゼントしてあげようと買ったばかりの壺を眺め、彼女がくるのを待ったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

夢で壺の夢を見て、テーマをツボにして書いた小説です。

終わりは読者様のご想像にお任せします。

皆さんには、恋のツボありますか?

ぜひ見つけてみてくださいね。

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