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第37話 プレイング・チュートリアル

《分子変換式収納カプセル》……通称、ガチャカプセル。“外界遠征”コマンドを実行すると、時々少女たちが持ち帰ってくるアーティファクト。何が入ってるかはお楽しみ。※命晶石(購入には終末以前のお金が必要)を使うことでレアガチャを引くことも可能。


《キャラクター・メイカー》……キャラメイクをやり直すことができるアーティファクト。使用することで、そのキャラクターの外見を変更することができるぞ。


《フレンドリスト》……これに名前を書くと、その人と友だちになれる。友だちになった人とは、協力してゲームを遊べるんだ。


食料生成システムフード・ジェネレーター》……少女たちの食料を生産する機械。”生存戦略”コマンドに関わるアーティファクト。


酸素生成システム(オキシジェネイター)》……密閉された地下空間において、酸素を生成するとても大切なアーティファクトだ。これが止まると、少女たちは呼吸できなくなってしまうので要注意。


《◯◯遠征券》……通常の“外界遠征”では行けない場所(国外・異世界など)への遠征任務が可能になるアーティファクト。使用にはいくつかの制限がある。


感情調整システム(ムードオルガン)》……このアーティファクトを利用することで、”運命少女”たちのストレス値の上昇を軽減することができるぞ。


《お掃除ロボット》……施設内をくまなく掃除してくれる、子犬型のアーティファクト。別にこのロボットを使わずとも少女たちは勝手に部屋を掃除するが、より几帳面なプレイヤーには、このアーティファクトがおすすめだ。



 “食堂”にて。

 豪姫は苦い表情で、”プレイング・チュートリアル”と題された10ページほどの冊子をテーブルに投げた。


「まさか、こんなもの隠し持ってたとはなぁ」

「全く気づかなかったのか?」

「うん。もともとあの娘とはちょっと距離があるなあとは思ってたけど。……単に寝床を奪ったからだと」


 ……たしかにそれ、嫌われてないのが不思議なくらいだけどな。


「どーやら、あたしらが本格的に調査を始める前の時点で、倉庫にあったアーティファクトをいくつか拝借していたらしい」


 やれやれ。そういうことだったのか。


「この本によると……ヒマリはこの、”フレンドリスト”とかいうアーティファクトを利用して僕と陽鞠をこっち側に連れてきたってことだよな?」

「だろーな」


 名前を書いた人を”友達”にできる……か。

 まさか、そんなものが存在していたとは。


「ちなみに”フレンドリスト”はすでに、ヒマリの私物の中から押収済みだ」

「けど、なんで陽鞠まで連れてきたんだろう」


 すると豪姫は「ぽひむ―――――っ」という奇怪なため息を吐いて、


「それについちゃあ、こっちで聞き出してみるよ」

「……心当たりがあるのか?」

「まあね~」


 何か引っかかる言い方だが。


「どっちにしろ、いまオメーがヒマリと話したところで、逆効果ってモンさ。あとは女子の友情に任せな」

「……わかった」


 ヒマリはいま、豪姫側の施設で大人しくしているらしい。今はなんとか落ち着いているようだ。


「とにかく、これでオメーら二人の帰還は保障されたってことだ。――どーやらこの”フレンドリスト”ってのからオメーらの名前を消せば、元の世界に戻れるみたいだし」

「そうだな。めでたしめでたしだ」


 すると、陽鞠が押し殺したような声で割って入る。


「……なんにもめでたくありません。それだと結局、ごーちゃんがこっちの世界に残ったままじゃないですか。ごーちゃんはその、”フレンドリスト”とかいうアイテムとは無関係にこっちに来ちゃった訳でしょう?」

「あー……。その話な……」


 豪姫が、引きつった笑みを浮かべる。


「なんですか、ごーちゃん。『その話、まだ蒸し返す?』って感じの顔してますが」

「いやだって、実際……」

「ダメですよ、いくらここの生活が心地いいからって長居しちゃあ。……だってごーちゃん、たった二週間ここにいただけで、すっかりだらしなくなってます」


 そして、びしっ、と豪姫が来ている服を指差し、


「ヨレヨレのシャツで、しかもノーブラ! そんな格好でさっきーくんの前に出てくるのがいい証拠!」


 ほぼ同タイミングで、僕と豪姫は視線を逸らす。


「っていうか、……むしろ今の豪姫、かなり空気読んでくれてる方なんだが……」

「え? なにをボソボソ言ってるんです?」

「いや、なんでもないけど」

「……怪しいなあ。なんだか、まだ二人の間で、何かしらの秘密を共有しているかのような……」


 うわすげえ。この娘、めちゃくちゃ勘いい。

 ひょっとすると、浮気を探られた旦那ってこういう気分なのかもしれない。もっとも僕と豪姫はそんな、後ろめたい関係ではないが……。


「まあ、その話はいったん横に置いとこうぜ」

「横に置いといたらダメー! ちゃんと片付けてー!」

「……それでも置いとくとして」


 豪姫は同じ言葉を繰り返し、無理やり話題を切り替える。普段よりちょっとだけしゃべりにキレがないのは、あるいは服を着ているせいかもしれない。


「それでオメーら、今日はどうする?」

「今日……?」

「これからのことだよ。どーせいつでも戻れるんだから、今日は泊まってけばいいじゃん」


 心ときめく提案だった。

 考えてみれば、例の“フレンドリスト”を利用すれば、今後は自由にこっち側に来られる訳で。


――そう考えると、……ええと、どういうことだ?


 とりあえず、さっき陽鞠と話していたことが夢物語じゃなくなって……。

 各種アミューズメント施設の建設。

 ”フレンドリスト”を利用した集客。

 全世界から客を募集して。

 ……大金持ち? 一生金に困らずに済む? 夢のクリーンルーム生活?


――なんてな。


 若干飛躍しつつある妄想を打ち消して、僕は内心で笑う。

 そんなものより何より、……今はこの、愉快極まりない友人といる時間のほうが貴重に思えた。


 その後に行われた宴は、僕の人生で最良の夜だったと断言できる。

 生まれて初めて経験したが、パジャマ・パーティというのは、あれでなかなか愉快なものであった。

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