無能
エルフとロリヨージョさんに合流した俺は、ドワーフから先ほどの戦闘に関する話を聞いていた。
「へぇ、あの美少女は呪術師だったのか…」
「へぇ、じゃないのです♪死んだらどうするのです?」
「そうにゃ!セカイがバカなのは知ってたけど、ここまでとは思ってなかったにゃ!」
今回、俺が単独行動をしたせいでパーティの奴ら全員が迷惑した…ということらしい。
しかし俺はリーダーなのだ。リーダーが少しくらい勝手な行動をしても、咎められる理由は特にないではないか?もう少し寛容な精神を持ってほしいものだ。
「二人とも。クズには何を言ってもムダだ…反省できないからな。」
「ドワーフまで言うか。いや、反省とかではないだろ?ほら、よく考えて…」
「そうなのです…♪ドワーフの言うとおりなのです♪」
俺が何かを言う前にロリヨージョさんがドワーフの言葉を肯定してしまった。
どうやらみんなが同じ意見で、俺だけ異を唱えている。おそらく価値観の違いだ。
まぁ異世界の連中と俺の価値観が完璧に一緒だとはもともと思ってない。少し歯がゆいが、仕方ないだろう。
「ここに居たらセカイが死ぬにゃん。ここは安住の地には向かないにゃん。」
エルフが俺の身を案じた意見を投じる。でもその心配はないと思うんだがなぁ。
そもそも今回の失敗は美少女を呪術師と見抜けなかった事が原因だ。今度からは俺があらかじめ解析能力を使っておけば、化けの皮を剥がしてから対面することも簡単だ。
つまり俺さえ気をつければ問題はないし、パーティに迷惑をかけるようなことは金輪際ないはずだ。コイツらは心配しすぎだ。
「いやいや、お前らには迷惑かけねぇし。第一、俺が死ぬと思うか?」
「チイト…貴様は…」
「な、なんだよドワーフ。」
「…はぁ。いや、言っても仕方ない。」
なんでそんなことを呆れたような顔で溜め息をつきながら言うんだ。
「ド、ドワちゃん…」
「ドワーフ…♪」
エルフとロリヨージョさんが悲しそうな目をしている。なんだ、一体なにが起こっているのか分からない。変な空気を作って俺を惑わそうとしてないか?
「ああ…もうなんだよお前らは!?俺に言いたいことがあるなら言え!!」
コイツらは俺に意見をすることを躊躇う事がある。そしてそういう時は、悲しそうな目でどこか遠くを見つめるのだ。
目だけでは伝わらないこともある。それをちゃんと教えてあげた方が良いのかもしれない。
「いいかみんな?コミュニケーションは言葉にするのが大切なんだ。言葉にしないと伝わらない気持ちというのは…」
「ッチ」
「舌打ちするな!!」
ドワーフのやつめ、全く話を聞く気がないな。
というか、他の二人も聞いてるのか聞いてないのか…ただ死んだ目をして俯いているので、正直よく分からないな。
「とにかく言いたいことは言え!俺はすべてを受け止めるぞ!」
「…じゃあ言っていいにゃ?」
エルフがなんとなく覚悟を感じさせる目つきと語調で言った。そんなに勇気がいることだったか?
「まず、セカイにはリーダーの役割が分かってないと思うのにゃ。リーダーの役割はパーティメンバーの統制をとることと、仲間の一人一人に正面から向き合って信頼を得ることなのにゃ。」
…?やってるじゃん。
「次に必要なのは総合的な状況の判断にゃん。これは現在の状況からとるべき行動や作戦を迅速に決定する、ということにゃ。より良い解を導き出すことで、パーティの実力を真に発揮したり、パーティを危険に晒す可能性を減らすことができるにゃん。」
…?だからやってんじゃん。いまさら?
「最後に必要なのは…パーティの主柱となれるような、気高く強い精神力。諦めない心にゃん…」
「全部あるじゃんか?」
「…一つもねーよクズが。」
ドワーフめ、俺のリーダーとしての資質を完璧に否定しやがった。さすがにここまでリーダー(笑)扱いされるとムカつくぜ!
「一度お前にはお仕置きをしたほうが良さそうだな…」
「残念だけど、セカイにお仕置きできる権利はないにゃ。ドワちゃんの信頼を勝ち取れないセカイの方が悪いのにゃん。」
「えぇ…?それはさすがに酷いだろ!コイツから信頼を…って、どうやれば良いの!?」
仮にエルフが俺の立場だったら絶対に折れると思うぜ。こんなの手懐けられるやつは流石に存在しないだろ。
「私が信頼しているのはロリヨージョさんとエルフだけだ。」
なんで俺だけ信用しねぇんだよ!?
「ドワちゃん…私もにゃ!私も、ドワちゃんとロジョちゃんを信じてるのにゃ!」
「私もなのです♪二人を信じているのです♪」
「ありがとう、二人共…これからも私達で力を合わせて生きていこう!」
俺だけめっちゃ蚊帳の外なんだが?なにこのパーティ、俺の居場所なくない?
ドワーフのポジションって俺が居ないといけないんじゃないのか?これじゃまるでアイツがリーダーみたいじゃないか…
「なぁドワーフ、このパーティのリーダーは誰だ?」
「貴様はそんなことも知らないのか、無知が。ロリヨージョさんだろうが。」
俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ!
「え!?いやその、我のリーダーはセカイさんなのです♪」
「当たり前だろ!なんで俺はリーダーの座を奪われてんだよ!?」
エルフが俺の発言に眉をしかめ、おかしな発言を聞いたような怪訝な表情で応える。
「そもそもセカイがリーダーだったなんて知らにゃいにゃ。ロジョちゃん以外考えられにゃいにゃ。」
「エ、エルフまでぇっ…!そんな、バカなっ…!」
[悲報]治糸世界さん、リーダーじゃなかったwwwwwwwwwwww 〔いせかい速報〕
つい自虐スレを建ててしまった。確かに俺がリーダーだとは一度も言ってなかったかもしれないが、ここまで微塵も慕われてないとなるとさすがに凹む。
「…なんとなく、ロリヨージョさんが死にたいっていう気持ちが分かったよ。」
しばらくあの一人の部屋に引き篭もりたい。
「セ、セカイさん♪早まってはいけないのです♪」
「一生出てくるなゴミ。」
ドワーフの言葉を聞いた俺は、転移の魔法を使ってどこか遠くの街に逃げ出した。
「ああっ♪セカイさんが逃げてしまったのです♪」
「…だから、単独行動はしたらダメって言ったのにゃ…」
「冗談抜きでリーダーの資質0だな、あのクズ。」
俺が立ち直ってパーティに戻る頃には、既に約3日が過ぎていた。ついでにいうと、エフの街の調査はいつの間にか終わり、一行は別の街へ到着していた。