単独行動
進めば進むほど空気が悪くなる。周りの景色も殺風景過ぎて、修羅の国に迷い込んだような気分だ。
「帰らせんぞクズ。」
ドワーフが俺の心を読むので、さらに気分が悪くなる。
「ところで…“何か”ってどうやって探すのにゃ?適当でいいのにゃ?」
「探し方なんか俺も知らねえ。でもまあ、ここが安住の地なら何もしなくても見つかるだろ。」
多分だが…この“何か”ってもんは形のあるものじゃないと思う。
具体的なことは未だに分からないが、安住の地であるなら“何か”もなければいけない。
「セカイ…まさか“何か”って別の女だったりするにゃん?」
「ちがう。女はもういらない。」
「クズが。」
本当のことを言うとクズって言われる。どうしろと?
「クズは動けば動くほど悲しみを生むのだから…死ねばいいのだ。」
「俺の心読むのやめろ!というかドワーフ、お前は俺に死んでほしいのか!?」
「ただ死ぬだけじゃダメだ!なぶり殺しにしたい…私にそれだけの力があれば…!」
やっぱり敵じゃないか!
まじめにコイツを連れてて大丈夫なのか…?女はもういらんが、交代ならオッケーだ。
「ドワーフ…あなたがセカイさんを殺したりしたら…私は…どうすればいいのです♪」
「…す、すまないロリヨージョさん…あなたの前でこんな話をするべきではなかった。」
「わ、私からも謝るにゃん!もとはといえば私がセカイに発言させたにゃ…ごめんにゃロジョちゃん。」
ロリヨージョさんの一言で全員静まりやがった。
なんで俺よりこの人の方が影響力がある?…いや、なぜか違和感はないが。
なんとなく重い空気を背負い歩いていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴…あれは美少女の悲鳴だ!」
「あ、セカイさん♪単独行動は…」
俺は咄嗟に瞬間移動し、パーティから離れて美少女を助けに向かった。
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「や、やめて!その汚らわしい手で触らないで!」
「オイラの手が汚いだってぇ~!?言ってくれるじゃねぇかぁ!」
ドワーフには悪いが…美少女が襲われているのを放っておけるほど、俺はクズ男ではないのだ。
…と思ったが、いや別に俺は悪くないじゃないか。むしろドワーフが悪いんだよ。
「その手を離せかませ犬!」
「な、貴様は!?ええーいオイラに刃向かうとは生意気なぁ~!」
なんだこの古臭いノリは…オイラとかいう一人称の奴なんて見たことないよ。
俺はアイキドウを使い、相手の拳を受け止めると同時に相手の顔も殴った。
「ぎゃふん!覚えてやがれぇ~!…ガクっ」
徹底してんな。あとお前のことは忘れるよ。
「よっわ。死なないよう手加減はしたけど…よし、死んではねぇようだな。」
襲われていた女の子は、その長いような短いような淡くてワイルドな色の良い感じの髪を少しかきあげ、どこからどうみても美少女な顔を俺に向けた。
「あ、あなたは一体…?」
もう連れはいらないので、さっさと立ち去る。
しかし彼女はそんな俺の足元を掴んだ。
「あ、あの!せめてお名前だけでも…!」
美少女にこんな風に懇願されると、さすがの俺でも折れる。
仕方ないから名前だけでも教えてやるとしよう。
「俺の名前…治糸世界だ。」
「あ…セカイ、さん!助けていただいて、ありがとうございました!」
せっかくだからクールに立ち去るか。惚れるぞ、ほら惚れるぞ、すーぐ惚れるぞ?
「…ま、今度は絡まれねぇように気をつけな。」
「はい…でも…」
ー 絡まれてるのは君なんスけどね。 ー
…は??
「英雄なんて聞いたからどんなもんかと思ったけど…とんだお人好しのバカッスね。知らない人に名前教えたらダメッスよー?」
「…っ!?」
なんたこの激しい痛みは!?体が動かねぇ…!!
「ほらー早く自慢の能力を使わないと!死んじゃうッスよー?」
「…ぁ…!」
なんだ、喋れなくなってやがる…!?うまく息が出来ねぇ!!
なんでどの能力も発動しねぇ…一体なにがどうなってやがんだ…このままじゃ、死…
「死んだら神様の所に行けるッス。また別の異世界にでも飛ばしてもらうと良いんじゃないスか?」
べつの…いせ、かい?
いやだ…エル、フ…ドワー…フ…ロリ、ヨージョ……さ……
「…この世界に君の居場所はないッスよ。」