足りない何か
「なんだこの白い塔は…」
俺の目の前には巨大な塔が立っていた。
ドワーフによれば、ここがオススメスポットらしい。
「大きいのです♪ドワーフ、この塔はなんなのです?」
「名前は…ドワーフの塔だ。」
なんでコイツの名前がついてんだよ、俺の名前つけろや!
「まぁこの名前は私がつけたのだが。」
「自分の名前つけちゃうドワちゃんのセンス…脱帽にゃん!」
「バカやろう、俺の名前にしろよ!なん」
「うるさい!黙れこのウスラトンカチ!」
よぉ、けがはねーかよびびりくん。
「ドワーフェ…」
「お、ドワーフェってドワちゃんのニックネームにゃん?悪くないにゃん!」
「あ、じゃあエルフはエルフェなのです♪我は…ロリヨージョエなのです♪」
「いや、拾わなくていいんだよ!ささっと調査しようぜロリヨージョさん!」
「貴様が最初に始めたくせに…チイトェ…」
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「そういえば、なんで他の連中を待機させるんだ?」
塔の内部を歩きながら、前から気になっていたことをロリヨージョさんに聞いてみる。
「ああ、それは…ほら♪あの二人はちょっと…♪」
「ちょっと?」
なんか言いにくそうだな。秘密にしないといけない事なんだろうか。
「まぁ言いたくないなら別にいいけど。」
「いえ、そういうわけじゃないのです♪ただ、その…二人のいない所でこんなこと言うのは、陰口みたいなのです♪」
「陰口?分かったよ、じゃああとで俺から伝えてやる。それなら陰口にならないだろ?」
「伝えないでいいのです♪そんなことしたら、我は嫌われてしまうのです♪死にたいのです♪」
「…あ、ああ分かった!絶対に伝えないから俺だけに秘密でこっそり教えてくれよな!ほら、俺から促したんだし陰口にはならないって!」
「…そうなのです?じゃあ…♪」
ロリヨージョさん…面倒くさい。
だが、これを口に出すと彼女は死ぬ。だから彼女と二人だけの時は正直な言葉を封印するべし。
「あの二人は制御が効かないのです♪だから、行く場所すべてでトラブルを起こすのです…♪でも、これは我が力不足のせいなのです♪情けないのです♪役立たずなのです♪」
「なるほど…それはロリヨージョさんのせいじゃないぜ。俺もあいつらの身勝手には困ってるんだ。むしろあいつらの身勝手をあの程度まで抑えるあんたは超有能だ!自信を持っていい!」
「ありがとうなのですセカイさん♪でもどちらにせよ、自分に自信を持てない卑屈な人間なことに変わりはないのです♪ごめんなさ」
俺はとっさに彼女を抱き締めてあげた。こうすると彼女は少しだけ落ち着くからだ。
「セカイ…さん?」
とにかく自信を持てるように誘導してやらないと。俺の話術スキルを使う時が来たようだな。
「その、なんだ、あんたには俺が居るんだ。俺に抱き締めてもらえる女なんてあんたしか居ないぜ?だから自信持っていいんだよ!」
どうだ、このキメ台詞は。
「…フフ、そうだったのです♪我にはセカイさんが居たのです♪死んだりしてる暇、なかったのです…♪」
なんとかなったか。少し焦ったが安心したぜ…
まぁ自信がない方がロリヨージョさんらしいけど、それでも少しくらいは自分のことを大切にしてやってもいい気がする。
「セカイさん♪我とあなたは一緒なのです♪」
「…あ、ああ。当然だろ?仲間じゃねぇか。」
…よくわからんが、なんか妙に引っかかる言葉だ。
無意識に、一緒に居られなくなる心配でもしてしまっているのだろうか?
「セカイさんは気付いてないかもしれないのです…♪でも、我とあなたは一緒…仲間なのです♪」
彼女は小声でなにか言っていたようだが、俺には聞き取れなかった。
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「なんだよこの塔、なんもねーじゃん。なにがオススメだよドワーフェ‥」
「セカイェさん、それが彼女のオススメ理由なのです♪煩わしい事柄もなにも無い…ということなのです♪」
「いや、そんなら何も無い世界を作ってそこで暮らした方が早いし!」
「…あ♪」
それは盲点だった、みたいな顔をするロリヨージョさん。最初に気付いてほしかったんだが。
「でもそれなら…♪自分で好きな世界創造して、そこに住めばいいです?」
「それは安住の地探しの前に一度やったが…なんか足りなかったんだよ。」
「なにか足りない?えっと、つまり…セカイさんは、そのなにかを探し中なのですね♪」
「まぁ、そういうことになるな。それがあるなら別に構わないが、多分ここには無いな。」
「難しいのです…♪でも、それは最初に教えてほしかったのです♪そしたら頑張って探したのです♪」
「…言われてみれば、そうするべきだったかもな。考えもしなかったぜ。」
安住の地をがむしゃらに探せば、そのうち足りない何かも見つかると思っていた。だが、ロリヨージョさんやエルフ、ドワーフにその何かについて話せば、もっと効率よく探せた可能性もある。ひどく曖昧なものだから、“伝える”なんてことは考えたことはなかった。
「…もういい。そろそろ戻ってあいつらにも伝えてくるか。」
「それが良いのです♪とりあえずドワーフェの塔はダメだった、ということなのです♪」
あれ?ドワーフェの塔になっちゃったのかここ。
まぁいいや、アイツにはお似合いだ。実に間の抜けた響きではないか。
「じゃあな、ドワーフェの塔…もう来ないぜ。まぁせめて、灯りくらいは灯しておくんだな。キリっ」
「セカイさん、意味が分からないのです♪」