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転生の理由

俺がこの世界に来た理由。それは神様の過ちだった。


前世の俺はただの高校生で、なんともない普通の日々を送っていた。普通過ぎて記憶に残っていないので、詳しく思い出すのは難しい。

一応、なんとなく断片的には覚えている。


小遣い節約のために、毎日カップラーメンを小分けにして食べて後悔したこと。

ドッグフードは意外とうまかったこと。食べてるところを親に見つかって叱られたこと。

TVの芸人の真似を教室の真ん中で披露させられた挙げ句、スベったこと。

学園祭でバンド出演しボーカルをやったこと。それに対する酷評を受けたこと。

いじめの常習犯の友達に追従するのをやめたら、標的が自分に移ったこと。

好きな先輩に告白してOKをもらったこと。その翌日に彼女がトラックに轢かれて死んでしまったこと。


そして、いじめの常習犯の元友達の正体が実は神様であり、そいつがトラックに轢かれたことで人類のステータスがMAXになったこと。

ステータスがMAXになった人類は超能力とも言えるほどの能力を手に入れ、瞬く間に銀河を制圧した。そして…まぁ最終的にどうなったかは覚えていないし、いまさら興味もない。

とにかく、そうして人類が強くなり過ぎることは神様にとってはマズい事だったらしい。神様は文明を無かった事にするために、世界を爆破するチートコードを打ち込んだ。しかし、そのコードが間違っていたせいで俺は異世界に飛ばされるハメになったのだ。


病院で神様から聞いた話では、「コードを打ち直すには、そのコードが歪めた因果の修復が必要」らしい。現在はその修復とやらを俺がやらされており、使用している能力は転生前に神様が俺に打ち込んだチートコードから生成された能力だ。


でも当時の俺は因果の修復とやらになんの興味も無かった。携帯小説で読んだ異世界転生を果たしたからには、無双しなければ気が済まなかったからだ。

俺はすぐにチート能力を使いまくった。その結果、俺は美少女に囲まれ、周りから賞賛され、悪を滅ぼし、ついに英雄・救世主にまでなった。俺が一言「これが正義だ」と言えば、世界は俺の定めたものを正義とする。「これは悪だ」と言えば、世界は当然のようにそれを悪とする。俺はこの異世界で欲しかったものを全て手に入れたのだ。


だが、そんな世界に俺は興味を失ってしまった。欲しいものをすべて手に入れたことで、この異世界に対する興味が無くなってしまったのだろう。手元にある全てが価値の無い玩具のように見え、感情を動かすことも無くなった。






安住の地を探し始めたのはこの頃だ。たしか今から5年前。

俺に追従するヤツらに囲まれることに疲れ、能力を使いひっそりと旅に出た。






…そういえば、ロリヨージョさんと出会ったのは5年前だったな。彼女が俺の目の前に現れた時、彼女は今よりも暗い顔をしていた気がする。昔から髪の毛は長くて、身長も俺より高かった…なんというか、俺にはお姉さんのように見えた。


{我も…あなたに着いていきたいのです♪}


開口一番、彼女はそう言った。そして、今まで彼女はずっと俺と一緒に行動してきた。

すぐ鬱になるロリヨージョさんはとても心配になる人だった。二人で居る間も何度死にたいと発言しただろうか…数えだせばキリがない。

でも、俺が困っている時はとても頼りになる人だった。なんだかんだでいつもあの人は俺を助けてくれていた気がする…



なんであの人は俺に着いてきたかったんだろう。なんで俺はあの人と行動することをやめなかったんだろう。

そうだ、思い返せば…俺は、あの人といるのが好きだった。






3年前にロリヨージョさんが連れてきたエルフとドワーフという二人の少女も、俺は嫌いじゃなかった。


エルフはよく俺にベタベタとくっついてくるが、今まで俺の周りに居た連中のような、俺の言いなりになるような子では無く、自らの意志を持っていた。


ドワーフも異常なほど俺を嫌っていた。でも、あんなに嫌われていたのに…おかしな話だが、アイツの反応を見るとなぜか安心した。



あの三人に囲まれる空間は、なんというか…とても居心地が良かった。

何度も衝突したが、結局はそれも含めて悪い思い出ではない。抜けてみて分かったことだが、俺はあのパーティのことが嫌いだったわけじゃないんだ。





…じゃあなんで、俺は抜けちまったんだろう。





そうだ、ドワーフに言われたんだ。



“肩書きだけで中身が無いから信頼に値しない”。



中身が無い。俺はその言葉を聞いた時、とても不愉快だった。

だけど…改めて考えてみると、今まで3年間も共に旅をした仲間にそんなことを言われるのか、俺は。

多分この世界で誰よりも俺の事を知ってるのはあの三人だ。だから俺はアイツらを仲間と思ってきたし、アイツらを少しは信用してきたつもりだ。


でも、アイツらは…少なくともドワーフは、俺のことを信用できなかった。それが事実だ。



“信頼を勝ち取れないセカイの方が悪い”。



エルフの言葉がフラッシュバックする。なんだか今になってとても刺さる言葉だ。

そうだ、俺は信じてもらう事を放棄していたのかもしれない。現状の居心地の良さにかまけて、仲間を中身の無い自らの慰めに使っていたのかもしれない。


…俺は本当に自分がやるべきことを見失っていたんだ。最後まで王様気分が抜けきらなかったせいで、アイツらを悲しませていたんだ。


「…ごめん、ドワーフ。」


別れる前、俺はアイツに酷い言葉を浴びせてしまった。ドワーフがあんなに怒ったのは初めてだった…よっぽど嫌な言葉だったんだ。




そうだ、もう俺は仲間を作るのはよそう。誰にも頼らず、一人で生きていこう。

そうすれば誰かを傷つけることもない。悲しみを生み出してしまうこともないんだ。



“クズは動けば動くほど悲しみを生む”。



今ならこの言葉の意味が分かる。






「見つけたにゃー!!セーカーイー!!」




!?この声って…


「エルフ!?なんでここに…!?」


声のした方を見ると、息を切らしたエルフが両手で膝をおさえながらこちらを見ていた。

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