治糸世界という男
「なぁロリヨージョさん。エフはどうなったんだよ?」
俺が引きこもっている間に、いつの間にか終わってしまったエフの街の調査について聞いてみる。
ロリヨージョさんは困ったように微笑みながら、成り行きを説明してくれた。
「セカイさんが転移してしまったあと我らだけで街の調査を続けることもできたのですが…あの街はセカイさんが住める場所ではないと思ったので、すぐに切り上げて別の場所を調査しにいくことにしたのです♪」
結局、俺はあの街には住めない判定になったのか…
まぁいいか。どうせあそこに住みたいとは思ってなかったし、もっと楽園みたいな所があるなら、できるだけ早くそちらと出会うべきだ。
「で、この街でもお前ら二人は待機はしないんだな?」
今回もエルフとドワーフが着いて来ている。エフではどこにいても絡まれることは確実だったので、安全な方が良いと全員で調査にあたったのだ。
しかし今回の街はシーだ。エフと比較するととても治安の良い国だし、興業も盛んな華やかな街だ。こういう街なら別にこいつらが居る必要はないのでは?ていうか問題起こすんだろ、コイツら。
「ロリヨージョさんが呪術師に襲われぬように護衛しないとな。」
「これからはできるだけ固まって行動しないとまずいにゃ。個々で襲われたら確実に全滅にゃ。」
呪術師?ははぁ、コイツらエフでの一件をまだ警戒してんのか。
一度は俺とドワーフの力を見せ付けたんだから簡単には襲ってこないだろ。そこまで万全に準備して構えておかないでも、気楽に肩の力を抜いていればいいのに。
「セカイさん、実はドワーフはあの時カストという呪術師に恨まれてしまっているのです♪相手は邪な領域に住む者…人の道を外れた方法で復讐にくることもありますから、警戒は必要なのです♪」
なるほど、恨まれている…か。きっとドワーフのやつが悪いことしたんだな。ったく、隙あらば暴言を吐くせいで色んなやつに喧嘩を売るなぁ。
「ま、俺と居れば大丈夫だって!なんとでもな」
「貴様の単独行動がどれだけ厄介事を呼んだのか分かっているのか?」
「セカイだけに任せたらゼッタイにおかしな事になるにゃ!」
相変わらず全然信用されていない。仲間を信じられないとは…嘆かわしいことだな。
「お前ら…一応俺が世界最強の英雄だってのは分かってんだろ?なにをそんなに心配することがあるんだよ…」
「肩書きだけで中身が無いから信頼に値しないんだ、クズが。」
…なんだと?いくらなんでも言っていいことと悪いことがあんだろうが。
「ドワーフ♪言い過ぎです♪」
「…すまない、ロリヨージョさん。」
クソが、意地でも俺に謝らないつもりかドワーフ。今ので俺はめちゃくちゃ不愉快になったんだが?
「中身がないってことはつまり、俺が能力だけの人間だって言いたいのか…?」
「セカイさん…♪今のはそういう意味では…」
「ああ。それのどこに間違いがある?事実を言ったまでだ。」
「ちょ、ドワちゃん…冷静になるにゃ、落ち着くにゃん!」
ふざけやがって、なにが事実だ?俺はそんな薄っぺらい人間じゃねぇよ。
だいたい、コイツは俺より弱いクセに偉そうな態度ばかりとりやがる。能力の無い自分が情けなくて、そのストレスを俺にぶつけてるだけだ!
「なぁ、俺に嫉妬してんだろドワーフ?お前に無い力を俺は持ってるからな。」
「貴様に嫉妬したことなどないが。」
「隠しても無駄なんだよ!お前は俺の前じゃ無力で、俺みたいな力を振るう事はできねぇ!俺のように護りたいヤツを護ることもできやしねぇんだ!それが事実…」
まんまと挑発に乗ったドワーフが、顔に青筋を立てて俺の胸倉を掴む。
「貴様…いい加減にしろ、殺されたいのか?」
「!?へ、へへ…単細胞なやつだぜ。少し挑発しただけですぐ…」
「やめるにゃ二人共!こんなことでパーティの統制が崩れたら…!」
なんだよエルフ、仲裁役でもして俺に気に入られるつもりか?
どうせコイツだって打算で俺の周りに居るだけだ、忌々しいっ!
「黙ってろよエルフ!!今はテメェの出る幕じゃねぇんだよ!!」
「…っセ、セカ…イ…」
「あ…セカイさん…我は、我は…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「貴様、エルフにまでっ…到底許せんぞ、チイト・セカイ…!!」
「誰がお前に許してもらおうとした?知らねぇよ俺は、なんも知らねぇ!あとはテメェらで好きにやりゃあいい!俺はもう抜けるぜ、こんなクソパーティ!!」
「あっ…待つにゃんセカイっ!!単独行動は…!!」
俺は転移の魔法を使用し、ドワーフ達を置いて別の場所へと向かった。
俺が居ないことでせいぜい苦しむがいい、ドワーフ。お前は結局無力なんだ。