第一話『謎の本とガスマスク』
────そこには剣撃が鳴り響く。
魔法が飛び交う。
怒号が聞こえる。
勇気に満ち溢れた声が聞こえる。
2350年9月26日。この日、英雄ディアナと魔王どちらかの命が消えようとしている。互いに怪我を負わせながら、怪我を負いながら決着を付けようと戦っている。
しかし終わりはそれからすぐにやってきた。ディアナは魔王の力に押され、剣を弾き飛ばされ倒れてしまった。
「終わりだ、ディアナ!」
「っ...!」
すかさず魔王は剣を振り上げ、怒りをぶつけるように振り下ろした。
「...変な終わり方」
西暦2785年、大図書館でそんな本を読んでいたのは智草ハルヤという男。彼には大きな特徴はなく、一般的な青い目にストレートヘアーの茶髪は整えられており、また青を基調とした服装をしている。身長は167cmで、歳は28歳だろうか。性格は良い方ではあるが、僕系かと思いきや俺系である。
読んでいたその本は、題名も作者も不明のもの。ただ、英雄と呼ばれるディアナという女性について書かれた小説のようであった。そして最後は、ディアナが殺されて終わっている。しかしその後にも白紙のページがあった。ペラペラと捲ってみると、最後のページに
『ミえるモノエイユウのソバに』
と書いてあるのを見つけた。
「見える者は...英雄の傍に、いる...?なんだそりゃ」
さっぱり意味がわからなかった。だけど、何故だかこの本を持っていたいという気がしたので買うことにする。
といっても、この大図書館には通称書主と呼ばれるばあさんがいて、本を持っていくと買ってもいいかだめかを言ってくれる。
「なんだいこの本は..ふむ...」
このばあさんは多分世界一の速読術を持っている。何故かと言うと、今まさに本を見せてほんの2秒で読み終わったからだ。
「...40ロメね」
もちろん値段も判断してくれる。値札なんてついていないしね。
「ありがとう」
きっちり40ロメを払って家路につく。
それにしても不思議なものだ。大抵は図書館に来ても本を読み漁るかたまに買ったりもするが、今回ばかりは買いたい衝動に駆られたような気分を感じた。
ここはアテアト王国の首都、ベッシュ。円状に広がっており、更に20mの壁に囲まれ、中心には王様が住む大きな城が建っている。
「あっ、ハルヤくん、今キャベツが安いよ〜」
帰る途中、話しかけて来たのは行きつけの八百屋のおばさん。一人暮らしを始めてから通っているうちに、まるで俺がおばさんの孫か息子みたいな仲になった。おばさんはそれほど気さくな人なのだ。
「へぇ20%割引。安い...じゃあついでにニンジンを」
「まいどあり〜!」
俺は少し考えただけで買った。安いのが確定している時に買った方がいいだろうという非ギャンブル精神からかな。
「あら、ガっちゃんいらっしゃい!」
会計を終えると、1人八百屋にやってきた。左を向くと、そこにガっちゃんと呼ばれる人がいた。いや、まず人なのか怪しい。
黒いガスマスクに手袋に靴にフード付きのマント。恐らくマントの内側も真っ黒なのだろう。とにかく肌も髪の毛も一切見えない。ガスマスクのゴーグル部分から目とかが見えるかと思ったが、それも恐らく見えないだろう。その上、長剣を背負っている。
「ハムとレタスを頼む」
「はいよー」
身長は、恐らく172cmくらいか。その身長と出で立ちからできた想像通りの声の低さだ。俺の嫌いなタイプかもしれない。そして恐ろしさも感じる。
「ありがとう...」
彼も会計を終えると、一瞬こちらを見た気がしたがすぐに立ち去って行った。
「...あの人は誰?」
あのガスマスクの人物について気になった俺は、おばさんに聞いてみた。おばさん界隈は意外とすごい情報網を持ってたりするから。
「あら知らないの?先週隣街から引っ越してきたガルマって人よ。どうやら軍の人で、更に特殊部隊の隊長さんらしいのよ」
「へぇ、軍の人...」
確かにあんなにがっしりした剣を背負ってるのは軍人くらいなものだ。そう思ったし、特殊部隊の隊長となると相当強いんだろうなとも思った。