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ヤンデレ奴隷とご主人様  作者: まいまい
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side岬

岬視点です。

side岬


始めは、便利だから使っていただけだった。

あたしの命令には嫌な顔一つせずむしろ嬉々として従う便利な駒。


変なやつ。それが彼女ーー遥への素直な感想だった。


確かに、あたしは虐められていた遥を助けた。でも、それは決して善意からでた行動じゃない。ただのついでだった。

あたしのいるクラスに虐めなんてする低脳が存在し、彼らと同じ空気を吸うことがが我慢できなかっただけ。


だから遥を助けるつもりなんて、本当になかった。

でも、遥にあたしを見て「救われた」なんて表情を浮かべられたら、流石のあたしでも良心が疼き、邪険にすることはできなかった。


それから、遥は事あるごとにあたしについてきた。


中学校に上がっても、あたしたちの関係は変わらなかった。

あたしが命令して、遥が黙々と従う。

今思えば側から見ると異常な光景だったと思うけど、あたしにとっては小学生の頃から慣れ親しんだ事だったから、とりわけ気にもならなかった。


あたしの心情に変化が訪れたのは、部活の時だった。

あたしにくっついて当然のように同じテニス部に入った遥だが、なんというか、そのーー、艶めかしいのだ。


上気した表情、滴り落ちる汗、緩く閉められた襟元から覗く少し大きめの胸。


気づけば、そんな事ばかり考えている自分に困惑した。



そんな日が続いたある日、あたしは同じテニス部の部員に告白された。


「手紙でも言ったけど、岬さんの事が好きです!俺と付き合ってください!」


この男子のことは知っている。女子部員の中で密かに人気を集めていて、それとなくあたしのことをちらちら見ていた男子だ。


ーあたしのことが好きだったのか。


そうどこか他人事のように感じる一方で、あたしは少し違和感を覚えた。


ーー手紙?


特に心当たりはない。でもどうでもいい相手だったから、特に調べたりはしないで適当に流した。


あたしと付き合うなら、よほどのイケメンか高学歴じゃないと。

あ、それとできれば素直な人がいいな。奴隷としてよく働いてくれそうだ。


奴隷といえば、遥だ。

彼女はいつまで、あたしといてくれるんだろう。

遥はあたしにとって、もう自分の手足と同義なぐらい、一緒にいて当たり前の存在だ。


でも、いつかは別れの時がくる。


遥はとても可愛いしプロポーションも良い。いつかはさっきのあたしみたいに告白でもされて、どこかの男と過ごすようになるのかな。


想像すると、なぜかあたしの胸にチクリと痛みがはしった。



それから数日経ったある日、あたしはいつもより少し早く家を出た。進路についての提出物を出さなくてはならなかったから。


時刻は8時15分。下駄箱へと向かうと、そこにはすでに遥がいた。


何してるの?と話しかけようとして、少しおかしいことに気づいた。

遥が立っているのはあたしの下駄箱の前だ。

彼女の下駄箱はもう少し奥だったはずだ。


様子を見守ることにする。すると遥は徐にあたしの下駄箱を物色しだし、そこから1枚の手紙を取り出した。


自惚れじゃなければあれはあたし宛のラブレターではないだろうか。

どうするのだろうか。さらに見守ると、遥はラブレターをビリビリに破り出した。


彼女の横顔は無表情で、それが逆に怖かった。


その日、何食わぬ顔をするのがとても大変だった。




高校時代。あたしはこれ以上遥といたら何が起こるか分からないという恐怖から、少し、いや、かなり無理をして県内トップクラスの高校へと進学した。


自慢じゃないが、あたしはかなり成績は良い方だ。何回か学年1位をとったこともある。

そのあたしですら手を焼いた学校だ。平凡な学力である遥が受かるはずもない。


これで遥から離れられる。そう思っていたけど。


あろうことか、遥はここですらあたしについてこられた。あの高校に見事に受かってみせたのだ。


「これからもよろしくお願いしますね、岬さん」


そう言いながらはにかむ遥にあたしはどうしようもなく戦慄した。


それからの3年間、遥はさらにあたしにべったりとつくようになった。


逃がしませんよ。そう言外に言っている気さえした。



大学時代。どうやっても遥から逃げられないと悟ったあたしは、分相応な大学へと進学した。


遥とはもう長い付き合いだ。いい加減、分かってくる事がある、


あたしはどうやら、遥の事が性的な意味で好きらしい。


高学歴ではあるけれど、イケメンでもないし、ましてや男ですらない。女だ。


それでもあたしは遥の事が好きみたいだ。


あの今では豊満に育った胸に触れてみたい。股を弄りたい。キス…だってしたい。


逃げるのは無理だから諦めた、なんて自分に言い訳を一応はしたけれど、心の底では違うことを自覚しつつ、あたしは今の遥との日常に満足していたんだ。


このままずっと彼女と過ごすのも悪くないな。そう思っている自分が確かにいた。


でも、あの事があった。



「遥ちゃん、俺と付き合ってよ」



中学、高校とあたしたちはテニスを続けてきたから、勿論大学でも続けるつもりでテニスサークルに入っていた。


遥にはテニスが好きだから入る、と伝えてあるが、本音は違う。汗で上気した色っぽい遥をあたしが見たかったからだ。


そんな時、遥が男から告白された。


相手は、まあ、一応このテニスサークルのエースみたいな存在だ。テニスが1番強いし、背も高い。それなりにイケメンで、女癖が悪いとも聞かない。この大学にいる時点で高学歴なのは分かりきっている。優良物件であることは間違いない。



まあ、それが何だっていう話だけど。



あたしは声を荒げ、遥を男から遠ざける。

遥をあたしから奪おうとしている。この男は敵だ。

だからあたしは敵対モードに移行し、そのままの勢いで遥の唇を奪った。


ファーストキスだった。

遥の唇は思っていたよりも小さく、柔らかかった。

それでいて、どこか甘美だった。


遥は最初こそ身体を強張らせていたが、次第に弛緩し、瞳からは次第に驚きの色が消え、妖しい熱を灯しだす。


蕩けた表情であたしを見る遥の事が、愛おしくてたまらなかった。


その日、あたしは遥をテニスサークルから抜けさせた。勿論あたしも一緒に。遥がいないならいる意味なんてない。



それからしばらくして、あたしと遥が百合カップルだという噂が大学中に流れ出した。

あれだけのことをしたんだから当然だ。

でもあたしにとっては構わないどころか嬉しい噂だった。これであたしにも遥にも悪い虫がつかなくなるだろうから。


でも、それと同時にあたしは別の恐怖に襲われた。


あんな事があったのに、遥はあたしに対する態度をまるで変えない。

同性から衆目の前で唇を奪ったというのに、全くと言っていいほど普段の遥と変わらないのだ。


意識しているのは、あたしだけ。


ひょっとして、あたしは遥からすればどうでもいい存在なんじゃないのか。


それが怖くて怖くて怖くてたまらなかった。



だからある日、あたしは適当な理由をつけて遥を遠ざけた。


10年間連れ添った半身のような存在が いないのは、やはり寂しい。それと同時に、あたしは得体の知れない身を焦がすような恐怖を覚えていた。


遥がいない、遥がいない、遥がいない。


ーーーーー遥。





遥はいつもよりかなり遅く教室に入ってきた。その姿を確認した瞬間、あたしは全身から力が抜けるのを自覚した。


遥は狂ったようにせわしなく首と視線を動かしあたしを見つけると大輪の花よような笑顔を見せる。


思わず手元に引き寄せたくなるが、グッと堪える。

近くに来ようとする遥に意識して「来ないで」と冷たく告げる。顔は見せられない。今の自分はきっと、どうしようもなく泣きそうな顔をしているだろうから。


こっそり盗み見る遥はこの世の終わりみたいな顔をしたいた。ごめん、遥。身勝手なあたしを許してほしい。


依存することはいけないことだ。


あたしには両親がいない。父はどこかで生きているかも知れないが、母は死んだ。


別に珍しい話じゃない。

父が他に女をつくり家を捨て、母がショックで病に伏せ死ぬ。

日本に3桁ぐらいの家庭はあるんじゃないかな。知らないけど。


そんな母を見て、あたしは決めたんだ。誰にも依存なんてしないって。


だから、小、中、高、大と仲のいい友人はいるけど、遥のように自分に深く食い込んでいる存在はいない。


仲良くなればなるほど、依存すればするほど、裏切られた時悲しいから。


母のことを間近で見てきたあたしはよく知っている。



だから、ごめん。



あたしはもう、遥とはいられないよ。








放課後、少しやる事があって教室に残っていると、珍しく教授から声がかけられる。


「岬。遥と何かあったのか?」


「…何もないです」


視線を僅かに逸らしつつ答える。


「そうなのか?いつもべったりなお前たちが今日はなぜか離れてたし、遥は泣いてるし。


「…え?」


遥が…泣いてた…?


「泣くばっかりで、何を言っても反応しないし、時折、岬の名前を呟くし」


「!!」


「お前たち、本当に何もなーー」


最後まで聴く前に、あたしは教室から飛び出していた。


背後からの教授の声を背景に、あたしは全力で駆け出した。















次回、完結です。

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