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食堂に行きだしてすぐ剣の練習を第四騎士隊のときだけ行くようにしたので練習に行くたび第四所属のステイシーに会った。
ステイシーは私より一つか二つ年上でいつも落ち着いた雰囲気があり話しやすい相手でしかも数少ない女性の友人だった。
ジェーンも年頃の娘にしては冷静だと言われ自分でもそう思っていたが両親が健在のジェーンとは違い、弟と二人で屋敷や領地の仕事に携わりさらに騎士の仕事をしているステイシーはまた特別だった。
練習の終わりに今、町の食堂で料理を習いに行っている、と話すとステイシーがその食堂に自分も習いに行きたいと言いだした。
いつなんどき、騎士団の野外訓練が当たるかわからないのでそれまでに少しでも料理ができるようになっていたい、ということだった。
ステイシーは騎士団に入って約四年の女性騎士なのだがすでに二度も野外訓練を受けていてこれは他の人に比べると入隊年数の割には多いのだそうだ。
この訓練はくじ引きで訓練を受けるものが決まると噂されるくらい人によって何回も行かされたり、反対に一度も行ったことがない人がいたりした。
「次の演習に備えて料理を習いたいと思っていたところなの」
ステイシーは伯爵令嬢なので家で料理をする必要がなく、しかもステイシーが自分で料理をすることを家の料理人や弟が嫌がるそうなのだ。
それでも肉をさばいたり野菜を切ったりすることはできるというので食堂のおじ様に引きあわせてみた。
面接のようなものだ。
ステイシーは手土産にお酒を一本持って来ていた。
私は内心、ここのおじ様はお礼を受け取らない人なので逆効果にならなければいいけど、と心配していた。
しかしおじ様はお酒のラベルを見るなり、明日からでも教えよう、と言い大切そうに酒瓶を抱えて裏に引っ込んだ。
もう一人、料理を習う話を横で聞いていたのはステイシーと同じ第四騎士隊のエイダだったが数日後、私も習ってみたいと言ってきた。
面接には、少し前に父親が外国に行ったときに買ってきたという香辛料を何種類か持参していた。
家の料理人も使っているが年に何度も外国に行くという父親が土産としてたびたび買ってくるので家にはいつも過剰にあるのだそうだ。
エイダは超がつくほどの美人である。
料理はしたことがないし、ちょっとやってみたいだけなので続くかどうかわからないと、もはややる気のなさを前面に出し、普通なら相手の気分を害したかも知れなかったが美人のなせるわざでそれならそれで、と相手は納得した。
じゃ、気が向いたとき来たらいい、おじ様は庶民には手の届かない高価な香辛料を手に取ると奥に行ってしまった。
エイダと香辛料のどちらの魅力に負けたのかはちょっとわからない。
ただもうこれ以上、料理を教わりたいという人を店に連れて来ては駄目だ、とおじ様は私に言った。