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食堂

私は父に、お前は多分この国の貴族とは結婚できないだろう、と言われた。


残念だが仕方ない。

負け惜しみに聞こえるので誰にも言わないが本当は、今まで会ったことのある人で結婚したいと思った方は一人もいないから別にかまいません、と声を大にして言いたい。


こうなったら結婚相手を貴族以外で探していくしかない。

父に呆れた顔をされたが他にどうすればいいのか私にはわからなかった。

たとえ庶民の方であろうと私が、この人、と思えるならかまわないのだ。


庶民の方と結婚するには掃除、洗濯、料理など家事全般が一人でできることが必須となるようだ。

とりあえずこの三つの中なら料理はできそうだ、今まで料理長に料理を習っていたから、と言っていたら料理長に、私が作る料理は庶民向きではありません、と言われてしまった。

厳選された材料を使った手間と労力と技術のかたまりです、と。

執事に聞くと、母お気に入りの料理を作るうちの料理長は料理人の間では有名人、とのこと。

そう言われてみれば料理長と私、二人で仲良く料理をしている間も他の料理人は忙しそうにしていたけど、うちの屋敷の人数に対して料理人の数がずいぶん多いな、と思ったことがある。

いろいろな伝手でうちの料理長のもとへ修行に来ている見習いの料理人の人たちで父が雇ったわけではないのだそうだ。


と、いうわけで私は今ほぼ毎日、町の食堂に通っている。

今まで得意にしていた料理が世間で一般的ではなかったことにショックを受けた。

掃除と洗濯はできなくても生きていける気がするけど食事はとらないと生きていけない。

なんとしても習得する、そう心に決めた。

午前中早めに食堂に出向き、お昼の仕込みの手伝いをしながらこの店の店主であるおじ様から料理の作り方を教わっている。

比べるまでもなく野菜の皮の剥きかたひとつにも違いがあって、料理長は材料を同じ大きさに揃えるために皮を厚く剥くことがよくあったがここではできるだけ皮は薄く剥き、捨てるところを少なくしている。

旬の野菜は皮を剥かないこともたびたびあった。

飾り切りをすることもない。

料理の盛り付けも料理長はお皿に絵を描くような盛り付けにするけどここではただただ、たっぷりとよそったものを客に出していた

そしてそれが熱々で美味しかったりする。

美味しいにもいろいろな美味しさがあったのだと感銘を受けた。


そんな大袈裟なもんじゃないからとっとと剥きな、おじ様はそういうとぷいっと調理場から出て行った。

ナイフと野菜を持つ手の動きが止まっていたらしい。

ぶっきらぼうな言い方はおじ様の照れ隠しなのだそうだ。

娘のクロエが横で笑っていた。


おじ様は元軍人でかわいらしいお嬢さんがお二人いらっしゃる。

クロエは下の娘で私より二つ歳が下だという。

大きな黒の瞳が魅力的で笑うとさらにかわいらしくなる。

上の娘のサラさんは私より1歳年上なのだがすでに結婚されていて旦那様のラルクさんとこの食堂の近くに家を借り、そこからここに通っている。

ラルクさんはおじ様の後継者になるべく、目下修行中の身であった。


さっきからおじ様と言っているが親類ではない。

食堂の主人であるおじ様が以前軍人だったときに将軍である私の父と面識があり、直属の部下ではなかったそうだがその伝手で私がここに料理を習いに来ている。

おば様の実家を継いだという食堂は美味いと評判の店なのだそうだ。


料理の仕込みが終わって店を開いたら私は店で給仕係として働く。

主に近くに住む人が食べに来るが最近は美味しいと聞きつけて遠くからの客も増えているらしい。

昼の繁忙時の給仕をサラさんと二人でこなす。


クロエは仕込みが終わったら先に市場に行っているおば様と合流するため出掛けた。

卸業者から買うよりも市場で安くいいものを手に入れてくるのだ。


以前はクロエも給仕係の仕事をしていたが年頃となり急にきれいになったクロエを目当てとする客が増え、おじ様が買い出し係にしてしまったのだ。

「お前みたいなやつが来るからな」

そう言うとサラさんの夫のラルクさんをじろっと睨んだ。

もとは薬を扱う行商人として外国にも行く仕事をしていたらしいのだけどサラさん目当てでこの店に通ううちに思いが伝わりめでたく結婚となったそうだ。

お嫁に出すつもりがなかったおじ様は激怒し反対をしていたらしいのだが、食堂の仕事を手伝い近くに住む、という条件で渋々了承したという。

ラルクさんは国境近くで薬を扱っている店の三男とのことだった。

ラルクさんのところもせっかくの働き手を嫁側に取られてしまうので渋ったそうだがラルクさんが少し広めの家を借りて、うち一部屋を王都での薬の在庫部屋に充て管理をしながら手伝っていく、と両親を説得したそうだ。

そうはいってもこの店は昼間は食堂として営業し、夜はおじ様とラルクさんの二人で酒場として開けているのでその上薬の仕事までとなると大変だと思う。

しかしラルクさんはへらりと笑ってどの仕事もやりがいがあるし何より好きな女と結婚できたんで頑張れますよ、と言った。


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