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        9.

移動の馬車の中でレテイは将軍夫人から主に公爵の親戚関係の話や貴族に関する噂話、他にはマナーについてを聞いて過ごした。

代わりにレテイは自分が好きな画家の話や有名な絵や彫像が作られたエピソードを面白おかしくしゃべって将軍夫人を楽しませた。

ローザにも興味が持てるようわかりやすく、楽しめる話を多く選んで話したため、すっかりレテイの話に感服したローザは今度一緒に美術館に連れて行って欲しいとねだった。


一ヶ月後レテイは無事、実家に送り届けられた。

将軍夫人とローザには感謝の言葉を述べ、近いうちにウエストコートランドへ伺います、と約束をした。


最初レテイは家族から結婚後初めてでしかも久しぶりの里帰りだったので大喜びで迎え入れられたが帰ってきた事情を説明すると父親は呆然とし、母親からこっぴどく叱られた。

長兄からは呆れてものが言えない、と言われ次兄には大笑いされ、弟からは「トレントに許してもらえるようこれから毎日お祈りをするべきだ」と言われた。



次の日


「なになに、どうしたの?」

と長兄の妻のエドナがレテイの部屋にやって来た。

エドナは昨日実家に戻っていたのでレテイに直接事情を聴きに来たのだ。

レテイとエドナは大がつくほどの親友で、エドナが長兄と結婚することが決まったときは、よくやった、と心の中で長兄を褒めた。

目を引くような美人ではないがエドナの笑顔と人柄の良さは真似できるものではないと友であることを自慢に思っている。

 

レテイの結婚式が王都で行われたとき、エドナは二番目の子供を産んだばかりでとてもではないが王都に行ける状態ではなかったため会ったのは長兄とエドナの結婚式以来の三年ぶりだ。

以前はやせっぽっちだったのに出産後すぐで幾分ふくよかになったせいかずいぶんと綺麗になっている。

そう言うと、あんたもね、と言われた。

お互い女同士で器量を褒め合うのはなんだかしらける。

「そんなことより家の中が変な空気なんだけどいったいどうしたの」

と三年ぶりを感じさせない口調でレテイに詰め寄って来た。




エドナは

「五年間も王都にいながらいったい何をしていたの」

と呆れた口調でレテイに聞いた。

「わかってる。皆んなに言われたから」

小さな声でぼそっと言った。

「仕事上でのつき合いとはいえ五年も一緒にいながら、しかも結婚した後も公爵の息子と知らずにいたなんて、あんたってすごいわ」

感心している風だが遠まわしに責められているとわかった。

「もう言わないで。貴族に興味がなかったから、としか言いようがないの」

「周りの騎士は貴族ばっかりだ、って手紙に書いてきてたわ」

「だからよ。私、地元ここに帰って結婚するつもりだったからしょくばで誰になんと思われようとかまわない、と思ったの。貴族の事情に詳しくなければ知らぬ存ぜぬで通すことができるはずで、仕事に身分プライベートを関わらせないためのいい考えだと思ったんだけどな」

「考え方が極端すぎよ」

「そう?だけど彼も公爵家と思えない言動をするの」

「知ってるわ。お義父様に会いに来たから」

「そうだった!よくあんなので父さんが結婚の許可をしたな、って思ったんだけど」

「仕方ないでしょ。皆んな最初は、公爵の跡取り?嘘だ!、ってなったんだけど公爵トレントのおとうさまを知ってたお義父様が本物そっくりだって断言したのよ。本物の公爵の跡取りの申し出を地方の領主が断れると思う?」

「ああ・・・それで・・・」

「それよりあんたが手籠めにされて無理やり結婚することになったのかと心配したのよ」

「えー?そんな・・・」

だから父さんは兄さんと二人で慌てて王都に来たんだとレテイは今さらながら思った。


「私とお義母様はそうは思わなかったけどね」

エドナはそう言ってニヤッと笑うと

「これ、ありがとう」

と言いながらバッグをレテイに掲げて見せた。

レテイには見覚えがある。


「結婚の許可をもらいに来たとき、私にはこのバッグとお母様には高そうなブローチをくれたじゃない?」

と言うが、

「あんたと選んだって言ってたわ」

と言うが、

「一緒に持って来てくれたお菓子も美味しかったし、息子にはおもちゃまで頂いちゃって」

と言うが、

「今度、出産後初めてのお呼ばれがあるんだけどこのバッグを持って行こうと思ってるのよ。公爵家からの頂きもの、ってふれこみで自慢できるじゃない?」

と言うが、

「お母様は、こんな素敵なプレゼント初めてだ、って泣いたのよ。お義父様、肩身が狭い、ってぼやいていらしたわ」

と言うが、


・・・・・・知らなかった。


実家へのプレゼントだったなんて知らなかった!とレテイは顔をひきつらせた。


そのバッグはしょくばまで押し掛けてきた宝石商兼婦人小物商が持って来たものだ。


時期的にはたしかにレテイの父のところに行く直前だったが

「贈り物にはどれがいいか?」

と突然に聞かれ、てっきりトレントには愛人がいて、その愛人と手を切るための手切れ金代わりに渡す贈り物だと思い込んでいた。

ちゃんと手が切れるようにと願いながらレテイはそれぞれ一番素敵で一番高そうなのを選んだ。

レテイへのプロポーズに対しての彼なりの誠意だと受け取ったのだがその誠意はレテイの想像よりも高尚なものだったようだ。


貴族は結婚前に愛人と手を切ることが多い、切らねえ奴もいるけど、と騎士の男どもからの情報をそのまま自分に置き換えていた。

愛人と別れるなんて結婚を真剣に考えているのね、と。


「ひどい・・・ひどすぎる・・・」

エドナはトレントを気の毒がった。


周りの環境が悪かったのか、男というのはそんなもの、とレテイは五年の騎士生活ですっかり毒されていたようだ。


トレントはレテイの家族構成までしっかりと把握していたのにレテイはトレントが何者かということすら知らずにいた。


「公爵家だと知らなかったとはいえ結婚相手としてレテイが彼を選んだのよ。王都の教会で家族立ち合いの元きちんと結婚式を挙げて、一ヶ月とはいえちゃんと新婚生活を送っているのに今さらなかったことにはできないわ。逃げたりしないで覚悟を決めなさい」

ときっぱり言われ、うなずくことしかできないレテイだった。

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