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私たち兄妹と第二王子は同い年で9歳か10歳の頃王子の遊び相手として引きあわされた。
もう一人同い年の侯爵の跡取り息子を足した四人で親が忙しい社交シーズンはもちろんのこと、多くの貴族が領地に戻るシーズンを通して一年中ずっと会った。
大人たちの思惑で本来、女の私は遊び相手のメンバーに入っていなかったようだが兄のウイリアムが極度の内弁慶で知らない人とは遊べないと言い私が追加された格好となった。
その頃のウイリアムは私さえいれば勉強も運動も普通に何でもできるのに屋敷でも外でも私がいないと何もできないと言い張る困った奴だった。
四人とも同い年ということで本来追加の存在の私が女子である所以により精神年齢も体力も一番優れていたため他の三人の面倒を見るという役割に自然となっていた。
ウイリアムはもちろんのこと王子も侯爵の息子も私が剣の稽古をすると言えば稽古が始まり、釣りをすると言えば釣りに、散歩に行くと言えば散歩に、金魚の何とやらのごとくついて来た。
釣りに行くときは私が竿を用意し、餌をつけて糸を垂らしたら竿の持ち方まで丁寧に教え、お腹がすいたと言えば用意してあったピクニック用のバスケットから欲しいというものを取り出し、きれいに手が洗えているか確認してから渡す。
散歩の途中でこけたと言えば起こしに行き、土や草を払い、ハンカチを片手に泣いていないか顔を覗き込んで確かめた。
大体はうちの領地に遊びに来ていたため供はつけず私たち子供の四人だけで行動をしていた。
私は手のかかる兄が三人になったとあきらめ、世話係として徹した。
それはウイリアムたちが寄宿学校に行くまでの約三年間続いたがウイリアムが学校に送り込まれたと同時に私は三人から解放され、それはそれはホッとしたのだった。
「なんであいつ、私があいつと結婚すると思ったんだろ」
私はウイリアムの部屋に来ていた。
「あいつとか言うな、仮にも王子だぞ」
ウイリアムはドレスのまま長椅子に寝転んでいる私を見て顔をしかめて見せたが平気だった。
ただしこんな恰好を見せるのは家族の中でも双子の兄にだけだったが。
「私、みんなが寄宿学校に入る直前だけどマイルズにはみんなの前ではっきりと断ったわ」
五、六年前のことを思い出してウイリアムが笑った。
「はは、剣の模擬試合でマイルズをぼろぼろに負かした直後だったな」
「ここ何年、あいつと会っても強くなった話を聞かないし、今だって絶対私に勝てないはずよ」
「あいつじゃないだろ、マイルズという名前だ。もしくは王子と言えよ」
「そいつに私、ふざけるな、って言ってやりたいわ」
「そいつとか言うな、剣でお前に勝てる気がしないから練習はもうしないんだ、って言ってたけどそんなお前がお妃教育を頑張って受けている話を聞いて、イケる、って思ったみたいだ」
「何それ!騙されて勉強をしていた私のせいだというの?」
むっ、とする。
「じゃあ、王室の打診って誰の差し金?」
「大人は子供のときの喧嘩や言葉を本気にしないからね」
婚約話を言いだしたのはマイルズではなかったらしい。
「マイルズも騙されたというの?」
「気休めを言う人間が周りにいたってことじゃないかな」
ゴマを擦る人間ばかりが周りにいるなんてかわいそう――――――とは思えない。
「まったく! いつまでたっても単純クソ野郎なんだから」
「・・・・・・」