2.
不本意ながら隊長連絡係のレテイは騎士になって五年ですでに第二騎士隊中で一番の古株女性騎士になっている。
貴族女性の適齢期が早いせいだ。
先輩女性騎士は結婚をするといさぎよく騎士を辞めてしまった。
「お前売れ残ったな」
最近やたらとうれしそうに言ってくる隊長にレテイは本気でイラッとする。
レテイも地元にいたのならとっくに結婚していただろう。
だけど二番目の兄からの手紙によるとあと三人はレテイの結婚相手候補が残っている、と書いてあってレテイは全然焦っていなかった。
今は仕事が忙しいし、三人残っているのが一人になったら考えよう。
結婚するのが数年延びただけで地元で結婚、というレテイのレールはまだ敷かれたままで変わらない。
それならもう少し騎士を続けているほうがまし、のように思えるのだ。
レテイが仕事に生きがいを見つけようとしているなか、第四騎士隊から異動されて来る女性騎士はたった数年、早ければ数ケ月で結婚をすると辞めてしまう。
隊長のことを別にすると、いつしか第二騎士隊は男女言いたい放題の和気あいあい、他の騎士隊からうらやましがられるほどの団結力のある隊になっていた。
とはいえ男女が仲良くなると騎士同士、おのずと結婚する者が出てくる。
(第四騎士隊長にフラれ)傷心気味の女性騎士に男性騎士は親しげに近づいていき、相手が油断したところを見計らうと素早くがつがつと食べてしまう。
オラオラ系はいわゆる肉食系男子なのだった。
第一、第三隊でも同じ傾向にあるがそれでも入隊五年目のレテイより長い人がちゃんといる。
第四隊はともかく第一と第三隊は結婚した後も仕事を続けたり、出産後復職する女性騎士が何人もいるからだ。
オラオラ系は封建的で妻には家庭を守ってほしい、などとのたまう男が多いのか?とレテイは偏見を持っている。
「よう、売れ残り」
こんなひどい挨拶があるだろうか。
隊長のセクハラ発言には男女問わず周りも引いているというのに気づいた様子は一向にない。
三人いるから余裕余裕♪三人いるから余裕余裕♪
イラッとした気分は心の中でこの言葉を繰り返すと少し解消する。
「・・・まず、これですが、うちの隊の道具入れの部屋の鍵です。今月から新し錠前に変わったんで古い鍵は回収です。交換するので隊長保管分の前の鍵を出してください」
引き出しをごぞごぞと掻き回したあと<第二・道具>と書いた鍵を出してきたので代わりに新しい鍵を渡す。
「お前は結婚しねえのか」
「します。しますからご心配なく。ここにサインして下さい。これは将軍のところに提出する来月の第二騎士隊の予定表です」
女性らしいレテイの字で書かれた予定表を見せながら、この発言もセクハラに抵触するし人のことを言う前にまず自分が結婚すればいいのに、と思う。
数年前、隊長は将軍のお嬢さんにプロポーズをするため午後になると花やお菓子を持って毎日出掛けていた。
隊長の奮闘空しく他の人と婚約したことが新聞に載るとその新聞を開いたまま机に突っ伏していた。
レテイは横で仕事を手伝いながら肩を小刻みに揺らし泣いているようすの隊長のことを気の毒に思ったものだ。
よほど傷心だったのかそれ以来浮いた話の一つもない。
「・・・婚約者がいるのか」
「は?私ですか?いません・・・いませんがご心配なく。こっちは今月かかった経費の金額の合計です。サインはここです、この空欄」
いるならとっくに結婚してます、させられています、と思う。
適齢期を過ぎつつある女性にこの手の質問は本当にやめて欲しいがレテイの年頃になると避けられないことで他所でもしょっちゅう同じ質問に遭っている。
「好きなやつがいるのか?」
「えー、それは・・・とにかくご心配なく。これはトニーが怪我をしたときの状況を書いているので提出する前にこれでいいか一度目を通して下さい」
好きな人はいない、とはっきり言ってもよかったが、それじゃあ王都で世話をしてやるとか言いだされたら面倒なことこの上ない。
「なあ、レテイ。好きなやつがいねえなら、頼む、一生のお願いだ。俺と結婚してくれ」
面倒なことこの上、があった。
「・・・・・・こっちを読んだら今度はこれです。これはセスがモリーの店に寄ったとき怪しい男がいたのでその人相を書いています。つぎに・・・」
レテイは次々と書類を渡していった。
ふざけたことを言いだす男は無視するに限る。
だけど無視したことを無視されたレテイは次の日からも毎日隊長のプロポーズを受けることになった。




