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正体と招待

「見覚えは?」

グラントが後ろの二人を私に会わせるなり聞いてきた。

一人は顔を殴られたばかりなのか赤くなっていてすでにそこが腫れている。

髪は茶色、中肉中背のこの国の男性によくいるタイプの若い男性だが中流から上流階級の裕福な男性が着るような仕立てのいい服装をしている。

もう一人の男性も同じような服装で顔の腫れた男性を心配そうに見ていたがこっちのほうが見覚えがある気がした。

若い男のほうはせめて殴られる前の顔じゃないとよくわからない。

「・・・いいえ」

「よく見るんだ。顔だけじゃない、背格好を見て欲しい。それでこいつの体、全体をもっと太らせて無精ひげで髪をぼさぼさにさせて服装は平民がよく着ているシャツと作業用ズボンで・・・」

グラントが顔が腫れた男の人相を補足した。

「・・・わからないけど今言った人相と先日の切った強盗の人相は一致するのではないかと・・・」

「そうか、ちょっと殴ってしまったせいで少しだけ顔が腫れたからな」

それを聞くと顔の腫れた男性がわめいた。

「ああっ、もう!これをちょっと、とか少しだなんて!こんなことならあの時ちゃんと説明してから帰ればよかったですよ!!」


男性は名前をユアン・オーウェルと名乗った。


ユアンは判事を務める領主の三男で歳は十八歳、強盗グループなどの潜入捜査をしているそうだ。

もう一人のマシューという二十代半ばに見える男性はユアンといつもペアを組んで潜入している判事の部下とのことだ。

今回二人は潜入先の一味が商店主の家に強盗に入るという情報を判事に知らせた。


家に押し入ったところを待ち構える判事の配下の者たちで現行犯逮捕する予定だったのが、宿に羽振りのいい商人がいるという話を聞きつけた強盗たちが押し入り先を私たちが泊まった宿屋に急きょ変更してしまった。

仕方なく強盗に紛れたままユアンとマシューは宿の客にけが人が出ないように見守るつもりでその場にいたのだが思いもよらず客が反撃をしてきた。

それが私とダスティおじ様で、さらに自分たちの知り合いのグラントが加勢に出てきたのに驚いたのだという。

グラントがいるなら大丈夫だとユアンとマシューは退散することにしたのだが、その退散の方法はただ逃げるのではなく、相手を混乱させてその隙に逃げる、という常套手段を使った。


ユアンは変装のときには体に特殊な襦袢を身に着けるため潜入時には少し太った男になるのだそうで、常套手段とはユアンが誰かに切られるよう仕向ける、というものだった。

ユアンは相手に切られると仕込んである血袋を上手く操り、切った相手や周りの人に絶妙な量の血しぶきをかけていく。

その血に人々が驚いている隙に逃げながら早着替えをし、あとは人ごみや闇にまぎれると誰にも気づかれないのだそうだ。

誰もユアンのことを切らなければ相方のマシューがユアンを切るのだと言った。

また、襦袢はユアンの母の手作りで相手がざっくりと切ったという感触を手に残させながらも、息子の肌を傷つけないように工夫をされていた。


「なるほど。お前は男前でもブ男でもないし、背も高くなければ低くもない。太ってもいなければ痩せてもいないから変装を解くとどこにでもいる風体の男になるな。この役にうってつけというわけだ」

笑いながらトレントが感心したように言った。

いささか失礼な物言いにユアンが抗議の目をトレントに向けたものの、とりあえず無視することにしたらしく、

「この前は焦りましたよ。強盗たちがあっという間に片づけられていったもんでタイミングを逃したんです。グラントさんが近づいて来るけど殴られるのは嫌だったし、マシューに切られるには離れすぎていて、そこで一番小柄な男の後ろに廻ったんですけど、見て下さい、これ」

そう言ってユアンはシャツをガバッとめくった。

腹から胸にかけて私が切った太刀筋通りの傷がある。

「あ、レディの前ですみません。ほら、これ傷は治っていませんからね。あいつ、思いっきり切り上げてくるもんだから我が家特製の襦袢を真っ二つにしたばかりか俺の柔肌まで傷をつけたんです。マジで血が出て今でも痛いですよ。ったく、強盗を生け捕りにするつもりが無い人切りイカレ野郎だったんで・・・って、ああっ、痛い、グラントさんもう殴らないで下さい。俺、死にますから。うちの内情をしゃべらされた上にこんな殴るなんてひどいですよ。全て父上の命令で動いているのに」

ユアンは半泣きで頭をかばった。


「あの後、大変な目に遭ったんだ。俺だとわかったなら合図くらいできただろう」


あいつ、とか人切りイカレ野郎とは私のことだ。

グラントが大変な目、と言うのでお風呂のことを思い出した。

アレクは自分の早とちりのことを思い出したみたいで、すみません、と謝っていた。


「知り合いだったのね」

私が言うと

「領地が近いからな。最近判事が強盗や詐欺師のグループを一網打尽にして摘発していることを聞いていたし、その摘発の都度、致命傷を負っている者が逃げたという証言があるにも関わらず、死体が見つかるわけでもなければ判事が逃げた瀕死の者を探そうともしない、という噂を思い出したんだ」

「・・・じゃあ私、誰も殺してない?」

「ああ、誰も殺していない」

私の腰が抜けたところをグラントが支えてくれた。


グラントは事情が分かっていないであろうユアンに

「明日は私の結婚式なんだ。このまま泊まって式に出席してくれるだろう?お父上も披露宴に出て下さると言っていたから。傷は・・・あとで良く効く軟膏を持って行かせるよ」

そう言ってユアンの肩を叩いてからトレントとマシューにも

「もちろん君たちも出てくれ」

声をかけると私を抱き上げて屋敷に入った。




***

二人を見送りながらトレントが疑問を口にした。

「奴は誰だ?何で俺があいつの結婚式に出ないといけねえんだ?あいつが誰と結婚するのかも知らねえのに」


「ジェーンですよ。明日、こちらの伯爵とジェーンが結婚します」

アレクが言った。


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