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指輪の話

私が持っていた指輪の話をするのならずいぶん昔のことから話し始めなければならなかったけれどおばあ様になんと言って説明をすればいいのかわからなかった。

グラントにだって言ったことがないのだから。

だって彼は忘れていた。

彼は私のことをちっとも覚えていなかった。


だから私は二ヶ月前にグラントが初めて食堂に来たときのことから話すことにしたのだ。


彼が食堂に初めて来たとき、ちょっとタイプだ、と思ったのは確かで、気が付くと帰ってしまっていた客のことを残念に思っていた私は食堂からの帰り道でも未練がましく思い返していた。


会ったことのない貴族の男性・・・でも?

見たことがある気がしてきた。


人の顔を覚えるのが得意だったけれど子供の頃のことだったせいですっかり忘れていた。

あれは・・・過去の記憶が出てきて頭の中で繋がろうとする。


確かめなきゃ。


私は元来た道を引き返した。

着いたのは主に貴族が住むエリアのタウンハウスの前。

今日、店に来た客が本当に記憶の彼、かどうか、正直自信はない。

だからちょっと確かめるだけ。


最初に父に連れられて来たのが十年前、今まで何度も、誰もいないと知りつつこのタウンハウスのドアを叩いていた。

もちろん毎日ではない。

近くを通った時、なにか予感がしたとき、たまに思い出してはドアをノックをしに来るのだ。

そしてドアを叩いて空家だと確かめてはホッとする、その繰り返しだった。


そして今日も・・・私は思い切りよくカツカツカツとノッカーを叩いた。

出てきてほしいようなほしくないような気持ちで待つと建物の中から音がするのが聞こえる。

人がいるのは初めてだ。


ドアが開くとそこにはさっき店で見かけた客本人が出てきた。

あら・・・

私を見てひどく驚いているけどそれはそうだろうと思う。

数時間前にたまたま寄ったに過ぎない、しかも言葉を交わすこともなかった食堂の女がドアの前に立っていたら誰だって驚く。

「とっ、突然にすみません」

自分でドアを叩いておきながらだけど本当に居たら、というシュミレーションをしていなかったので私自身も驚いていた。

「そう、渡すものがあるんです」

焦っていたし、気が回らなくて名乗ることもしないまま、首にかけていたチェーンから素早く指輪を抜き取ると

「覚えているかどうかわかりませんけど以前、十年前にあずかったものを返しに来ました」

早口で言うと彼の手に指輪を押し付けてからは辞する挨拶もしなければ振り返りもせず逃げるようにして走って戻った。


「ああ、びっくりした」


どうやら彼で間違いないようだ。




―――それから間もなく、指輪と名刺を見比べながら悩んでいる男の元に従者は帰って来て、将軍は王都の屋敷に今なら居るそうです、と言い、次の日、男は従者を連れず一人で食堂に行くと女性の給仕係に名前をグラントだと名乗った。



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