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一方、二人の部屋のドアを隔てた廊下側ではジェーンとグラントがアレクの話を聞いていた。
聞くつもりはなかったのがドアが少し開いていて自分たちのことを話しているのが聞こえたため、つい盗み聞きをしてしまったのだ。
「あんなことを言ってるけどひどくない?」
聞き耳を立てていたジェーンは後ろにいるグラントを振り返り、小声で聞いた。
グラントは何も言わないが渋い顔をしていた。
二人は昨夜の強盗騒ぎのせいで宿の朝食の支度が遅くなっていたのだが準備が整ったことを伝えに来たのだった。
「ごめんなさい、私のせいね」
「大丈夫だ。もうすぐ誤解だとわかるだろう」
「名誉棄損で決闘を申し込んだらどうかしら」
「盗み聞きしたのがばれるよ」
馬鹿馬鹿しいことこの上ないがこんな話の最中の部屋には入りたくなかった。
ジェーンはこれでもグラントとイチャイチャするのを相当我慢しているのだ。
それなのによりによって男色だとは。
仕方なくアレクたちの朝食の案内は宿の者に頼むことにして自分たちだけひと足先に食事にありつこうと階下へ降りた。
うかつにも部屋の外で話を聞かれていたとは思わず二人はまだ話をしていた。
「そうは言うがやつの剣の扱いは王都の騎士団のものだ」
「騎士団にあんな奴いましたか」
「それが、ずっと考えているが思い当たらない」
「俺は見ていませんがめっぽう強かったんでしょう?」
「そうだな。グラント殿には及ばないだろうがなかなかの腕だ」
しかしあの剣筋はどこかで見たことがある、とダスティは頭をひねった。
ラルクは軽い調子で話を続けた。
「実はあの騒動のあと、伯爵とジョーの二人をつけて行ったんです」
「なんでまた・・・」
ダスティが咎めたように言ったがアレクは気にならないようだった。
「いや、それが聞いてくださいよ。ジョーの様子が変だったんで気になっていたんですけど伯爵がジョーを外に連れ出したんで俺、こっそりついて行ったんです。そしたら伯爵がジョーになんて言ったと思います?「初めてだったのか」って言ったんですよ」
「?」
「意味深ですよね。それでそのあと、「すまない。気づくべきだった」って言ってジョーを抱きしめたんですから。しかも伯爵は上半身、裸でしたよね」
「・・・」
「しかも「おいで、風呂に入ろう」そう言って二人は部屋に帰って行きましたからね。どう思います?」
「一ついいか?・・・黙ってろ」
伯爵と従者の話はたくさんだ、とダスティは思った。
二人がどんな関係だろうと関係ないしこれ以上知りたくない。
今回の旅の同行は将軍から、伯爵の領地まで二人を見守っていてほしい、と頼まれたからなのだがなぜ見守りが必要なのかわからない。
二人とも腕が立つし国の街道沿いを行くだけの旅、見守る必要があると思えなかった。
しかしダスティはすでに過ぎたがこの街道から少し戻ったところに自分の生家があり帰りの途、侯爵である兄に娘の婚約者のアレクを紹介することができると思い二つ返事で引き受けたのだ。
まさか伯爵と従者の関係を知ることになろうとは。
将軍もこのことを知って見守るようにと言ったのだろうか。
ダスティとアレクは遅くなった朝食にやっとありついていた。
考えたくはないのに伯爵と従者の関係がダスティの頭の中を巡っている。
「まだこんなところに居るとはな。危うく気づかずに追い越すところだった。ところで二人は?」
聞き覚えのある声がして顔を上げると将軍が二人が食事をしているテーブルの横に立っていた。
「役人が何人もこの宿に入って行くのが見えたので寄ったのだ」
二人の席に将軍も座った。
後ろに部下が数人控えていた。
「昨日、強盗がこの宿を襲ったんです。まだ二人捕まっていないはずですがそのうちの一人は手負いです」
「そうか、では同行の者をここに残そう。わしはジェーンに早く会いたい」
将軍がダスティを急かしたがダスティは将軍が何のことを言っているのかピンと来ない。
「はあ?ジェーンですか」
「ジェーンとグラントはどこだ」
「グラント殿は部屋ですがジェーンがどこにいるのかは知りません・・・?」
「何を言ってる。グラントと一緒にいるだろう」
将軍が伯爵の部屋に行こうと席を立った。
「どの部屋だ」
「・・・」
なにかがつながってピンと来たときダスティは将軍の足元に崩れ落ちた。
「・・・ジェーンですか?あの従者が?」
「何を今さら」
将軍が呆れたように言うと
「も・・・申し訳ありません」
ダスティは将軍の顔を見ることができず両手を床に付いてただただうな垂れた。
そして、一拍どころか十拍ほどおいて
「えーっ!!ジョーがジェーンってことですか?」
今まで黙って二人の話を聞いていたラルクが立ち上がった。
ノックもせずに将軍がグラントの部屋に入ると、ちょうど従者は伯爵の膝の上に座っていた。
「グラントの上から降りなさい」
将軍が言うと
「お父様!!」
うれしそうな声の従者が将軍に駆けより抱きついた。
「本当です。伯爵は裸でした」
アレクが証言すると
「トラウザーは履いていた」
ムッとしたグラントが言い返した。
「伯爵は、初めてだったのか、とジェーンに聞いて、すまない、と謝っていました」
「変な言いがかりです。アレク!ちょっといい加減にしてほしいわ。お父様、私たち何もやましいことはしていません」
「盗み聞きしたのは悪かったけど確かに言っていた」
アレクとジェーンが言い合う。
「しかもその後、風呂に入ろう、って」
「・・・誤解だ」
アレクの話を聞いていたグラントがつぶやいた。
そして将軍のほうを向き、
「これは単なる誤解です。多分私は本当にそう言ったのでしょう。ですが意味が違います」
そう言って釈明した。
「あのときジェーンは生まれて初めて人を切ったためショックを受けていました。しかも切った相手が死んでしまったらどうしようと動揺していたのです。そうと知らずジェーンに剣を抜かせてしまったことを私は詫びたのです。それが「初めてだったのか、すまない」に繋がります。そして彼女は返り血を浴びていました。そのため風呂に入ろうと促したに過ぎず、いかがわしいことはしていません」
「え・・・」
「なんだと!」
「はあ?」
「ほらあ!!!」
全員がアレクのことを白い目で見た。




