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愛の逃避行

「今度は将軍の屋敷で会おう。これからは時々親睦をはかっていくことにしようか。少なくともこんな他人行儀なしゃべりかたじゃなくて昔みたいになるように」

マイルズ王子は優しく諭すように私にしゃべりかける。

来られても私はいませんがそれでもいいのならどうぞ・・・とは言わず、

「昔には戻れませんわ」

と濁した言い方をした。

「昔は楽しかったですわね。でも私、あの頃に戻りたいとは思いませんの」

面倒を見るのはもう勘弁、言っとくけどあの時あんたたちはウイリアムのついでだったんですからね。

「そう?そうかな。私はいい思い出ばかりだ。時々ケインとの話に出て懐かしく思うんだ」

でしょうね。

「まだお若いのですから昔話をするには早いですわ」

と私はにっこり。


こんな席を作ってくれてありがとうケイン、針のむしろだわ。

あと数日なんだからもうちょっと頑張れなかったの?

笑った顔が引きつっているわね、私。


私が平民の服を着ていることにマイルズは一切触れない。

いったいどこまで気づいているんだろう。

もしかして結婚のことを何か知っているのだろうか。

気づいているのなら私のことは放っておいて。

優しく笑うマイルズが何を考えているのか私には全然わからない。

だけどお会いするのは今日までで、これ以上のサプライズは要りませんからね。


あとは昔話に少し花が咲いたのと兄のウイリアムの話をしてお互いぬるい会話でやり過ごしただけだったけど最後に気を取り直して別れの挨拶をした。


ある意味マイルズのおかげでグラントと結婚することになったんだし、そう思うと感謝すらする。

むかし、昔とうるさいし最後の挨拶として、小さい時にしていた挨拶でひたいと両頬に唇を寄せて、のキスをしてみた。

もちろんケインにも。

「さよなら」

ケインには小さな声で言えた。



かなり疲れたけどなんとか家に戻った私のところにお父様がやって来た。


すでに王子と会ったことを知っているようだった。


「グラントの領地に今から出発するか、第二王子に何もかも話してグラントとの結婚を先延ばしにするか、どうする?先延ばしだとアナベルになんと言われるかわからないがね」

そう言った。

アナベルとは私の母のことだ。


もちろん、今から出発するわ、と言った。

ただしお父様は、一緒に行けない、軍の会議が明日開かれるので出ないわけにはいかない、そうだ。

お父様は優しく私に言った。

「もし今、出発するなら町はずれの宿でグラントが待っている。明日の会議が終わり次第行くからもしも先に領地に着くようであれば二日だけ待って、それを過ぎるようなら先に結婚式を挙げなさい。グラントには言ってあるが結婚式を挙げるまで必ず純潔でいること。約束はそれだけだよ」

ああ、でもまさかお父様が一緒でないとは思っていなかった。

なんとも心細い。


私は気持ちを奮い立たせるといつでも出立できるように用意していた服に着替えた。

グラントの従者に見えるような男物で地味な服を着て帽子を深くかぶり、さらに上からフードのついたマントを羽織った。


食堂のおじ様やおば様、サラさんやラルクさんには前もって別れの挨拶をしていた。

ただしクロエにはクロエが結婚するまでの間、私のところで侍女の仕事をしてみないかと誘っていた。

クロエは見た目はかわいらしいのにあけすけなしゃべり方と明るい性格で知らない土地に嫁ぐ私の心の支えになってくれると思ったからだ。

驚いたことに絶対反対すると思っていたクロエの父親であるおじ様があっさり了承しただけでなくクロエを説得までしてくれた。

サラさん曰く、クロエの恋人のニールが王都に帰ったときに会わせたくないからよ、とのことだったけど。

他にも私について行ってもいいと言う侍女や侍女候補が何人かいるので後日グラントの領地に来てもらうつもり。

そのときはまたお父様やお母様に手筈を整えてもらうことになる。


用意が終わるとお父様に挨拶をした。

「必ず来てね」

「ああ、もちろんだよ」


使用人で私を見送ったのは執事をはじめ古くから勤めている人たちだけだった。

「今までありがとう」

とうとう泣いてしまったのでそれ以上は言えなかった。

そして愛馬のホワイティンに別れを告げると私はサンダーという若い馬に乗った。


町はずれの宿に着くとすでにグラントが緊張した面持ちで私のことを待っていた。

「来たわ」

そう告げるとグラントは建物の陰まで私を連れて行った。

「本当にいいんだね」

「もちろん。駄目だと言ってもついて行くわ」

短いキスの後、私たちは建物の陰から出た。

確かに従者とキスをしているのを見られるわけにいかないわ。


今日まだ明るいうちに進めるだけ進むのだ。

ああ、まるでこれは愛のための逃避行。

盛り上がる、私の気持ち。

今日は馬で行けるところまで行って、暗くなったら野宿に決めた湖のほとりでグラントに愛をささやいてもらって、二人で初めて過ごす夜は他に誰もいない星空の下・・・なんて素敵。






「お待たせしました。では参りましょう」

グラントが誰かに声を掛けている。

え?

声を掛けた先を見ると私も会ったことがある父の部下が二人いた。



なにが純潔でいなさい、よ。

こんな同行人が二人もいるのに私たち何もできないわ。

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