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尾行

次の日もいつものように食堂に行き、料理の仕込みのあとはもちろん店を手伝う。

グラントがやって来たけど昨日のことがあり私は少し複雑な気持ちだ。

彼は私に会いにお昼はここに食べに来るけれどいつも同じ時間に来て食事が終われば帰ってしまう。

今まで何とも思わなかったのにこれから開かれるどこかのお茶会に招かれている彼はそこで愛想を振りまく、ということを私は知ってしまったのだ。


いつも私が勧める料理を食べるので本当は注文をとりに行く必要がない。

飲物もいつもビールと決まっているけど必ず彼のところに行く。

そばに誰もいないとこっそり手を握ってくれるから。

でもそれだけ。

もうすぐ結婚する、婚約者という間柄でなければやるせない。

昨日、ケインに邪魔されなければもう少し長く一緒にいられたはずだけどパーティ会場の庭園ということもあったしどれだけいられたかはわからない。

短い恋人期間はうれしいようなうれしくないような、しかしこれが私にとってはかけがえのない逢瀬の時間。

結婚したからといってもちろん幸せになれるかどうかはわからない。

お互いまだよく知らない間柄だ。

だけど知っているからといって幸せになれるとは限らない。

この人と結婚したい、そう思えたことが幸せなのだ。

そう思ってちょっと気を取り直す。


今日は手をにぎられたときに小さな声で、今日は茶会には行かない、今から将軍に会いに行く、と言ってきた。

彼は彼で気にしているのかしら。

更に気を取り直す。


グラントは食事が終わると帰ってしまい、お昼の忙しい時間が過ぎたので私は一人、家に帰る。

私のことを知っている人と道で行き交えば侍女も連れずにあんな格好で何をやっているんだろうと思われるだろうし、食堂で働いていることを知っている人もいるだろう。

でもこうやって王都を歩くのもあと少しだ。


今日はこうやって感傷に浸りながら歩いていたせいか家まであと少しというところで後ろをつけられていることに気がついた。

ぼーっとしていたのだろう今まで気がつかなかった。

捲いて帰るのもなんだか面倒で近くの貴族の屋敷に入って通用口から執事を呼んでもらうことにした。

これまでも何度か頼んで他の出口を案内してもらっている屋敷だった。


出てきたいつもの執事は私を見るといつになく驚いた顔をした。

「度々ごめんなさい。今日も他の出口に案内してもらえると助かるのだけど」

執事は黙って私を屋敷の中に通した。

あら、今までとは違う出入り口があるみたい。

ドアを開けられて、ありがとう、とお礼を言いかけたとき、そこは・・・出口ではなく客間だった。


ん?客間に秘密の出口があったのね、いや、この屋敷の主に挨拶をしろということかしら、それとも・・・一瞬にしていろいろな考えがまとまりなく出てくる。

しかし中に通されドアが閉まると第二王子のマイルズが優雅に座っていてお茶を飲んでいるのに気がついた。


「久しぶりだね」

マイルズは上機嫌だった。


「この屋敷で私と出会うなんて思ってもみなかっただろう?」

ホント、この屋敷を使っているといっても数回のことなのにマイルズにばれているとは思わなかった。


「ええ、驚きました、本当に」

まず王子に対して片足を引き、淑女の礼をしてから

「王子、お元気そうでいらして何よりです。ケインも」

そう言ってマイルズの後ろに立つケインを睨むとケインは身振り手振りで、俺じゃない、違う、とやっていた。


「ケインが一度君と話し合ったほうが良いって言うものだから」

ケインはこれに対してもジェーンに、違う、と手を振ってから

「違いますよね、王子。話の途中で、何年もちゃんと話したことがないでしょう、と言っただけだから」

と慌てたように言った。

「どう違うっていうんだ、ね、ジェーン」


私はかしこまって返事をした。

「何かご用があったのでしたらこちらから参りましたのに。でも急ぎの用では無いようですので失礼してもよろしいでしょうか。今日は朝から頭が痛くて」

変なことを口走らないためにもここで退散したほうが身のためだ。

そしてマイルズの機嫌の良さはこれで終わったようだった。


「いつもこれだよ、ケイン。私がジェーンと話そうとしても彼女が私から逃げるんだ。誰それが呼んでいるのでこれで失礼します、忘れ物をしたようですのでちょっと取りに行って参ります、花が咲いているようですので見に参るところです、頭が痛い、お腹が痛い、歯が痛い・・・これでどうやったらちゃんと話ができるというんだ。それに久しぶりに会いたいと宰相や将軍に言っても、そのうちに、と言うばかりでもう何年も経つんだ」

ちっ、ばれてたか。


「そんな、逃げるだなんておっしゃらないで下さい。失礼ばかりしていたのでしたら本当に申し訳ないですわ。王子はお忙しいことも多いですしお会いすると緊張するんです」

とりあえず申し訳なさそうに言った。


「これから一緒にいるようになると君は緊張をするなんて言わなくなるだろう」

いえいえ、一緒に、なんて無い無い。

「王子に緊張しないなんて無理ですわ」

私はにっこりと笑った。

よそ行きの笑顔だ。

「寂しいな。そんな他人行儀な笑顔しか私に見せなくなったなんて」

はい正解、永遠に他人です。


「子供の頃のことをおっしゃっているのでしたら私が至らなかったのです。礼儀を知らない子供の頃をお話になるなんて人が悪いですわ」

ちょっとすねてみせたけど、これ以上の対応は無理、ホント無理。


執事がお茶を持って来た。

私を裏切り王子をとった執事だ。

つい、執事のことも睨んでしまった。

申し訳なさそうな顔をしている。

さっき、裏口から執事を呼んだとき、本当に来た、と思って驚いていたのね。

ま、この場合仕方ないと本当はわかっているけど。


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