11.お願い
ハリーに会った後王都に帰るとすぐ、グレンはもう何年も会っていない母方の大叔父に手紙を送った。
グレンの大叔父は国境警備隊の隊長を二十年以上続けている男だ。
時々手紙のやり取りはしていたが一年ほど前に北の国境警備隊の隊長になる気があるなら後任に推薦すると書いてきていた。
国境警備隊の隊長になるだけで一階級上がり、最低五年の任期があるが王都に戻って来るまでにさらに階級が上がる、とあった。
貴族の跡取りは軍隊に入らない者が多い。
自分もいずれは父の跡を継いで領地に戻るのであまり階級には興味がなかったし、遠くて面倒だと思い曖昧に答えていたが決心をした。
これでステイシーがグレンを見捨てるのならグレンはステイシーを諦めるし、ステイシーがグレンについて来てくれるのなら結婚と昇進の一挙両得の良い話だと思ったからだ。
グレンは、決心したのでお願いしたい、と書いて手紙を送った。
さすがに少し先の話だと思っていたのだがグレンの手紙を読んだ大叔父はこれで肩の荷が下りたとホッとしたのだろうか、手紙を受け取った翌日、どこかで足を滑らせて足の骨を折り、さらには持病の腰痛を悪化させた上、原因不明の腹痛で急遽王都への帰還となった。
現在入院中である。
しかし結婚の当日、グレンの大叔父は一人で歩けないからと付添いの看護師と称する若い孫のような歳の美女を二人侍らせた状態で出席していた。
見た目は小柄でとてもではないが北の国境警備隊隊長を二十年も続けていたようには見えない。
浮気が原因で大叔母と十数年も別居が続いていると聞いていたが大叔父本人は全く気にしていないようだ。
「さすが王都の看護師は質が違う」
と美女に両脇を抱えられながら大層機嫌が良かった。
「腹痛は大丈夫ですか」
とグレンは心配したが、たんに酒の飲み過ぎだったようだ、と大声で笑った。
挨拶をするためそばに寄ったステイシーと自分の看護師をしばらく見比べたのち、ステイシーの胸にダイブをしようとしてグレンを怒らせた。
小柄な老人がステイシーに飛びかからろうとしたり、何人もの男たちが泣いたりしているのを遠巻きに見ていたがジェーンもステイシーに近づいて結婚のお祝いの言葉を述べた。
もちろんジェーンもステイシーの結婚式に出ていた。
しかしまさかジェーンより先にステイシーが結婚するとは・・・二人とも思ってもみなかった。
ステイシーはジェーンに、本当はあなたと一緒に行くつもりだったのよ、と言った。
「残念だわ。向こうにはあなたのことを名指ししてぜひとも連れてきて欲しい、って人がいたの。グラントの領地の近くに住む爵位持ちらしいけど詳しくは知らないのよ。どこかであなたを見初めたらしいわ。でもグレンのほうがずっといいわね。あっちは会ったことがない人だから良い人か悪い人かわからないでしょ。グレンならお似合いだし、今日のあなたはきれいで幸せそうだわ。本当に良かった。グレンはあなたのことをちゃんと見ていたのね、目が高いわ」
そう言うとジェーンは泣いていた。
「感傷的になってごめんなさい、こんな幸せの日なのに。あなたとはずっと友達でいられると思っていたの。だからこんな離れ離れになるなんて寂しくて」
ステイシーはジェーンを抱きしめた。
「私、この頃人前で自然に涙が出るの。少し前に父や母の前で泣いたときひどく驚かれたわ。子供の頃、ウイリアムの前で泣くのが嫌でそれからずっと泣いてなかったみたい」
それから少し落ち着くと小声で
「そう、それでお願いがあったの」
とちょっと話しにくそうにもじもじとした。
「私ももうすぐ行くの。行って彼の領地で結婚するんだけど、お願い、北の国境に着いたらそこにウイリアムがいるから伝えて欲しいの。私の結婚式に間に合うようにすぐに出発するようにって。母はそろそろグラントの領地に着くころで着き次第結婚式の準備をしてくれるのよ。私、ウイリアムにどうしても結婚式に出て欲しいのに父が、手紙は出せない、って言うから、そしたらあなたが北の国境に行くことになって・・・」
ついでのお願いをするにはちょっと申し訳ないんだけど、とジェーンが言いにくそうに言った。
結婚式の当日に花嫁についでの用事を頼むのはさすがに気が引ける。
ステイシーは快く請け合った。
「ウイリアムには必ず伝えるわ。大丈夫、グレンは北の国境警備隊の隊長なのよ。必要なら隊長命令でウイリアムに休暇を取らせるわ」
次回からジェーンの話に戻りますがステイシーの話もまだちょっと残っています。




