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         8.エイダとステイシーⅠ

あれはエイダだって気がついた。

グレンは気弱な男のふりをしていたのだ。

気づかないなんて馬鹿じゃないの。

送別会はすでに解散となっていて騎士団の男たちがわめきながらグレンをどこかに引っ張って行っていた。

ステイシーは寮にある自分の部屋に戻っているはずだと見当をつけてエイダは部屋の前にやって来た。

グレンの動向を気にしていたため送別会の解散後、エイダはステイシーを見失っていた。

しかし今になってドアをたたくのをためらった。

決してグレンとの仲を引き裂こうと思って来たわけではない。

しばらく悩んだ末にエイッと目の前のドアをたたいた。


ドアを開けたステイシーはすでに寝間着に着替えていてショールをまとっただけの格好だった。

エイダを見て少し驚いている。

「遅くに悪いけど・・・寝るところだった?」

「いいえ、まだよ」

「話があって・・・部屋に入れてくれないかしら」

「もちろんよ、どうぞ」


中は思った以上に狭かった。

部屋は小さなテーブル、椅子、クローゼットと簡素なベッド、ベッドの横に水差しと洗面器、他にはトランクが一つあるだけだ。

椅子を勧められ座ったがテーブルの上には酒のボトルとグラスが一つ、軍より下げ渡されたような乾いたビスケットが何枚か皿に乗っていた。

「びっくりしたでしょ、ひどい部屋よね。私、一応伯爵令嬢なのに」

笑いながらそう言うとトランクから簡易の湯沸かし器を取り出して湯を沸かし始めた。

「休日は必ず家にもどるし、仕事の日は疲れて寝るだけだからこんな部屋でも大丈夫よ」

ステイシーはそう言ったがエイダは、絶対に無理、と思った。

ティーポットとカップを用意している。

それをそれを見てエイダは思い出した。


「今日、酒場で言われたんだけどこの前私、騒いだ後すぐに寝ちゃって、どうも迷惑をかけたみたい、その、悪かったわ」

「ああ、あれね。少しびっくりしたけど、あなた、グレンのこと好きだったのね。私こそ、何て言ったらいいか」

さっきまでグレンや騎士団の男たちに囲まれて大騒ぎの中心にいたようには見えない。

いつものステイシーだ。

「いいのよ、今日の隊長を見て幻滅したから」

「そう?」

「ステイシーらしくないわ、気付いてないのね」

「ふふ、面白かったでしょ」

楽しそうに笑っている。

「なんで・・・」

わかっていたのだ。

エイダでさえ気がついたのだから騎士団が長いステイシーが気がつかないはずがなかった。

「なんでって、ま、白状すると私もなの、ずっとグレンを好きだったから」

さらっと言うがもちろん初耳だ。

「え?以前グレンから申し込みをされたのに断ったんじゃなかったの」

勘違いだったのかとエイダは混乱した。

「それ、誰から聞いたの?・・・まあいいわ、そうね、結婚の申し込みを断ったわ、ジェーンについて行くつもりだったのも本当よ」

お茶の入ったカップを持って来た。

「私、騎士団に入ってすぐグレンのこと好きになったわ。でもここに入った女の子はみんな好きになる。彼、親近感があって優しいでしょ、でも誰のことも好きにならないの。何度か見たことがあるのよ、女の子から告白されていたところ。優しく笑って、光栄だ、って言ってたけど、早くあきらめて立ち去って欲しい、って顔に書いてあったわ」


ステイシーはボトルから少しだけお酒をグラスに注いだ。

琥珀色、っていうのかしら、何ていうお酒なんだろう、エイダがステイシーの手元をじっと見た。

「亡くなった父の形見のお酒よ、ブランデーなの。ここは寒かったり眠れなかったりするから寝る前に少しだけ飲むの。弟は飲まない、って言うから私がもらって寝酒として少しずついただいているというわけ」

果汁で割ったワインをグラスに一杯飲んだくらいで大騒ぎをしたエイダにステイシーのお酒を進められることはなかった。

ステイシーは一口飲むとにっこりとした。

「私は人を愛することは相手が誰であろうともできると思っていて結婚するなら私のことを愛してくれる人がいいと考えていたの。結婚すれば結婚相手を愛するようになるだろうからグレンじゃなくても大丈夫だって。でも本当は自分に自信がなくてグレンは私には似合わない、って自分に言い聞かせていたのね。グレンに告白していた女の子はみんな美人でかわいらしくて普通なら絶対に断らないと思うのに簡単に断っていたのを見たからかしら。そんなグレンが私のことを愛してないけど結婚をして欲しい、なんて言ってくるから私、素直に喜べなかったの。おまけにグレンのプロポーズを断った次の日から他の騎士の人たちからも結婚を申し込まれるようになって・・・ひどい嫌がらせに騎士団の人に幻滅したの」

もう一口、口に含んでからコクッと飲んだ。

「結婚を申し込まれてもうれしくないし、どこかに行ってしまいたいって思ってたらジェーンから話があったのを思い出したの、あなたも一緒にいたから知っているわね」

おかしそうに笑った。


「そこから急に気が変わってグレンの芝居に乗っかって結婚する気になったのはなぜなの」

「私もグレンらしくないことばかり言ってるな、って思ったわ。でもねあまりにわざとらしいから何か理由があるのかしら、もしかしてこれは私に向けて言ってるんじゃないかって気がしてきて、そしたら気持ちに折り合いがついたの。私は彼に好きだって言ったことがないからそのかわりにみんなの前で結婚の話を受けるって言ったらどうなるかしら、って」

そう言うと残りの酒を一気に飲んだ。

「私へのプロポーズは嘘だったとみんなから馬鹿にされるのか、グレンが本当に私と結婚するつもりだったのかはっきりするでしょ。でも彼、玉ねぎはやり過ぎだったかもね、でもいい思い出になるわ」

酒場でグレンが泣いていたとき辺りが玉ねぎ臭かった。

















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