6.怒り
二度のプロポーズに失敗したグレンは騎士団の誰がステイシーにプロポーズをしたのか調べていた。
そして、
「ステイシーが娼婦になっただと!!」
報告をしてきた騎士の襟首を絞めながらグレンは(小声で)訊き返した。
「い、いえ、娼婦役の潜入捜査です」
絞められた襟首を緩めようと身をよじり顔を真っ赤にしながら部下の騎士が喘ぐような声で答えた。
「他に誰が娼館にいたのかは副隊長がご存知ですので呼んでまいりましょうか・・・」
そう言うと報告を終わります、オスカー副隊長を呼んでまいります、とほうほうの体で部屋から出て行った。
呼びに来た騎士に説明を受けたが今一つピンと来ないままオスカーは隊長執務室に入って来た。
「一体どうしたんだ」
グレンは今にも爆発しそうな怒りを抑えオスカーを見た。
何もかも気に入らなかったが副隊長のオスカーに頭ごなしに言うほどのことでもない。
報告が一つ抜けていただけだと思えばよくあることだった。
そこで、なぜステイシーを娼館に連れて行ったのか、と単刀直入に説明を求めた。
グレンは事後報告ではあったがオスカーの指揮のもと一部の隊員で麻薬組織を全滅させたと報告を受けていた。
隊員も誰がかかわったかだいたいのメンバーは聞いていた。
しかし女性騎士まで・・・それがステイシーでしかも潜入捜査をさせていたことは報告になかった。
あの件か、とオスカーは困った様子でそれが・・・と言った。
「ステイシーか・・・いや、参ったよ。新人娼婦の付き人くらいにはみえるかと思ったら店一番の娼婦のようになっちゃったんだ。それで最初立ててた作戦がダメになって、次の作戦を立てたのがステイシーでステイシーはスパイシーになって・・・って、あ、スパイシーっていうのは源氏名で娼館の女将が付けたんだけど、ステイシーがスパイシーになった途端男たちから薬を取り上げるその手際の良さときたら・・・」
途中早口言葉のようになったのもどうやったら自分の贔屓の娼館だとばれずに説明できるかと思い、上の空だったせいだが途中で黙ってしまったグレンを見てオスカーはグレンの様子がいつもと違う、とようやく気がついた。
「・・・というわけなんだが・・・」
「それで?」
「ああ、それで娼館の女将も感心して・・・」
「違う」
「違う?」
「娼婦になったステイシーを見た騎士は何人だ」
「何人って、えーっと、俺を入れて二十四人だけど」
「そいつら全員が?」
グレンは怒っていた。
「そいつら全員、ステイシーを見たというのか」
グレンの怒りに気づかないままオスカーは娼館の応接室の説明をした。
「部屋に隠し窓がついてたらしいんだ。みんな目が離せないというか、応援していたというか、もちろん何かあったら急いで行かないといけないし」
「お前もか?オスカー、お前も」
「ま、俺は用心棒役だったからステイシーならぬスパイシーを部屋に迎えに行く役で・・・」
「お前もプロポーズしたのか」
「ああ、まあ、そうなんだ。イケる、と思ったんだが・・・・・って何で知ってる?って、え?え、えー?お前もって?」
お前も、ってどういう意味だ?
「もしかして?」
いやー、ありえないか。
グレンはモテるがこの人当たりの良さとは裏腹に女を好きになったりしないんじゃないかと思ってるんだが・・・。
いや、だから余計に腹が立つんだ。
俺は惚れっぽいだけで本当は愛情深い男だが誰もそのことをわかってくれない。
しかしグレンのやつは心がないってことを硬派で誠実だ、と勘違いされているのが癪に障る・・・
・・・ってマジか?
本当に硬派で誠実だったのか?
どうりで他の女からの誘いを全部断っていたわけだ、と気がついた。
「俺は玉砕だったよ」
今さら嘘を言っても仕方ない。
オスカーはグレンに本当のことを言った。
「ああ、知ってる」
その言い方にはトゲがありムッとした。
「何だよ、その言い方!どうせお前はモテるから良いよな。いつもそうだ。だからって俺をバカにしていいのか」
オスカーはケンカ腰に言ったのだがグレンは下を向いたままで
「・・・俺は二度だ。二度とも断られた」
くぐもった声が聞こえた。
「あっ、そう・・・そっか・・・」
オスカーの怒りがすっと抜けた。
好きでもない女から何人言い寄られようが本命の女に断られるのでは
「ちょっと不憫だな」
うれしくなったオスカーは初めてグレンに親しみを感じていた。




