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母からは幼い頃から貴族としての礼儀作法、少し大きくなってからは刺繍や花の生け方、貴族の屋敷の取り仕切り方を少しずつ教わっていた。

そして14歳になって、上の姉は結婚し下の姉が婚約していた頃、母が全総力で私にとりかかった。

三人の家庭教師とダンスの教師が就いた。

これまでも習っていたがピアノはさらに時間を増やし、歌の練習を始めた。

礼儀作法は最初からやり直し、古語や歴史、外国語を数ヵ国語教わっている。

正直大変だが、行くのは嫌だと最後まで泣いて抵抗しながらも強制的に寄宿学校へ連行された兄のウイリアムのことを思えば負けられない、と頑張っている。

だけど姉たちはこんなに勉強していたのかしら?私には刺繍をしながらおしゃべりをしている印象しかなかった。

母に聞いても、それなりにね、と曖昧な返事しかかえって来ず、婚約中の姉に直接聞こうとすると母が恐ろしい顔で姉を睨んでいるのが見えた。

姉は肩をすくめると、私は結婚の準備で忙しいの、ジェーン、頑張るのよ色んな意味で、応援してるわ、そう言って部屋に戻っていった。

そして半年後お嫁に行ってしまった。


私の息抜きは剣の練習をしに騎士団の練習場に行くこと。


他には母に内緒で料理長から自分の好物の作り方を教わること。

小さい時から可愛がってくれる我が家の料理長から、好物の料理やパンを教わりながら作るのはなかなか楽しい時間となっていた。

私は彼のお気に入りでいろいろな話をしながら二人で料理の材料を切ったり鍋をかき混ぜたり、さらにはパン生地をこねていく。

そしてその晩、ディナーに混ざって私が作った料理が並んでいるのを見るときの何とも言えない気持ち。

母がこれ美味しいわね、などと言って食べているときもある。


自分の手作りのパンや菓子は騎士団に入ってもいないのに練習だけさせてもらうという気兼ねから練習時、差し入れとして持っていっている。

そして概ね好評であることに気を良くしてさらに何かしらを作って持っていく、ということを繰り返している。

騎士団では手作り、というのはみんなからの評価が高い。

こんなの作れるのすごいな、小さいことは気にせず練習に来ていいよ、ということにつながる。

それというのも数年に一度、騎士たちは少人数体制で数週間の野外訓練をすることがあり、その際炊飯能力は騎士たちの生存にかかわってくるらしいのだ。

訓練時、美味しく作れる人はある意味尊敬されるそうだ。

軍という組織で王都の管轄を任されているのが騎士団で貴族の子弟が多いため訓練になるまで料理の重要性の認識が皆無である。

女性であっても貴族は基本、料理をしないから。

ちなみに女性がいるのは王都勤務の騎士団だけで地方勤務の軍隊に女性はいない。


三つ目の息抜きとしては寒くなりだすと始める編み物がある。

不思議と寒い季節になると毎年編みたくなってくる。

父の遠征について行っていたとき、国境近くのある町で店番をしながら編み物をしているおばあさんを見て以来の趣味となった。

材料さえ揃えればその町の女性ならたいてい誰でも教えてくれた。

父と兄が小難しい話をしているときジェーンは編み物をすることで一人で時間をつぶした。


運のいいことに屋敷に帰ってもその国境近くに実家のある侍女がいて、編み方をいろいろ教えてくれる。

流行りの編み方やデザインを時々実家から仕入れてきてくれた。

毎年その侍女を通して手に入れた毛糸を使い、長めのベストや肩掛けを作っては近くに住む乳母や料理を教えてくれる料理長に進呈している。


剣と料理と編み物。

これらの趣味のどれも母の気に入らなかった。


侯爵令嬢だった母は家柄が申し分ない上に当時社交界の宝石とも謳われたほどの美貌で引く手あまたの結婚の申し込みがあったそうだ。

しかしその中から選んだのは公爵の息子だが次男で爵位を継ぐことのない男だった。

そのため無欲の聖女のようにも言われたが中身は世間知らずのお嬢様でしかない。

父に一目ぼれした母は何も考えず結婚相手を選んだに過ぎなかった。

もっといい縁談がいくつもあった母に父は自分ではあなたを幸せに出来ないと母に言って聞かせたらしい。

すると母は自信たっぷりに言ったそうだ。

幸せにして下さらなくても自分の幸せは自分でわかっています、私はあなたを幸せにしてあげたいの。

そうして父は幸せな男になったのだった。

父は母を愛して止まない。

娘の私から見ても二人は仲が良すぎると思うくらいだ。

もちろん今でも爵位のことなど母は何とも思っていないのは明らかだ。

父が押しも押されぬ頭脳派の将軍として近隣諸国に名をとどろかせている今、母はお嬢様から奥様に変わっただけでずっと社交界の花でいる。


その母からすると女だてらに剣を持つ、とか家に料理人がいるのに自分で料理をする、とかシルク以外のものを身に着ける、などというのは理解の域を超えた変な趣味にしか思えないようだった。


剣のことに関しては息子のウイリアムが双子で妹のジェーンを片時も手放さなかったため一緒にいる、という認識でいたに過ぎず、まさかウイリアム以上の剣の達人になっているとは思いもしなかった。


料理をしていることも気づいているが見て見ぬふりをしているだけ。


編み物は貧乏人向きのものとの思い込みで特に良く思っていない。

編み物がなぜ貧乏人につながるのかというと母曰く、出来上がったものをほどけば何度でも違うものに作り変えることができるのでそれが嫌だという。

あくまで母の意見だ。

それでも私が是非にと勧めたのでひざ掛けを何枚か自室用にもらってくれた。

特別に頑張って透かし模様にして作ったものを選んで渡した。

部屋に伺った時にこっそりと見たらつかってくれているようだ。

暖かいし可愛らしく編んだし当然だ、と思ったが母には言えない。












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