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結婚への不安

いくら太鼓判を押されても肝心のジェーンとまだ話せていないのでグラントの不安は解消されていなかった。

しかしそろそろ領地に戻らないと将軍がいくら結婚を急かしても結婚式の用意ができていない。


協会に行って式の段取りを頼み、招待客への案内状を作り、泊り客がいる場合部屋の用意を使用人に指示し、披露宴のメニューを考え、結婚式や披露宴には何か飾り付けが必要だろうし、主寝室や客間の部屋の模様替えも一年をめどに終わらせるよう申し付けてあるのを急がせるとどこまでやり終えるのか職人と打ち合わせをし直さなければならない。

すでに絶対に間に合わないことばかりだった。

だが何よりその前にジェーンを捕まえて結婚の意思をグラント自身が確認しなければならないと思っていた。


将軍家の晩餐に誘われ食事をした後、グラントはジェーンを二人で試合をした場所に呼び出した。

この場所は屋敷の裏口から近く、まわりを遮るものがないので結婚前の二人でいてもあまり不謹慎と思われないだろうとグラントが気を遣った。

それに月は満月に近く思った以上に明るかった。


「結婚に迷いが出たのなら言って欲しい」

グラントが話を切り出したがジェーンが反対に

「あなたに迷いが出ているのではありませんか」

と聞いてきた。

「女だてらに剣を振り回した後にあなたに結婚を申し込ませることになって、それが申し訳なくて。もっと考える時間が必要だったのではないですか。私なら大丈夫ですから」

「何が大丈夫なのだろうか」

「結婚のお断りをされるでしょう?」

そう言いながら痛そうな顔をした。

グラントが少しずつ離れて行こうとするジェーンの手をつかんだためだった。

「すまない」

そう言ってつかんだ手を緩めたがその手を離しはしなかった。

「すまないが何を言っているのだろう、避けられているのは私のほうだ」

ジェーンは泣きそうな顔をした。

「剣を振り回したり、せっかくプロポーズしていただいたのに大声で返事をしてしまうなんてみっともないって母に言われました。あなたに呆れられていると思うと会わせる顔がなくて」

「何を言っているのか・・・あんなにかわいらしく返事をしてもらったのがうれしくて舞い上がったのに」

グラントはジェーンの手を引いて胸に抱き寄せた。

「あなたを一目見てこの人だと思い、思いがけず剣を交わしてプロポーズを受けてくれた。これ以上のことはない、と思ったのだ。急なことであなたも戸惑いはあるだろうがどうか私の妻になってもらいたい」

グラントはできるだけ誠実に聞こえるよう真剣に話した。

「本当ですか、私いろいろ頑張ってきたつもりなんですけどいざとなると自信がなくて」

こんな気持ち初めてなんです、と小さな声がした。

「あなたこそ私でいいのだろうか。王家より結婚の打診がきていると聞いているが」

ジェーンが、あんなの・・・、と言ったようにグラントには聞こえた。


「結婚を承諾してくれるのなら準備のために明日にでも領地に戻ろうと思っている」

そしてグラントは今日王都の宝石店から持ち帰ったエメラルドの首飾りを彼女の首につけた。

「あなたの瞳の色だ。指輪はプロポーズのときに渡せたがこれは指輪に合うものがあるというんで取り寄せたんだ」

もちろんそろいの耳飾りもある。

大きな粒のエメラルドにジェーンは驚いてグラントの顔を見上げた。

「こんなことして頂かなくても喜んであなたと結婚するわ・・・だけど、ああ、素敵ね。ありがとう、母に自慢できるわ」

ジェーンの声は涙声だった。

そして二人は初めてのキスをした。



しかし結局グラントは帰らなかった。

将軍の指示に従うことにしたのだ。

グラントの領地に行くのはジェーンの母で、彼女がひと足先にグラントの領地に行き結婚式の全てを取り仕切ることになった。


出来上がったばかりのウエディングドレスはしわのつかないように梱包され、他の荷物も大急ぎで侍女たちが旅行用の鞄に詰めていった。

グラントは頼みたいことを一応紙に書いて渡したが将軍夫人がどこまでやってくれるのかはわからないため全て任せるしかなかった。

将軍が結婚のための買い物は控えるようにと言ったので夫人は不満を漏らしたが仕方ない。

買い物は結婚式の後にすればいい、将軍が妻をなだめていた。


まず将軍夫人が孫に会いに行くと称して末娘のローザと共に王都を発つ。

これまでも娘の出産の度に夫人は馬車で娘の領地に行っていたため不自然なことはないようだ。

ウエディングドレス作りにかかわった侍女たちも将軍夫人と共にグラントの領地に向かうことになっている。

護衛と侍女と今回は料理人を数名、馬車だけでも四台になったが娘のところに行くときはいつも大がかりな移動であった。

グラントが連れて来た従者は領地への案内役として同行させた。

従者に結婚する相手の名前は伝えたが数週間前に立ち寄った食堂の給仕の女性と結婚するとは気づいていないはずだ。


馬車を走らせ順調にいけば約一ケ月で領地に着くため夫人が出発した一ヶ月後にジェーンとグラントと将軍の三人は馬で王都を出発し、三人が着き次第将軍夫人が突貫で準備をした結婚式で式を挙げる段取りとなっていた。


この先一ケ月、ジェーンは今まで通り食堂で働き、グラントは極力ジェーンとの接触を避け、花嫁探しを装い昼間は女性が集まる茶会に、夜は夜会に出掛けるのだ。

全員が王都を出発するまで極力目立つ行動を控え、一ケ月経てば速やかに移動し、滞りなく結婚式の日を迎えることになった。










読んでいただきありがとうございます。

ジェーンにかわり次回からステイシーの話になります。

もちろん題名は<ジェーンの結婚>ですのでジェーンの話に戻ります。


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