〚NKK−Ⅱ〛
約20年ぶりに入った会長室は、昔と殆ど変わっていなかった。
室内は色鮮やかな花々が飾られ、其れらの放つ甘い香りがアンティーク調の部屋を満たしている。
「·····久し振りね、朝日チャン。」
「······此方こそ御久しぶりです、皇会長。」
ーーーNKK会長、皇 拳護。
通称『ケティ』
俗にいう「オネェ」であり、実質上日本のトップ。
「やだぁ、『ケティ』って呼んで♡」
練色の長い髪を緩く束ね、派手なスーツに見を包む其の姿は、20年前と全く変わらない。
「·····お変わりないようで、Ms,ケティ。」
「そんな事ないわよ〜、最近お化粧のノリが悪くて······」
そして言動も20年前と変わらず、其れがかえって不気味だ。
顔にはにこやかな笑が張り付いており、彼女の思考が読めない。
自分は、殉職を装ってNKKを去った。
此の行為は、無断で仕事を辞めたに等しい。
なのに、強引に引っ張って来られるワケでもなく、寧ろ好待遇。
明らかに可笑しい。
不自然だ。
彼女は、何を考えている······?
何も無いワケあるまい。
外に情報を漏らしていないのにも関わらず自分の居場所を突き止め、使者として紫暮を遣わし、軍服を新しくオーダーメイドする程に用意周到なのだ。
絶対他にも何かがある。
「····そういえば復帰の件、考えてくれたかしら?」
「はい、受けさせて頂きます。」
矢張り。
彼女は、態々(わざわざ)召喚状を出し、たったの2時間で答えを訊いた。
つまり、元より『NO』という選択肢など無いのである。
此処までは想定内。
「そう、嬉しいわ♡」
思った通りの返答に、会長は怪しく微笑む。
其の笑みに、少しだけ黒さが滲んだのを目が捉えた。
「····それで、復帰後のお仕事についてだけれど」
会長は言葉を途中で区切り、席を立って自分へと歩み寄る。
ゆっくり、しかし確実に。
其の様子はまるで、獲物に狙いを定めているかの様。
思わず後退りしそうになるが、其れは流石にマズいので踏み止まる。
片手には1束の資料。
何だろうか。
「····此れを頼みたいの。」
会長は自分に後1歩という所まで近付き、微笑みながら資料を手渡す。
行動には出ていないが、まるで押し付けているみたいだ。
「····」
表面に書かれている文字は····
ーーー【品種改良成功者リスト】
という、倫理の道を外れた代物であった。
[練色]
薄い茶色の事。古本の色を想像すると分かりやすいかもしれない。