〚紫色の珍客−Ⅳ〛
店の奥で木箱を開き、軍服を取り出す。
「·········」
軍服の黒は、深く無機質で何処か協会の本質を滲ませて居るようで、久し振りに見ても矢張り好きにはなれない。
着ていた服を脱ぎ捨て、糊の香りが残る白いYシャツに袖を通す。
そしてズボンを履いたら銃ホルダーを装着し、其の脇にある別のホルダーにナイフを差し込む。
そして赤い紐ネクタイを結んでから外套を羽織り、更に其の中にも刃物を仕込む。
·····昔から、武器は持てるだけ持つ主義だ。
私の花は、周りを多く巻き込む。
故に他の庭師と違ってホイホイ遣うワケにはいかないので、武器は大事。
しかし、だからといって動きに支障が出ては元も子もない。
持てるだけ····というより、『必要だと思われる分だけ』と言う方が正しいかも知れない。
最後に、『双剣』を腰に掛けたら準備完了。
「······よし」
そして、持って行く物は最低限に留める。
まぁ、元々そんなに使う物なんて無いが。
しかし、20年過したのに何の思い入れもない事に正直少し驚いている。
ほぼ外にも出ず、ずっと此処に居たのにも関わらず、人とは場所に愛着が湧かないモノなのか。
·····あ、自分だからか。
まぁいい。
早く紫暮の所に戻ろう。
✾
「······とても良くお似合いです。」
「·····」
紫暮の元に戻って、其れが彼の第一声であった。
何が「お似合いです」だ。
明らかに前のモノとデザインが変えられている。
以前の軍服は、メンズを自分のサイズに合わせて袖を広くしたモノであったが、此れは明らかにデザインが変わっている。
裾は長くワンピースの様にヒラリとし、ラインも以前より細くなっている。
「·····お前、デザイン弄ったな」
「えぇ、会長が。とてもお似合いです。」
イヤだから、そういう事じゃない。
自分は女性的なモノは好まない。
見たり作ったりするのは良いが、いざ着るとなると明らかに非合理的だし、何より似合わない。
絶対に会長は、自分が嫌がるのを解ってやっている。
確信犯だ、質が悪い。
「····はぁ、もういい。準備は済んだ、直ぐにでも行けるぞ?」
「もうですか?相変わらず早いですね。」
しかし、今から自分は其の質の悪い『会長』に会いに行くのだ。
今から心が折れていては、話にならない。
諦めよう。
「·····では、此処を出て少し歩いた所に小型飛行機を待たせております。」
紫暮に続いて店を出る。
最後の最後になっても矢張り、店に対する名残惜しさは湧いてこなかった。
[双剣]
中国の剣。1つの鞘に2本の剣を一緒に仕舞う。刃は薄めで、軽い。