〚花蕾−Ⅴ〛
紅条のメモによる会話は、(ーーー)で書かせて頂きます。
「ーーー樹怪上空に到達。いつでも突入出来ます。」
樹怪が侵食し始めてから、約3時間。
南区はほぼ呑まれ、眼下には深い緑が茂っている。
「おー、」
「····僕達、今からあそこに飛び降りるんだよね。」
隊員の反応は様々で、呑気に樹怪を見下ろす者も居れば、緊張に喉を鳴らす者もいる。
冬間はというと、唯黙々と突入する為の身仕度を整えており、隊員から1歩距離を置いている。
····任務中に其れが無いといいのだが。
「····紫暮を偵察に行かせた後、各自パラシュートを使用し突入。全員揃うまで待機だ···以上」
隊員の身仕度が終わるのを待ってから、此れからの指示を出す。
紫暮を偵察に行かせるのは、落下地点の安全を確保し、隊員の生存率を上げる為。
もし落下地点が蟲の巣だったりしたら、隊の全滅も有り得る。
故に、偵察は大事だ。
紫暮ならば、例え何かあってもそう簡単に死にはしないだろう。
····多分。
「·····では、お先に。」
「あぁ、頼む。」
別に自分が言ってもいいのだが、其れを紫暮が許さない。
アイツは、変なトコロで心配性な奴なのだ。
いつからそうなったのだろうか。
分からないな。
ピーーーー……
彼が飛び降りてから数秒後、問題が無い事を知らせるブザーが鳴った。
「······突入」
·····随分と手際がいいな。
どうやら、自分が不在の20年でかなり成長したらしい。
喜ばしい事だ。
「·······」
「お先〜」
「え!?待ってよ~」
「突入」の指示を出すと、冬間と菊帥が真っ先に飛び出し、其れに來世が続く。
そんなに焦る必要もないと思うのだが。
「·······えいっ」
そして暫くすると、覚悟を決めた白庵が樹怪へと飛び降りて行った。
あんまり足を曲げて飛び降りると、着地する時が大変だと思うのだが。
まぁ、後々指導していこう。
あと残っているのは·····
紅条だな。
確か、紅条は書類に高い所が駄目と書いてあった。
大丈夫だろうか····いや、駄目そうだな。
後ろを振り返ると、紅条が己の武器である斧槍を握り締め、其の場にヘタりこんでいた。
完全に萎縮している。
「····大丈夫か?」
(·····大丈夫じゃないかもしれません)
矢張り。
もしかしてと思って訊いてみたが、もしかしなかった。
だからといって、紅条だけ置いていくワケにもいかない。
しかし、長時間励ます程時間に余裕は無い。
·····どうしたものか。