〚花蕾−Ⅲ〛
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10月 17日(火) 天気:晴れ
・記入者:來世 翠
・欠席者:なし
・任務:なし
・記録:今日は此れといった大きな事は無かったと思います。IPPのメンバーはまだ余りお互いに打ち解けていないような気がするので、どうにか出来たらと思います。
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10月 31日(火) 天気:曇り
・記入者:冬間 御寿
・欠席者:無し
・任務:蟲討伐
・記録:北区にて蟲の襲撃。隊全体の動きが鈍く、善処すべきだと感じた。
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11月 1日(水) 天気:曇り→晴れ
・記入者:菊帥 壱
・欠席者:紅条
・任務:他の隊と蟲を討伐。
・記録:紅条が体調不良で休んだ。他の隊との討伐任務で、冬間が独走(?)してたから注意をしたが、あまり聞いていなかったと思う。
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「·········」
書類整理をする紅条を除き、誰も居なくなった隊室は、酷く静まり返っている。
其の他の隊員は、中庭で東棟の裏で鍛錬をしたりするなどして、全員出かけている。
紫暮は····呼び出されて何所かへ行った。
地味に嫌な予感がする。
顔合わせから2日が経ったが、まだ任務は与えられていない。
暇な自分は、過去の資料から空白の20年間に何があったのかを吸収する作業に徹している。
·····が、此れといって大きい事は無い。
地域の人員不足が少々目立つが、国内は安定している。
IPPも日誌を見る限り目立った任務はまだ行っていないようで、気になるのは冬間の独走癖と、紅条の身体の弱さくらいだ。
まぁ、出来て間もない隊だ。
余り仕事が回って来ないのも当然だろう。
其れに、此処20年間は災害も少なく、比較的安定している所為で、下の階級の庭師は暇になりがちになっているようだ。
······しかし。
記録を見てみると、『開花』してしまう人の人数は現時点で少なくはない。
つまり其れに比例して、蟲の数も増えるという事だ。故に此処まで何も無いのは可笑しい。
あくまでカンだが、絶対に近々何か厄介な事が起きる。
····何も、無いといいが。
そう願いながら、書類を置いて静かに椅子から立ち上がる。
時間もある事だし、隊員の様子でも見ーーー
キィ……
「御報告致します。」
「········!」
何も無いようにと願った直後、其の『何か』は起きた。
隊室に大股で入ってきたのは、先程迄呼び出されていた紫暮。
そんな紫暮が「報告」という事は、任務だろうか?
······憂鬱だ。
復帰初の任務。
会長が要らない気合を入れてそうで、良い予感がしない。
「·····報告を。」
「はい、ではまず此方を····」
再び椅子に身体を預け、差し出された書類を受け取る。
ホチキスでまとめられた書類には、任務に関する情報がビッシリと書き連ねられている。
相変わらず、まとまってるクセに、細かくて長い。
資料にあるのは、樹怪の侵食した東京都南区の地図。
·····都内か、近いな。
此れはまた厄介な任務を放ってきたモノだ。
都内は後退が許されない分、どんなモノであろうと、相当遣り辛い任務だ。
まぁ、隊の実態を知る良い機会かもしれない。
此の任務を終えてから、今後の方針を考えよう·····
·····面倒な事になりませんように。
[樹怪]
平均時速5km²/hで侵食する樹海。人や生き物も呑み込んで栄養にし、蟲の巣窟。核を破壊するまで止まらない。意外と鉱物などのお宝の山だったりする。