〚山茶花−Ⅰ〛
※〚山茶花〛は、冬間 御寿視点です。
其の日の夜。
夕食時を過ぎた食堂は、昼間の賑やかさとは打って変わって、とても静かだ。
「ーーー凄い、本当にあの人が指導官になるんだ!!」
「はいはい、分かったからさっさと食え。食堂閉まっちまうだろーが。」
しかし其の静寂は長く続かず、來世の熱を帯びた声が食堂に響いた。
まぁ、俺達以外誰も居らず、喋ってるのが來世しか居ないから響くのは当然か。
「でも~、裁暁博士って随分若いんだね!ワタシ達と同じくらいじゃん。」
「それな。本当に20年も隠居生活してたのか?」
「そう、其れが謎なんだ!!」
今朝俺達の前に現れた裁暁博士は、幼い頃父さんから聞かされた姿と、全くと言っていい程同じであった。
女にしては短いシルバーブロンド髪に、月咲色の目。
年は17歳くらいで、スラリとした細い体躯。
全てが、父さんの話していた通りだった。
そう、父さんが·····
「普通は遅くても6年に1つは年をとる筈なのに、裁暁博士は20年間全く年をとっていない。
しかも、噂によると200年間17歳のままらしいよ!!」
「は?どんだけ歳とらねーんだよ···」
「だって、残ってる記録を調べても200年前からあの見た目なんだよ?」
來世がテーブルから身を乗り出す。
どうやら、菊帥が話にノッた所為で、來世のヲタク魂に火が付いたようだ。
余計な事しやがって。
アイツの良い部分しか知らない癖に、好きだの格好いいだの言うんじゃない。
アイツは、父さんを死なせた。
「あー、明日からが楽しみだなぁ。」
「そうだね~」
黙れ。
何が『最終兵器』だ。
其処まで強いなら、何故父さんは死ななければならなかったんだ。
ーーー『裁暁 朝日』。
俺は、誰が何と言おうと、お前を赦さない。
[IPP−1]
IPPは、『Improvement Plant Person』の略。つまり品種改良された人の事。朝日が受け持つ事になった隊。
[シルバーブロンド]
色素の薄い金髪の事。
[月咲色]
シルバーブロンドを目の色として表現しようとした結果、此の色名になった。