〚花蕾−Ⅱ〛
[種要]
頸動脈付近(鎖骨の間あたり)にある、卵型の臓器。大きさは1cmくらい。S細胞を生み出し、栄養を与えている。
何らかの原因でS細胞が増え、「身体に供給される栄養」と、「S細胞に与えられる栄養」のバランスが崩れると『開花』して死亡する。
木の薫り漂う隊室に、柔らかな日が差し込む。
「ーーー本日より、不本意ながら『IPP−1』の指導官となりました。『裁暁 朝日』です。至らぬ点もありますが、宜しくお願いします。」
「不本意って貴女····」
東棟の1室···『IPP−1』の隊室に、自分の無機質な声だけが
静かに響く。
隊室の内装は石の床に、木製のデスク。
其れ以外は観葉植物少々と、物が少ない。
出来たての隊故、当然だろうが。
····まぁ、其の方が動きやすくていい。
「·····あ、あの!『來世 翠です!!」
隊室には、自分と紫暮を除いて男女5名。
今話し掛けてきた深藍色の少年を含め、
「初級者の『菊帥 壱』」
と、
「·····」
「ほら、冬間君も何か言ってよ!」
「········」
の3人だ。
そして女は
「え~?じゃあワタシ言っちゃうよぉ··『白庵 リト』17歳!宜しくお願いします!!」
と、失語症を持つ
(『紅条 結妃』です。)
の2人だ。
紅条はメモを通しての会話となる為、ある程度気を配らねば。
「····あぁ、宜しく頼む。」
冬間を除く自己紹介を終え、改めて挨拶をする。
まぁ、順風満帆とはいかないが、穏便に顔合わせが出来て良かった。
5人の階級は、まだ全員隊に入ってから長くない為に低い。『冬間 御寿』は中級者だが。
······苦労しそうだな、コレは。
いくら品種改良によりS値が高くなっていても、其れを遣えなければ意味が無い。
其れに、花にばかり頼らず戦う事も教えなければ。
紫暮の様に。
其の為にはまず、此の5人の現状を実際の目で見る事だ。
····まぁ、1週間も見てれば分かるか。
どうするかは、其処から考えよう。
和気あいあいとした雰囲気の中、冬間の視線だけが冷たく、自分を刺していた。
[花]
S細胞が何らかの原因で成長し、開花したモノ。「摩擦による可燃性がある」など、何らかの性質を持ち、庭師は此れを扱う。