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はじめてのセド5

ものすごい勢いで二人同時に何事かまくしたて始めた。速すぎる。しばらくぼーっと聞き流すワラビの声がさらに大きくなった。


「ワラビブタ、早いない。ゆっくり、しゃべれ!」

ワラビブタはまずそうだな。首を振ると、ワラビが膝をついて、私の両肩をがしっと掴んだ。

「いいですか、ハル。私はハルが好きです」

「私、知っている」


私は頷く。ハルが私を好きなのは分かっているが、ご主人様に仕えるだけではなく、友達ないしは恋人がいたってよいと思うのだ。


「知っているのに、私を好きだという人間を連れてきたというのですか。あなたは私の伴侶なのです。あなたが分からなくとも」


ワラビは泣き出した。


「よいですか、私はハル以外いらないのです」

切々となにやら訴えられる。以外というのがいまいちよく理解できない。

「わーらーび、泣き虫だ」


仕方ないので、頭をぽんぽんと撫でてやりながら、ごめんねの気持ちを込めて男を見上げれば、残念なものを見るような目で見られていた。

そう、ワラビは残念なヤツなのだ。分かるぞ、と頷けば、男はさらにダメな子を見る目で私を見て首を振った。

あれ、もしかしてこれは私がまたなにか間違えたのだろうか。間違いだらけの人生なので、いまさら間違いが一つ二つ増えたところでどうっていうことはないのだが、意思疎通の段階での間違いとなると、対処の仕様もない。

どうしよう、困っていると男が呆れたように口を開いた。


「おい、一応言っておくが、俺はこいつのセドの後見としてついてきただけだ。サイタリ族の伴侶に手出すつもりも、男に好意も微塵もないからな。それから、俺の名前はブロード・タヒュウズ。ブラッデンサ商会の会頭だ。ブタではない」

最後の一言にワラビが私の肩でくすっと笑った。見とれるような仕草でハンカチを出すと、涙をぬぐい、顔を上げた。

「ワリュランス・ビュナウゼルです。私もワラビではありません。それで後見とは?」

「リドゥナの申請で総史庁のやつを困らせていたからな」


男が私を見た。ワラビは男が何をいったのか分からないが、嫌悪感はないみたいだ。これはお友達作戦継続でよいのではないか。

となれば私は邪魔ものだ。


「ワラビ、私、セドとるした」


とりあえず報告すると、二人から少し離れた日向ぼっこ用の樽の上に腰かけた。

後は二人で交友を深めてくれたらいい。

私が離れれば二人は話し始めた。違うと言っていたが、なかなかどうしてよいのではないか。ワラビの友達になるのではないだろうか。年のころも同じくらいだ。


「どうしてですか。きちんと身分証も作りましたが」

「そりゃ、偽名じゃダメだろう」


ワラビが困ったようにこっちを見た。呼ばれている感じでもないので、足をぷらぷらさせながら空を見上げた。いい感じの雲の塩梅の青空だ。わたあめが食べたくなってくる。


「本名、なのか?」

「いえ、そういうわけでは。ハル、名前言えますか」

「ハル・ヨッカーです」


名前をきかれたので答えれば首を振られた。


「本当の名前、最初に教えてくれた名前です」

言えないのにどうして知りたいのか。ワラビは謎だ。

「楠木小春」

「くしゅーのく」


男はワラビよりダメダメだった。残念なヤツと思ったがもちろん私は顔には出さない。良識ある大人だ。名前の一つや二つ言えなくても許すだけの心はある。ち、なんて舌打ちはしない。しないったらしない。さみしいなんても思わない。うん。


「どうにも発音が難しくて、言いやすい名前にするといって……。」

「だからってなぜハル・ヨッカー?」


今度は男がこっちをまじまじと見た。私の話題なのだろうか。セドの話かと思っていたが。もしくは連絡先交換とか。


「誰にでも間違われない、知られている名前ということで。まさか本当にそれにするとは思わずに」

呆れた風の男にワラビはなんだか気まずそうだ。

「まあいい。名前のせいで不審がられてリドゥナの受理がされていなかったから、一応俺が後見になっておいた。浮浪児に見えたからよけいに誰かに操られているのじゃないかと思われたんだろ。一応確認したし、総史庁の方には俺から届け出ておくから」

「ありがとうございます。そこまでしていただかなくても」


ワラビは丁寧に頭を下げた。いい感じだ。


「気にするな。人助けは趣味みたいなもんだしな。セドの後の手順は分かるな?もしなんかあればいつでもブラッデンサ商会に来い」


男はじゃあな、というと去っていこうとする。

私はハルの横に立つと頭を下げた。挨拶は大人の基本だ。おう、と男前な返事だった。男が背をむけたので、ワラビの服の裾を引っ張った。


「ワラビブタ仲良し?」

「違う!」


背を向けかけた男と、ワラビの声が重なった。仲良しでよいのではないかと思う。


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