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そこからloserの動きは速かった。納刀してあった刀を抜くと共に跳躍しそのままの勢いで斬って来た。俺は紙一重で何とか躱し素早く刀を構える。その瞬間目の前にはまた刀が見えていた。loserは空振りの勢いをそのままに一回転し持ち合いの大太刀の長さを使いもう一回俺のところまで刃を届かせた。勢いも俺の方向とは反対だったので威力は弱かったが、少しでも反応が遅れていたら頭部を輪切りにされるところだった。loserは体を俺の方に向け着地した低い姿勢のまま今度は足元目掛け刀を振るう。俺はそれをバク転で避ける。4、5回避けた後、態勢の低いloserは両手で持っていた刀を右手に持ち、左手で地面を強く押しそのまま空中で一回転。その勢いのまま大きく振る。俺はその攻撃を避ける事が出来ず何とか刀で受けるが、その威力に思わず仰け反る。
「3発も弾丸も受けてそれだけ動けるのは流石の一言だな。痛覚とかないのかよ。」
「喋ってる余裕あるならもっと戦いに集中しろ。」
「言われなくても。」
刀を斜めにし大太刀を滑らせ僅かにloserの態勢を崩す。それに続き軸足を絡ませ一気に転ばせに掛かる。前に倒れて来たところを柄頭を鳩尾にめり込ませる。刃を口に咥え一気に背負い投げを決め込む。床に勢いよく叩きつけ手を掴んだまま素早く左足を右肩に蹴り入れ骨折。そのまま右肩を外し脱臼、無理やり捻り筋断裂。さらにその腕1本で肩を支点に今度はうつ伏せになるようもう一度背負い投げ。
「はぁはぁはぁ」
何とか、攻撃が、繋がった、か。こんなデカブツそう何度も投げ飛ばすなんてできないぞ。にしても肩を完治不可能くらいにぶっ壊しても、悲鳴1つ挙げないどころかその腕で起き上がるとか溜息出るんですけれども。
「昔から思い込みは得意でな、プラシーボ効果ってやつか。それとゲートコントロールとかもあったな。そんなわけで俺を止めるならまず頭ぶっ壊せ。」
そう言い終わると握っていた大太刀を一投。流石に動きに慣れてきて今回は少し余裕を持って動けた。だから慌てることなく向かってきた大太刀を弾く、が
「いつナイフ投げたんだよ!」
弾いた刀のすぐ後ろからナイフが飛んできた。もう何度目ぎりぎりなのか分からないが、ナイフのブレードを何とか右手の裏拳で吹っ飛ばす。その際グリップに有刺線が巻かれてる辺り本当にぬかりないと思わされる。
多分あれに毒とか塗られてるんだろうなぁ。ってあいつの手の動きなんだ?……自分に向かって何か引っ張って……くっそが!
急いで振り返るも間に合わず、向かってきた大太刀が右胸に刺さり始める。しかし不幸中の幸い、気付いたのが早めだったので肋骨まで届くことなく鎬を掴み止められた。浅く刺さった太刀を抜き、柄の部分に巻かれていた極細の糸をぶち切る。
「今敢えて油断したつもりだったんだがなぜ襲ってこなかった?」
後ろを振り返り仁王立ちするloserに問う。
「今さっきので認める。お前は強い。だから正々堂々と決着をつけたかった。それだけだ。」
「随分と人間ぽいこと言うようになったな。最初の方がまだ怖かったよ。いいよ、もうそろそろ決着つけよ。あんまりバトル展開引き伸ばすとぐだぐだになるって前に教えられてな。」
俺は模擬刀の刀の部分を握り少し力を入れ、宛ら鞘のように刀の部分と柄の部分が離す。そしてその中から刃のついた本物の日本刀を出す。
「とんだビックリ刀だよな。俺も初めはビックリしたけど……まあいいや。じゃあこっからほんとの真剣勝負ってことで。大太刀、返すか?」
「そうだな、どうせなら剣戟で勝負つけるか、」
俺はもう碌な警戒もせずにやつの大太刀を取りに行きそれを渡す。戦って少しだけ分かったが一応こいつにも通すべき仁義というのがないというわけではないらしい。
刀を渡した後、お互いに距離を取り、10mほど離れる。俺は居合の型をとり、対するloserには特に構えない。確かに型を取ると動きが読まれやすくなるから構えない方がいいという意見もある。けれど俺はこの型を取ってる時が最も集中できる。大切な戦いの時はいつもこの型だった。今は鞘と刀が若干大きさが合っておらず、少しだけカタカタいうが別に問題ない。いつものように抜いて、いつものように斬りつけるだけ。その相手がどんな奴でも。
「型取ると動きが「知ってるわ。」......そうか。じゃあ来い。」
それたけ言うとloserは目を閉じそのまま固まってしまった。勿論寝ている訳ではない。これはloserなりのルーティーンか何かなのだろう。目を閉じているが覇気のような威圧感を肌に感じる。
......覚悟、決めなきゃな。
怖いか?ー怖い。逃げるか?ー逃げない。降伏は?ーしない。勝てるのか?ー分からない。それでも挑むのか?ー挑む。
何故?ー勇気、理由、きっかけ、思い、願い、居場所。俺には贅沢すぎるほど貰ったから。それは簡単に捨てられるものじゃないから。
そんな分かりきってるならこんな自問自答する必要あるか?
思わず鼻で笑ってしまう。
「全くないな。」