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片手で柄の部分を持ちそれで体を空中に留める。そこから何の予備動作もなしに凄まじい速さで蹴りが飛んできた。俺は咄嗟に両手をクロスさせそれを受ける。それと同時に後ろにジャンプをして極力ダメージを減らす。けれどその威力はまるでコンクリートの棒みたいなもので殴られたように痛みが鈍く響く。1、2m程後ろへ飛ばされてた後そのまま2人の元まで下がった。
「先頭にはあの化け物。その後ろにも仮面を被った8人、確かaとかbとかだっけ?それに見知らぬ人が4人ほど。どうみる以蔵?」
視線だけやると以蔵は口に手をやり何やら独りでブツブツ呟いている。下を向き作戦でも考えているのだろうか。少し待っていると「とりあえず」と相手を見据え語り始める。
「あの負け犬はボッチの単独行動だろ。で、仮面は仲良く8人纏まって動くだろ。その他も多分固まって動くだろ。一番強い人は負け犬と戦い、次が仮面で雑魚共になるか。」
ま、そうでしょうな。
「じゃあ俺がloserぶっ飛ばすんだな。仮面は任せたぞ?」
「いや、俺が負け犬と戦うんだろ?お前俺より弱いだろ」
「お?」
『ここで敢えてあたしという......』
「「......」」
「(тωт。`)』
「どっちでもいいから早くしてくれ。どうせ俺より弱いんだから。」
「「『......』」」
なるほど、これが強者の余裕ってやつか。まあ確かに実際俺らの誰もloserより弱いのは明白ですし、相手には全く悪気がなく言ってるし、これで怒るのは些か子供だな。
キィィィン
「......随分と沸点が低いんだな。こんなことで怒りを露わにするなんて。」
「生憎俺はまだ子供なんでね。ムカつくものはムカつくし、嫌なものは嫌なんだよ!」
叫び声と共に先ほどよりも強い力で無理やりに押し切る。loserの表情には一切の変化も見られないが後ろに大きく飛んだので間髪空けずに距離を詰める。そしてそのままの流れで俺とloserとの戦いとなった。以蔵も止めることはなくa達と向かい合っていた。そして春夏秋冬も同様に。
loserの大太刀は先ほど地面に突き刺さっていたので、実際は2mほどあった。重さも相当にあるだろうがそれを一切感じられない刀捌きは圧巻の一言だった。
そしてここで攻守が逆転しloserからの攻撃がきた。それを刀で受けるがやはり力負けをし、後ろに跳ぶ。それも当然、こちらの模擬刀はloserのと比べて半分もない長さに重さも相手のと比べると軽すぎる。先ほどみたいにまともに打ち合ったら力負けするし、間合いも向こうのほうが圧倒的に有利。しかしこちらも機動力ならば勝ち目はあるだろうし間合いを越えて懐に入れれば一気に戦況は動く。ということは前提に向こうも動いてくるだろう。向こうの方が圧倒的に潜ってきた戦場も多い。日本刀との戦いの経験だってあるだろう。それに比べ俺はたった2年しかそういうのを潜ってしかないし、あんな大太刀との戦闘なんてしたことがない。
俺が飛ばされてから向こうから動き出す様子は見られない。しかし正直に言って全く勝てる気がしない。冷や汗が滴る。強がって睨んではいるが内心焦りがすごい。
すると後ろから鎬を削る音と発砲音が聞こえた。どうやら向こうも始まったらしい。俺も覚悟を決めloserに突っ込む姿勢をとる。怖いけれど踏み出さなければ進まない。
「......1つだけ、いいか?」
そんな事をloserは言ってきた。質問をしてくるなんて少し意外で油断してしまったが、相変わらず向こうが仕掛ける様子はなかった。終いには刀を収めてしまった。俺は少し考えてから疑心暗鬼に「何だ?」と答える。
「お前は何故そこまで必死に生きようとする。生きて何の意味がある。」
「......」
生きる意味、なんてそんな倫理、道徳みたいなこと言われたってわかんねえよ。
「...俺は死んで何かを変えられる程大した人間でもないから、生きてたら何かを変えられるかもしれない。そんな...感じ。」
何言ってるんだ俺は。自分でもいまいちよくわからない。恥ずかしい。表情には出してないけど顔が火照ってくるのがよくわかる。もう死ねよ。
「......深いな。」
「いや、別に深くはないかと。」
「じゃあ浅いのか。」
「いや、...いや.....」
「浅慮か。」
何だこいつ。なんか思ってたのと違う。確かに1度として話したことは無かったがもっと冷酷無慈悲で残虐非道な人だと思ってたのに、少なくても心という心がないと思っていた。
「お前さ、今どういう状況かわかってるのか?」
「お前が浅慮を俺に諭していたところだ。」
違うから。そんな堂々宣言されましても。......なんかテンション下がるな。案外そのままいけばこいつこっちに引っ込めるんじゃないか?
「loserさんはオセの言葉が正しいと思っているのか?」
今度はこちらからそんなことを訊いてみる。
「浅慮についての議題は打ち切りというわけだな。まあいい。質問の答えは否だ。完全に自分の都合のいいように話しているだけだろう。」
これまた意外。てっきり「我が君主」なんて言ってたから崇拝しきってると思っていた。それにこの様子だと精神支配みたいなのをされていないように見える。だけどこれももしかしたら戦略の一つと考えられるからあまり気は抜かないが。
「だったら別に俺らが戦う意味なんてないだろ。お前なら話がわかりそうだしそこを通してはくれないか?」
一気に話をつけにいく。今後ろの2人が戦っている以上時間の余裕だってない。もし戦わないでいてくれるのならば後の敵なんてなんとでもなるくらいに思える。そんなことを思い俺ははただloserの目を真っ直ぐに見つめる。
「まぁ別にいんじゃないか?少なくとも俺個人は。」
「los
次の瞬間パン、パン、パンと3発の銃撃が聞こえた。それは春夏秋冬のものではなく、他の生徒でもなく、いつのまにか1人高みの見物を決め込んでいたオセが放ったものだった。そして撃たれたのはloser。右手、両脚に1発ずつ。撃たれたloserは特に痛がる様子はなかった。けれどこいつなら防げたはず。俺にだってあいつが撃つ瞬間が見えたんだ。それならloserだって。けれど敢えて受けた。撃った理由も撃たれた理由は明らか。そして次の瞬間にはloserの殺意が一気に膨れ上がったのがわかった。そして再度俺と向き合う。
「悪いな、それはどうやら許されないらしい。悪いがここで死んでくれ。」