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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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琥珀が旅立ってから俺は一つの決意をした。それはここから出ようということ。そしてそのためには奴が最初の頃に言っていた卒業試験とやらを受ける他なかった。どうせあいつのことだ、名目ではそんなこと言ってても実際は反乱分子の公開処刑だろう。

「じゃあ卒業試験を受けるんだな。言っとくがこの試験を受かったものは誰もいないぞ。それでも受けるんだな?」

「...ああ。」

「わかった。まあそれはこっちも都合がいい。お前らを集めた理由も失敗作を集めて、今後どうしたいか考えさせてやるつもりだったしな。......明後日がお前の処刑日だ。精々後悔のないようにな。」

いつまでもお前の考えるように行くと思うなよ。俺は気味の悪いその仮面を強く睨みつけた。


その日の夜、みんなを集めて話をした。勿論卒業試験について。

『卒業試験のルールは至極単純。試験が始まってこの施設から出れたらその時点で卒業。そしてちゃんとこの学校の卒業手続きも済ませる。』

「どうせ殺されるのならって思って俺は試験を受ける。勿論みんなと一緒に受けてここを出られればベストだけど、試験内容の詳細が不明なのに全員で突っ込むのもリスクが高いと思う。だから俺が試験を受けて、それを見て試験を受けるかどうか決めるのも全然ありだと思う。受けなくても100%殺されるとは限らないし、でも逆に受けたらまず確実に殺されるだろうしな。」

とりあえず判断は各々に任せる。これが俺の意見だった。最期になるかも知れないのだから、終わり方くらい自分で決めるべきだ。そしてその結果、俺と春夏秋冬と以蔵が試験を受け、ウィズと翁と京が受けないとなった。残念な気持ちも当然あるし、京と以蔵が意見が割れるとも思わなかった。だけど俺がとやかく言えることはない。

俺は残りの時間を最終調整とみんなと過ごすことに費やした。後悔が何もないかと言われれば勿論そんなことはない。寧ろ後悔だらけだ。だからこそ何としてもここを出て、それらを片付けないと。だから少しだけ、琥珀、俺に力を貸してくれ。


そして当日。放送で呼び出された俺と春夏秋冬と以蔵はあいつの待つ体育館の扉を開けた。

「逃げずに来たことを先ずは褒めてやるよ。なんてラスボスっぽいこと言ってると逆に俺が殺されそうだな。となるとお前は(さなが)ら主人公だな。俺さ、主人公の1番の強みってどんどん仲間ができるところだと思うんだわ。そこで掛け替えのない友人とか作って彼女とか作ってハッピーエンドとかだろ?お前もそんなんじゃないの?そんなやつはここにはいらねぇよ。」

いつも通りにそんな与太話みたいなのをする。だけど人間何故だか「これが最後だから」と思うと気が楽になる。そしてこれも何故だか、最後と思っていてもそれは大体最後じゃないことの方が多い。

「だったら素直に帰してくれないか?ここのことを言い触らしたりなんかしないし、もう関わらないと誓うからさ?お互い時間の無駄だろ。鍛えてくれたのには素直に感謝はできないけど、それなりの対価は2年近く掛けて払ってきたはずだか?」

そんな無意味な会話を続ける。本当に、なんでこんな事話しているのやら。

「見た感じ、あの女の事は多少吹っ切れたらしいな。それなら少しは楽しめそうだ。そして勿論お前の提案は拒否だ。愚問。そこのハッピーセットと一緒に散り花咲かせな。」

オセが高らかに上げた手を振りかざすと何処に隠れていたんだか、ステージ横から有象無象が出てくるのなんの。そして当然そいつら漏れ無く全員殺意に満ち満ちている。

俺は昨日以蔵から貰った刀身1m程の太刀をゆっくりと鞘から抜く。そして鈍く光る(すず)色の切先を討つべき者へと向ける。

「おーこわ。で、何なの?戦闘は剣って相場でも決まってるの?そうやってカッコつけると勝てるの?それで死んだ恋人の力で覚醒とか?はいはい、すごいですね。マジパネェ。でも結局現実の前では全部パーなんだよな。ほんと報われない。」

オセの話を黙って聞きつつ抜いた刀を峰から肩に乗せる。

そうだな。俺もそう思うよ。いやぁ、全くの同感だ。

「お前の言いたいことはすごいわかる。俺も同じこと考えてた。だからつまりさ、俺とお前の違いはそこから先、「だから」と諦めるか「それでも」と縋るか、だろ。」

刀を下ろし再度握りなおす。その瞬間烏合の衆も戦闘態勢に入る。

「悪いけどいつまでも立ち止まってるわけにはいかないんだ。踏み出す勇気も......もらったから。それにそろそろ世も卒業シーズンだろ?中学浪人なんて笑われるのもごめんだ。」

両の手で柄を掴む。

「琥珀を亡くしたこと、それと俺の記憶を奪ったこと。何を消されたかはもうさっぱりわからないけど、大切なものだった。簡単に精算できると思うなよ。」

右足を後ろにずらし霞の構えをとる。

「それじゃあ先生、短い間お世話になりました。さようなら。」

俺は笑顔を浮かべ、大群衆に銃弾の如く突っ込んでいった。

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