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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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2年振りに帰ったそこは相も変わらずだった。世代としては俺は最高学年になるがここではそんなのあまり関係ないか。そして気になるのはやはりここにいた頃の琥珀を除いたあの5人。琥珀はここじゃないどこかで選抜組として活躍しているはずだが、他のみんなは全く分からない。ここに俺が呼ばれたってことはきっと降格とかそんなんだろう。もしくはこのまま殺されたりか。確かに俺はそれなりに強くはなったけれど、心の底からオセに従おうとは思えなかった。あいつの求めたものにはなれなかった。きっと不良品扱いが関の山だろう。

「あいつ誰だよ」と煩い視線を浴びながらしばらく歩いていると、ここに呼び出した張本人が出てきた。

「おー久し振りー。まー積もる話もないからしちょー覚室にでも行っといてー。」

それだけ言うと足早にどこかへ行った。別段俺も話すことはなかったので視聴覚室へ向かった。


少しだけ「この扉を開けたらみんないたら...」なんて淡い想像しながら開けると本当に珍しく俺の望みが叶った。春夏秋冬、翁、ウィズ、京、以蔵。かつてここで過ごした仲間たちがそこにいた。急激に色々な感情が押し寄せ何かを言い出す前に何故か涙が出てきた。留めなくいつまでも。とっくに枯れていたと思っていた。

そんな俺をみんなは優しく迎えてくれた

バコッ、スパン、ボコボコ、ゲシッ、ドス、ゴッ。

「ざっけんなお前。なんだあの手紙。痛々しい言葉並べやがって中二病真っ只中か。あんな言葉で納得できるか、俺らも、お前も。」

というわけではなかった。寧ろフルボッコに遭った。お前らには感動の再会とかはないのか。...ま、ないか。

「本当に勘弁して欲しいですぞ。夜一殿が蒸発してからどれだけ春夏殿がおふっ!?」

「ッ!」

やべぇ、春夏秋冬が2年間で暗殺術極めてやがる。登場4秒で1人落ちた。

「それなら今夜夜通しで慰めてもらえばいいじゃん。色々溜まったものだってあるだろうしそれを一気に出しちゃいなよ。」

「何というか、京の馬鹿さ加減も変わらないな。」

傍から見てる以蔵も相変わらずって感じ。

『...琥珀ならまだ来てないよ。でもあいつが全員集めるって言ってたから来るはず。』

「そっか。」

みんなに会える喜びと同時に、何故集められたのかというのと、琥珀の現在の状態についての不安が同時に心に湧く。


その夜はみんなで視聴覚室で過ごした。各々の近況報告をした後、堅苦しい会話は終わりひたすらに談笑していた。その時間がとても心地よくて気付けばまたあの頃のように笑ってる。やっぱり俺の心は凹みやすく(つばく)みやすい、すごい単純なものだった。ほんと、ばかみたいなほど。


翌日、「全員集まるまでご自由に。」と言われたので朝食を食べた後、トレーニングや勉学に勤しんだ。正直琥珀のことが心配であまり身に入らなかったが何かしていないと落ち着かなかった。

そのまま昼、夕方と過ぎて行き、やがて夜を迎えた。

「来ませんなぁ琥珀ちゃん。」

頻繁に時計を確認する俺を見て翁がそう言う。その顔は珍しくいつもの冷やかしなどではなく、純粋に心配してるようだった。

「俺以外のみんなが集まった時はどうだったんだ?やっぱりバラバラに集まったのか?」

俺はこの中では最後に来たのでそこはわからない。でも昨日交わした会話だとみんな選抜組のようにここを出て色々な場所に行ったらしい。

「俺がここに来たのは2番目だな。でもそれから3時間と経たずにお前さん以外はみんな揃ったぞ。そしてそっから5…時間くらいかな?してお前さんが来た。」

「そっか……」

そうするとやはり琥珀は遅すぎるな。やはりこの不安は直接会わないと解消されないらしい。

「それにしても随分琥珀ちゃんの事を気にするんだな。やっぱあれか、惚れちゃってたか!会えない時間が2人を強くするあれか!これは会った時爆発しそうで怖いな〜。」

「実際不安だらけだよ。琥珀とはあんな状態で別れたからな。ここに来た際、理性とかが欠如してそうで怖い。」

「マジで返すのやめない?俺が空気読めないアホみたいな子じゃん。」



「ハローみんな!遂に待ちに待った琥珀君が御到着されなすったから、今からちょっとあたすがむがえいってくるだぁ。」

「ちょっと待て。」

俺はそう言いオセの足を止めた。オセが迎えに行って帰ってくるまでに琥珀に何をするかわからない。もしかしたら「エレベーターから出たら眼に映る人全部殺せ。」とか馬鹿みたいな事を言っても不思議ではない。もちろん琥珀に理性が残っていればそんな事はまずないだろうが。

「嫌だよ!ヴァァーーーカ!!」

両中指を高らかに突き上げ仰け反りながらそう叫んだ。それが終わると今度はエレベーターまで走っていき、「死ねぇ!!」とまた叫びながら扉が閉まった。こうなったらもう俺たちにできることはない。後は無事にここに琥珀が来てくれるのを願うだけである。


エレベーターが発ってから戻ってくるまで誰も口を開かなかった。みんな多分春夏秋冬から事情を聞いているから状況は分かっているだろう。特にそれを直接見た俺と春夏秋冬は一層気を張っていた。

みんな琥珀に殺されるのではないか、そんな事を心配してるわけじゃない。もし襲われた時に琥珀との思い出が過り戦えないのではないか。それがみんなの思うところだった。俺はさらに人に暴力を振るうのが嫌いなのに、親友を殴るような事をできるわけがない。もう力が全て物言う世界はこりごりだ。

そして遂にエレベーターがこの階に着いた音が響いた。

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