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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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知っての通り俺は別にフレンドリーではないから友達は多くない。たまたま運良くここでは友人に恵まれたがあの6人以外に友達なんていない。だからその言葉の意味は何となくわかった。

「いやはや、彼の件はまっこと運良きことよ。稀稀あんな事が起きるなんぞ。何が起きたかは汝が自ら確認せえ。そして儂に(かしず)くがよい。」


準備が終わりここに来た8ヶ月前に来た道とは違う道で地上に出た。目隠しをされていたから道程は明確にはわからなかった。そして車に乗らされ目隠しを外された時には既にどこかの町に出ていてそのまま車に揺られること数時間、いつの間にか降り出した雨は勢いを増し土砂降りとなった頃、車がようやく止まった。そしてどこか見覚えがある景色は俺の家の近くであることはすぐにわかった。そこが葬式場であることも知っていた。その瞬間、不安は一気に絶望に変わる。身体の痛みなど忘れ車から飛び出す。式場の横にある立札の名はよく知っていた人の名だった。だけどそんなの信じられなかった。嘘だと自分に言い聞かせ、駆け足で中に入り開け放たれた扉を覗けば、受け入れたくない現実(ぜつぼう)がそこにあった。


「夜一兄さん……」

雨音で掻き消されそうな程弱々しい声が俺の足を止めた。振り向くと目を真っ赤に腫らした妹がいた。

「亡くなった原因って篝は知ってるか?」

「……居眠り運転の人に車で……」

「……そうか。」

それだけ言い、帰ろうと振り向こうとした俺の胸に篝が飛び込んで来た。振り解こうとすれば簡単に振り解けられるほど弱い力だった。だけどその腕を解こうとは思わなかった。短い嗚咽と鼻を啜る音が胸の中で聞こえる。

「夜一兄さん、怪我してるの?胸のところ……」

少し泣いたら落ち着いたのか、そんな事を訊いてきた、隠し立てするつもりもないので俺は服を捲りその傷を見せた。他にも施設で負った傷も多々あったがその一切を隠さず見せた。その痕に篝はしばらくの間言葉を失っていた。

「……どうしたの、これ。虐めとかに遭ってるの?怪我ってレベルじゃないよ。」

「そういうのじゃない。心配するな。......もう、大丈夫だから。」

そう言い聞かせ頭を撫でる。そういや前にも琥珀にこんなことしたな。

篝が何か言おうとするとその度強く頭を撫でた。そして最後に頭をポンと叩くと今度こそ踵を返し立ち去った。

「大丈夫なら、ちゃんとそれらしい顔してよ!」

そんな篝の声が聞こえたがもう振り向く事はなかった。こんな顔をこれ以上篝に見せたくなかった。


もしかしたらあいつが死んだのはオセの仕業かもしれない。

そんな考えが頭を巡る。もちろん確かな証拠があるわけじゃない。だけど考えられずにはいられない。もしそうなると俺はいよいよオセに逆らえないわけだ。俺の周りの人全員が人質となってるかも知れないんだから。あいつのことだから何の躊躇いもなく傷つけるだろうな。ははは……もう、嫌だ。俺は一体どこまで無力なんだ。


「帰ってきたわね。うふふ、すごい疲れた顔してるわよ。そう、やっと私に尽くしてくれるのね。嬉しいわ。そう、あと最後にあなたに忘れて欲しい事があるの。あなたの両親について、それを全て忘れて欲しいの。うん、まず体の力を抜いて……頭を空っぽにして………そうよ、ゆっくり………そのまま…………。」


それからの日々は本当に語るほどでもないものだった。言われるがまま、されるがまま。色々な所に行き、色々なことをした。人の道を外れた事も何度もした。いっそ完全に心が壊れてしまった方が楽だった。もしこれが強くなるということなら弱い方がいいと思った。力なんて強くなったって意味はない。本当に必要なのは、勝つための力じゃなくて何にでも負けないと思う心だった。なんて今更遅すぎる後悔もした。

たくさんの戦場で勝ってきたが、敗者よりもずっと深い傷を負っていった。それでも戦い続けられたのは「生きたい」と思い、「帰りたい」場所があり、「会いたい」人がいたから。


そして季節は巡り中学校に入ってから3度の冬を越えた。


どこかの紛争地域の抗争が終わった時、久し振りにあの施設に戻ってくるよう指示がきた。ここでの目的は終わったので踵を返す。

「¿Para ir a casa?(帰るのか?)」

「casa...?Es una orden.No puedo evitarlo.(まあ命令だからな。)」

「Entiendo,Ten cuidado.(そうか、気をつけてな)」

短い別れを告げ俺は足を進めた。

「みんな、元気かな……。」


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