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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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勿論放課後はあそこにいた全員が押し掛けてくるであろうことは予想できたので、授業終了直後に琥珀の手を取り速攻で部屋に戻った。「え!?どうしたの!?何ナニ!?」と困惑する琥珀には心で謝り無理矢理部屋に連れ込んだ。……強引に部屋に招き入れた。……親切心から琥珀を危険から守るべく行動を起こした。

「いきなり引っ張ったりしてごめんな。まあそれであの文章の事聞きたいんだけど構わないか?」

琥珀はイマイチ事情がわからないのかキョトンとした顔で「ああ、うん。」と零す。次の瞬間扉からコンコン、とノックらしき物音が聞こえた。その後もコンコン、コンコン、と続いたが出るわけにはいかなかった。すると今度はゆっくりとドアノブが回った。勿論鍵は掛かっているので開くことはない。『ゴッ』と音を立ててそれ以上は回らなかった。『ガンガンガン!!ガチャガチャガチャ!!ガンッ!!』今度は無理矢理扉を開けようと激しく扉を叩いたり蹴ったりしてる音が響く。

「え……誰なの?怖いよ……」

「そりぁみんなの前であんな事言えば当然それを知りたがるだろうよ。友情の崩壊かな。でも結局扉は開かないし無理矢理開ければルールに引っかかる。……とりあえずゆっくり謎解きでも……。」

突如パンッと音がした後、チッと頬に何かが掠った。触ると血が指に付く。そしてヒラヒラと1枚何かが舞っていた。拾い上げてみるとそれはトランプ。夜を表し、Aで、死を表す♠︎1。簡単に『夜一死ね』と。

確かにトランプを使って物を切る技はあるがよもやそれが凶器になりうるとは。多分扉から少し離れトランプを投げ、扉の下の僅かな隙間でバウンドさせて俺の所まで届かせたのだろうが……ここには曲芸師もいるのか。

しかしその後はトランプも飛んで来ることはなかったので、そこでようやく本題に入る事ができた。

琥珀の口が開く。

「まず、これはあくまで仮説だから間違えてるかも知れない。変だなとか思うところがあったら何なりと言って。じゃあ話すよ。」


「まず最初に最後のメッセージみたいな文章は今回関係ないと思う。メッセージとしてしか役割が見出せなかった。のでとりあえず✖️と。潰していった方が見やすいからね。そしてこの短歌を下のポエムみたいなのに沿って紐解いていく。厄介なのはこのポエムと謎を解く鍵が混じっていること。つまりわけると……。」

⚪︎ポエム&謎解きの鍵

本物じゃなくていい 仮物の名前でもいい

二度と繰り返してはいけなかった いや、一度だってダメだった

己を失った でも代わりに君がそこにいてくれるのなら

⚪︎ただのポエム

君は僕の生きる理由だから だから君だけは

君はそう言った

「ここではただのポエムも潰していくよ。✖️と。じゃあ最初の『本物じゃなくて偽物の名前でもいい』。これは端的に言って真名(まな)と仮名の事を指してるんだと思う。今の表現で確か真名は漢字、仮名は平仮名を指す。つまりこの短歌の漢字を✖️すると。

『✖️✖️ありと✖️う✖️の✖️✖️ ✖️✖️に✖️の✖️かぬものかは』

「……。見にくいね。まとめると『ありとうのにのかぬものかは』。そして次の指示は『二度と繰り返してはダメ、一度でもダメだった』。これは多分重なった字を両方消せってことかな。そしてそれに従うと『ありとうにぬもは』になる。そして最後の文。『己を失ったが君が代わりにいてくれた』。でも先ほどの単語の中に(おのれ)という単語はなかった。だから今朝本で調べたらこの字は(うぬ)とも読めるらしいね。だからこの文章からうぬを消して君を入れると『ありときにみもは』。最後にこれを並び替えると」

『ともみはきにあり。」

「……というのが僕の考えかな。ともみっていうのが彼女の名前かな。」

説明が終わったのか琥珀は口を閉ざした。けれどその顔は納得がいってるようにみえない。何もわからなかった俺が不平不満をいうのは烏滸がましいが確かにこの答えだと俺も納得がいかない点がある。

「この箱庭のような世界には木なんか1本も生えてない。それに人を指すのに『ある』なんて表現は使わないと思う。遺骸とかならいざ知らず。あといつ読まれるかも、さらに解読されるかもわからないのに、いつまでもそのともみさんが待ってるなんて考えにくい、と思う。」

自分の考えさえ持たず人の意見を否定するなんて論外だ。これでいざ探してみて何もなかったら琥珀はきっと傷つくだろう。「ごめんね、変な期待させちゃって……。」そんな風に謝る琥珀が頭に浮かぶ。それは何となく嫌だ。それならありもしない期待に縋るより……

「じゃあ探しに行こう!」

項垂うなだれる俺の顔を上げ手を差し出す。その眼には一片の曇りもなかった。

「こんな机上の空論並べてたって答えは出ないよ。分からなくても我武者羅がむしゃらに頑張るのが君でしょ?君が君らしさを失ったら本当の君はどこにいるのさ。すぐに可能性を捨てるような人に手を差し出すほど僕はいい子じゃないよ。」

そう言い手を差し出してくれる彼女の手を俺は掴んだ。

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