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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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「てな訳で琥珀が落ち込んでいてそれを励ましたいんですけれどもあなた方に意見を伺いたい所存です。」

「青春ですか。」

昼食。俗に言うヘタレな俺は何をすれば良いのかわからないのでとりあえず仲のいい人にあたってみた。具体的にはwizardと翁と春夏秋冬に。春夏秋冬とは声が出せない彼女な名だ。『春夏(はるか)でも秋冬(あきと)でも春夏秋冬(ひととせ)でもどれでもいい。正直あたしも知らない。というかそもそもあたしは人に呼ばれる時はいつも『お前』だったしな』と興味のなさそうに言った。「お前としか呼ばれないのに名前があるのか?」と尋ねたら睨まれたのでやめた。俺はとりあえず春夏秋冬(ひととせ)と呼ぶことにした。

「いいか少年、女の子は少し強引な男を好む習性がある。つまりこうだ!」

回想に(ふけ)っているといきなりなんか始めた。wizardが隣に座る春夏秋冬の腕を掴み椅子に倒す。そして逃れられないように勢いよく腕を顔のすぐそばにドン。春夏秋冬は少しビクついたがそれを面白がるかのように笑うwizard。春夏秋冬の前髪を優しい手先で掃け、その手をスーっと顳顬(こめかみ)、頬、顎と滑らかに滑らす。声こそ出ないが春夏秋冬は必死に口を抑えている。wizardは顎をクイッと上げて親指を春夏秋冬の唇にあてる。困惑する春夏秋冬にwizardはまるで食事前の獣のように自身の舌を舐める。春夏秋冬は顔を真っ赤にして涙袋に僅かな滴を含んでいた。そして目を閉じた。wizardは再度微笑むと顔をゆっくりと近づけていって……耳を優しく唇で挟んだ。

「流石にこれ以上は踏み込む気は無いっす。ゆりゆりホモホモは見てるのに限ります。なんなら教えますがいかがします?」

「チェンジで。」

なんだかとてもイケナイものを見た気がする。春夏秋冬は半目涙目で息遣い荒くしてるし、翁はこれでも結構男の子なのでさっきからずっと無言で見入っている。目が本気。瞬き一つせず。

「何というか、ごめん、春夏秋冬。」

『ひどいよ』


「もっとまともな方法でお願いします。」

「これが男子女子逆なら楽なんですけどな。男子ってあれですよな?女子の胸なんかに触れられたらどんなことでもしてしまうのであろう?」

「勿論だ。男子を代表してここに誓おう。」

「んなわけねぇだろ。」

どんだけ男を安く見てるんだよ。

「ま!でも結局それも大きなものでないと意味は無いんですがな!自分なんて胸部と腹部の差がわかんないですからな!高低差≒0!圧倒的寸胴よ!どうするよこれ!女性ホルモン元気してる!?」

そんな泣きながら言うなよ。まだ中学生なんだから成長途中だと思うぞ。あんまり悲観的になるなって。

そう思ったがこいつのことだから「中途半端な励ましなんていらない!」なんて言われそうなので黙っておくことにした。……が俺じゃない男が黙ってなかった。

「そんなことはないぞ。胸が小さい人の方がいいと思う人だってこの世にはいる。それに何だ?じゃあお前は男のちん「ちょっと待て!!」大きさとかを求めるのか?違うだろ。硬「黙れ!!」太「黙れっての!!」持久「ほんとに黙ってくれ!!」……何をするんだ。俺は至って真面目に話しているだけなんだが。」

内容だろ。色々とアウトだから。顔だけは本当にすごい決まってるよ。澄ました顔で俺の蹴りやパンチも平然と受け止めやがって。

「そうですな!やっぱり大きさだけではないですな!柔ら「成長途中!!」か……s……」

成敗。


結局俺の悩みはそこで解決することはなかった。まあ多少元気になったといえばそうなのだが、問題は琥珀なのだがと考えていると、解散の時春夏秋冬に『でもきっと大丈夫だと思うよ。』とよくわからないがそういわれた。そして夜部屋に帰った時は確かに励ます必要のないほど元気だった。一体何があったのだろう……。


「……まぁそんなことがあったんだ。」

勿論「琥珀を励ましたい」っていうところは隠した。正直知られたら恥ずかしい。

「楽しそうな人たちだね。僕も是非友達になりたいな。今度紹介してよ。」

夜寝る前にそんな風に琥珀に語った。とても楽しそうな笑顔でそう言う。

「琥珀はさ、昼ごはんの時どこにいるんだ?誘おうと探したりするんだがいつもどこにいるかわかんなくて。」

いつも授業が終わると声をかける暇もなく教室から出て行ってしまう。最初の頃はみんなで食べることを嫌がってるのかもしれないと思っていたが、琥珀は別段そうでもないように見える。琥珀と会って1週間以上が経つ。少しずつ踏み入った質問をしても良い頃合いだろうと思いこの質問をした。

「え!?っと......それは、ね?あはは、は......」

「いや、やっぱり答えなくていいや。まあ気が向いたら来てな。おやすみ。」

やや早口で無理やりに会話を終わらせた。調子に乗って踏み込み過ぎてしまったか。反省だな。

琥珀は「おやすみなさい。」と言いしばらくすると寝息をたて始めた。


「で、なんで翁がここにいる。」

琥珀を起こさないよう静かに立ち上がり襖を開けると翁がいた。勿論これを訴えればすぐにでも天誅が下るだろう。でもここは一応翁の話を聞いておくのが適切と判断。

「はて、翁とは?我が名はジェーム

「で、何のようだよ。」

「実は琥珀さんがお前に色々とされてないかの調査をだな。それよりもちと面白いものを見つけたぞ。」

調査の為に不法侵入って色々ダメだろ。というかまずどうやって部屋に入ったんだよお前。

そんな考えを全く気にせず翁は襖の中の天井の角を小さなペンライトで照らす。


『明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは』


本物じゃなくていい 仮物の名前でもいい

君はそう言った

二度と繰り返してはいけなかった いや、一度だってダメだった

己を失った でも代わりに君がそこにいてくれるのなら

君は僕の生きる理由だから だから君だけは


オレはもうすぐ消えてなくなる。これを見た後輩になるであろう人へこの書置きを残す。ここを地獄と感じ、ここから出たいと心から望むものには彼女はきっと力になってくれる。......彼女を鳥籠の閉じ込めた俺が言えないことは百も承知。それでも頼む。どうか彼女を救ってください。

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