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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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朝6時。起きるにはまだ早いこの時間に授業チャイムなどとは違う、いつまでも頭に残るような不愉快極まりない音が流れた。当然その音にみんなが跳び起き警戒する。30秒ほどすると音が消え、少しの無音の後、マイクからまたあいつの声がする。

「Good morning.Everyone. Ah.......Sorry.Bad morning.Please come to conferences room for the time being.」

悪い知らせがあるからとりあえず会議室に集合とのこと。


眠そうな人も見受けられるが全員集まった。全員といってもやはり1年だけ。2、3年の姿はそこになかった。みんなが不安や苛立ちを覚えながら会議室で待っていると、しばらくしてようやくオセがやって来た。その手にはボロボロの動かなくなった女が握られていて、その光景ははおもちゃのぬいぐるみを引き摺る子どもを想起させるものだった。

「昨日この女が同室の男を殺した。本人は『同じ部屋の男がいきなり襲って来て、怖くて……。気がついたら……。』なんて言っていたが調査の結果、そんな事実はなかった。寧ろこいつは散々その男をこき使い、それに耐えかねた男が私に相談しようとしたらしいから殺したそうだ。……無念だっただろうな。せめて男には向こうでは安らかでいられることを願うよ。」

どう反応すればいいか分からず沈黙が流れる中、1人不機嫌そうに大きな欠伸をかく人がいた。

「いきなりそんな事を言われても知らねぇよ。こちとらこんな朝っぱらに起こされて眠いんよ。事後報告だけならもう帰んぞ。」

彼の名前は翁という。実は彼の事は前々から知っていて実はそれなりに交流もあった。第一印象としては四六時中寝ていること。例えばあのloserの登場の時も、1年全員の潰し合いの時も。夜によくトレーニングで一緒になり、そこから次第に仲が良くなっていった。最早友達と言っても差し支えないほど。今では会えば普通に話すほど。

話を戻す。

彼はそう言うと踵を返して歩き出した。勿論それで帰すわけもなく「いいから待てよ翁」と呼び止められたが、それはもう恐嚇(きょうかく)といって差し支えないもの。オセから溢れ出る殺気にたじろぐ者もいたが、翁は真っ向から睨みつけた。

「じゃあさっさと終わらせろや。どうせそいつ殺すんだろ。牽制とか戒めとかそれらしい理由で。こんな茶番狂言見せられる身にもなれよ。もういいや、俺は寝るから。」

そう言うと今度こそ翁は立ち去ってしまった。「どうせ殺す」という言葉に女は反応し急に抵抗を始めるが勿論逃れる事は出来なかった。オセは女の腹を殴り気絶させたが、翁を追うことはしなかった。

「まぁあいつの言葉はどうりだ。毎年こういう事はあるし、それを機に見せしめとして最初はどんな罪でも必ず殺す。脚本はもうすでに決まってるんだよ。それじゃあみんなはこれを機に人殺しとかはやめような。大切な実験個体を失うのは割と痛手なんだよ。」

そう言うと気絶した女をビンタで無理矢理叩き起こし、意識を戻させた。彼女は再び酷く怯え逃げようとする。だがオセは彼女の首筋を素早く掴み、そのまま片手で宙に浮かせる。彼女は呼吸が出来ず必死にオセの腕を振り解こうとするが全く緩む気配はない。オセは掴んだその手に少し反動をつけて真上に放ったら、袖から出てきた日本刀を落ちてきた彼女の(へそ)の緒辺りに突き刺す。途端「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいやめてやめてやめてやめてやめて!!!!」と叫び出す。刃を上にして刺したため、重力で鳩尾、胸、気管辺りとジワジワとゆっくり切れていく。その間もひたすらに彼女は泣き叫んでいた。そして3分ぐらいして喉のすぐ下まで辿り着いた。彼女から(おぞ)ましいまでの血が滴り落ち俺らの足元を赤く染める。彼女はもう殆ど生気がなく霞んだ声で「もう……ころ….し、て…」と呟いていた。そして喉に到達した頃「もう殺してやるよ。」とオセが言った。その言葉に彼女は消え入りそうな声で「ぁり…とぅ……ございま……」と僅かな笑顔を浮かべた。そして次の瞬間にはその笑顔は真っ二つになっていた。

オセは何も言わず立ち去っていった。あいつは今仮面の下でどんな顔をしているのだろうか。流石にこれには殆どの者が慄然(りつぜん)竦然(しょうぜん)としていた。人の死を見たりするのは最早ここにいる人なら殆ど経験はあるだろうが、それでもやり方はここまで酷いものはなかったと思う。先ほどの全ての情景が、彼女の声が脳に焼き付き消えない。殺すと言われて笑顔でありがとうございますなんて初めて聞いた。


結局その後はいつものように進んだ。けれどご飯が進むわけもなく、授業が頭に入ることもなく、せめて頭を使わない運動だけはいつも通りにやったと思う。


「酷かったね。」

夜寝ようと布団に入ると隣で寝静まってると思っていた琥珀が呟いた。

「そうだな。でももうあの事は忘れて寝よう。」

忘れられるわけはないだろうがこう言うしかない。もう思い出すのも嫌だ。それだけですごい吐き気がする。トラウマがもう一つ増えた。あんなもの牽制にしてもやり過ぎだろ。

そっと後ろから温もりが伝わっきてた。

「忘れられるわけ……ないよ。怖いよ夜一。死にたくない、死にたくないよ。」

いつの間にか俺の背中で啜り泣く琥珀。ここで格好良く抱き締められればいいのだが、俺だって怖いんだ。どうしてこんな震える手で彼女を抱き締められようか。

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