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「夜一、因みにあれに勝てる?」
「勝率の無い勝負はしないんで.....。」
このクラスは確かに普通じゃないけどどこぞのファンタジーとか異世界じゃないんだぞ。そういうのは物語の中だけにしておけよ。
エレベーターがこのフロアに近づくにつれてクラスの緊張が高まる。少し前までざわついていたのが嘘のように静寂が包む。そしてエレべーターの到着の音が響き、ドアからあれが出てくる。その目には一切の感情が見えず、人間らしいものが何もなかった。オセはそんな奴にも全く気にせず話しかけていった。やはりこの研究所の所長だけある。少しだけ話したら鍵を受け取り恐らく部屋に向かっていった。遠目では見えにくかったが恐らく『50』と書かれた鍵を受け取っていた。
「なあ琥珀、俺たちの部屋の番号は45だよな。」
「そうだね。僕と君が同じ部屋なら多分入って来た順番だと思う。男女別でもないし。ただそうなると46~49、もしくは50番の8か9人が知らない間に入ってきてるね。」
「転校みたいな?」
琥珀は頬をポリポリ掻きながら「かも?」と首を傾げていた。
やがてオセがこちらに歩いてきた。「あの子で入学テストは終了だぜ。明日から楽しい愉しいたーーのしーー!(゜∀゜)アヒャ(゜∀゜)アヒャ学園生活が始まるぜ。全力で謳歌したまえよ。死なない程度にな。」と言い白衣を翻し颯爽とその場を去った。誰も口を開かなかった。
翌朝9時、放送で体育館に集合された。予想では100人全員集まるとは思ってなかったけれど、それよりもずっと少ない人数が集められた。気を張る者、何を考えてるのかわからない者、寝てる者など。そして到着して間もなくオセの姿が見え、入学式は始まった。
「まあ入学式っつってもなんにもないんだけどね!顔合わせ、的な?それじゃあみんな!グラスは持ったか?どんどん飲んでどんどん食ってどんどん仲良くなっちゃおうぜ!!はいそれでは〜〜、カンパーイ!!
……って今の言葉信じたバカいる?......え?何?俺は嘘をつかないって明記してあった?お前らさ、嘘つきが「僕は嘘つきじゃありません」って言って信じるのか?まあどうでもいいけど。それじゃあ本題、とりあえず手始めにお前ら潰し合って。それでお前らの実力測るから。もしも一位になれたら~、いい事してあ・げ・る♡」
キモイと思う刹那、既に俺の意識は消えかけていた。
目を覚めると自室にいた。起き上がると琥珀、ではなく昨日の解説役の眼鏡のが隣でパソコンを打っていた。
「ぬぬぬ、これはなかなか、だがそれがいい。おっと、口から聖水が...いや、ここは性水の方が……ウヘへ。だが相手が悪かったな!自分にかかればこんなものヌルゲーすぎてもはやヌルンヌルンゲーぞ!……あ、起きられてたか。」
事情を聞いたところ、色々と回りくどい言い方だったので簡潔にまとめる。あの言葉の後すぐに戦闘が始まったらしく、俺は早々にやられたらしい。結果としてこいつが下から二番目、俺は最下位。部屋から出ていく際、「このwwガチインドアよりww弱いとかwwww主www病弱ヒロインかなんかではwww?」と滅茶苦茶笑われたので一発叩いておいた。理不尽?(言葉の)暴力を(物理の)暴力で返しただけのこと。
「とはいえ最下位か。まずいな…。」
「そんなこともないんじゃない?」
いつの間に後ろにいたのか、いきなり耳元で囁かれた。驚きを隠さずそこから3、4歩距離を置くと、いつも以蔵君とやらに一緒にいるギャル娘が笑顔でそこにいた。次から次へと覚えられないっての。
「確かに君は1番最初に見事に無様に情けないほどそっこーでやられたけど、あれは相手が悪かったね。なにせあのラスボス君だもん。しゃあないしゃあない。でも大丈夫でしょ。ラスボスは必ず勇者に倒されるもんじゃん?」
いや「じゃん?」て言われても。だからそういうのはゲームとか漫画とかだけだから。
俺が何とも言えない顔をしていると「付いてきてなよ」と俺の手を取り絡めてくる。俺手汗結構掻く方なんだよな、など考えながらなされるがまま引き摺られた。
「あ、もしかして今のでときめいちゃった?いいよ〜あたしに惚れても。どうせこの年齢何やったって青春て言葉に収まるんだから。ちゃんと青春の苦い1ページに刻んどきなよ。」
「もし地球にお前と2人だけになったら惚れる可能性は無いとはいえないかもしれない。」
「あたしは迷わず死を選ぶけどね。」
あっそ。
連れてこられたのは掲示板。そこには大きく先ほどの潰し合いの順位が書かれていた。
『1年次によるぶっ潰し大会けっかはっぴょー!』
色々と言いたいことはあるが無視しよう。
参加者は全員で46名。時間にして1時間15分。
46位神倉夜一(笑) 45位 wizard……22位琥珀……11位以蔵…1位loser。
変な名前多すぎだろ。あの化物はloserっていうのか。1位が敗者って矛盾してるような気がしないでもないが。でも負け組の中のトップっていう意味だと合ってるか。琥珀の順位は想像より高いな。半分より上だもんな。あのメガネ、なんだよその名前……。意外とあの以蔵とやらは10位圏外ですか。予想外れって感じ。
隣を見ると先ほどから2位〜9位を睨んでるように見えた。聞くと「だってこいつらずっと協力して戦ってたんだよ!?マジありえないわ……。」とのこと。確かにそれは良くないな、ルールに背いてはいないけれど。名前は2位から順にα β γ δ ε ζ η θと順序良くギリシャ文字が並んでいた。間違いなく知り合いではあるだろう。そして恐らく46〜50番の部屋の転校生達だろう。
「それでお前は何位だったんだ?」
「んっ」
「ん?」
指は高く上がり15位を指し示した。人は見かけによらないな。
『冰禮京』
「どう?驚いたっしょ?」
「あー、そうだな、……京さん。」
読めない。なんて書いてあるんだあの苗字。
「惜っしいね、京って読むんだな〜。ついでに苗字は小学生で習うからわかるっしょ?」
「嘘つけ。」
可哀想なものを見る目で漢字辞典を渡されたので調べたら、確かに小学生で習うといえば習った。どうやらあれは『氷』と『礼』の旧字体らしい。わかるかそんなの。因みに読みは冰禮らしい。
『さるでもわかる漢字辞典!』
……野郎。
「あ、それとさ、もう1つ話があるんだけど…」
あ?