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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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琥珀の話を聞き終わった後、俺の生い立ちの話もした。別に知られて困ることもないし、それが本当という確証も琥珀には得られない、なんてそれっぽいことを言って本当は俺の事も知ってほしかった。似たような経験をした琥珀なら中途半端な同情も上辺だけの優しさも与えないと思ったから。

「.....夜一は、人を守る、助けるための力がほしいの?」

「まあ、そうだな。」

「例えばそれは、母親を殺しそうな父親を後ろから襲い掛かったり、虐めに遭っている子を守るために虐めてる人をボコボコにするとか?」

「いや、そうじゃないけど……。」

でもそれじゃあ俺は一体どうすればよかったんだ?どうすれば俺は満足するんだ?「やめろ!」とか言ってやめるわけないし、なにか正論を言って相手に納得してもらう、とか……?

「僕たちはまだ中学生だ。時間はある。君が思う、本当の意味で人を助けるということをもう少し考えた方がいいと思うよ。誰かが言ってたじゃないか。「空腹の人には魚をあげるのではなく、魚の取り方を教えてあげる」って。少なくとも求められたから与える、なんて他人に理由を求めたやり方に君の意志はない。」

俺が黙って何も言えずにいると琥珀は席を立った。

「でも理由ばかり並べて何にもしないダメ人間より、不器用でも必死に頑張る人の方がかっこいいかな。……ごめん、すごい恥ずかしいこと言ってた。それじゃ。」

そう言い残すとトレーニングにでも行くのか部屋を出て行った。俺が軽いのか?こいつがすごいのか?俺の心はさっきからプリンの如く揺れている。とりあえずお茶を一杯飲み落ち着いてから俺もトレーニングに出かけた。初日からだらけではいけない。


3、4時間ほどトレーニングをした後、時間も程々になったので夕食をとることにした。このクラスの大部分の人が集まっているのか、空いている席は見当たらず相席させてもらうことにした。

「相席させてもらっても?」

「…」

彼女は頷くだけで何も言わなかった。俺は「失礼。」とだけ言って夕飯のカレーを食べ始めた。だが食べてる途中ずっとこっちを見られては流石に気になる。

「……あの、何か?」

ほっぺたに手を当てた。どうやら俺の頬にご飯がついていたらしい。ならば言ってくれればいいものを。

「……もしかして喋れないのか?」

こくん、と大きく一回頷いた。それから俺に指を指し、両手の人差し指どうしを回し、左手を胸に当て撫で下ろした。

「えっ、と……。」

頭の中でしばらく考えた。彼女は残念そうな顔をしていた。きっと理解してもらえないことが悲しいのだろう。大丈夫、ちゃんと伝わってるから。

俺は親指と人差し指を弾くように擦り合わせた。手話なんて多少の知識があるだけでやったことなんかなかったので伝わったかどうかわからなかった。けれど彼女が笑ってくれたので何とか伝わったらしい。

『お前は手話がわかるか?』

『少しだけなら』

彼女にはたったこれだけの会話がとても嬉しかったらしい。次には『友達になってくれ』といわれたが『もう少し互いを知ったらな』と伝え席を立った。『神倉夜一』と紙だけ残して。

そこからトレーニングに戻り10:30頃に終え、浴場に向かった。各々の部屋にはシャワーがついていたが、同室に女性がいると何となく使いにくかった。風呂場は大浴場と言っていいほど大きく立派なものだった。使ってる人はあまりおらずチラホラと見える程度だった。時々見られてるようにも感じたが気にしないようにした。頭と体を洗い湯に浸かっていると隣から甲高い声が響いた。

「ごっめーん!石鹸無くなっちゃったからそっちから投げてくれない?あ、今ので興奮しちゃた男子いる?」

……いない。

「ねぇ早くしてくれる?もしかして恥ずかしがってるの?気持ちはわかるけど早くしてほしいかな〜。」

……(しず)かなること林の如し。

「…5秒以内に投げないとそっちにいる6人のうち誰か殺すよ?」

不気味な言葉に一応人数を数えるとぴったり6人いる。何らかの方法をとってこっちの状況を知っている。

「3…」

5と4すっ飛ばしてるし。誰も動かなそうだったので俺が石鹸を取りに行こうとしたところ、いつの間にか同じ湯に浸かっていた人が石鹸を投げつけた。ちっ、と舌打ちをするあたりもしかしたらこの声の主と知り合いなのかも知れない。

「1…お、キタキタ〜。ありがとね、シリアルキラーのいぞー君。」

いぞー君と呼ばれたその人は再度舌打ちを風呂を出た。その体にはいくつもの刀傷と華の刺青が見えた。

「シリアルキラー…ですか。」


部屋に戻るとすでに部屋は暗く、常夜灯だけが仄かに照らしていた。その端っこに小さな寝息を立てて琥珀が寝ていた。

「寝相…」

布団を完全に蹴り飛ばしていた。寝間着の浴衣も乱れみっともないものに。仕方がないので布団からを掛け直そうと手を伸ばす。

「…あ…いや、ごめん。僕は…そんな事…」

「いや、俺の方こそすまない。気にしないでくれ。おやすみ。」

俺は琥珀に布団を掛け部屋を出た。咄嗟に出た右の手のひらから零れ落ちる血をティッシュで抑える。

眠った彼女に不用意に近づいたのは俺のミスだな。多分気にしないでって言ったけど無理だろうな。…それにしてもすごい警戒心だな。一瞬で短刀出てきたぞ、マジシャンか。人間寝起きであんな素早く動けるもんなんだな。それも生い立ちの影響か…。とりあえず保健室とやらに行きますか。


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