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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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とはいえ状況は依然絶望的。腕に刺さった矢の火は未だ消えないし出血も酷い。相手もわざわざ近づく必要もない。俺の敗北も時間の問題。だったらこっちから攻めるしかない。

「っらぁ!」

叫びと同時に履いていた靴を目一杯に飛ばす。しかし相手に届くのが精一杯で当然簡単に叩かれて落ちる。その奥、倒れた際もう片方の靴下で作った即席投石機が本命。流石に場外からは見えなかった様子。靴下にはそこらの砂や瓦礫を詰め込んだためそれなりの威力はある。彼女が油断したのが幸い、反応できず腹部に命中。「うっ」と少し呻きをあげてる間に一気に距離を詰める。けれどさすがにずっと痛がってる事はなく、半分程の距離で彼女は顔を上げ臨戦態勢に。その顔には僅かな苦痛も見えず、敵とわかっていても尊敬に値するものだった。彼女も、もしかしたら彼女の方が俺よりもずっと勝ちたいと思ってるかも知れない。だけどそんな思いが届くのなら俺たちはもう少し楽に生きてこれたよな。


俺は握り締めていた砂を顔面目掛けて投げる。彼女もそれを予期できたのか、上着を脱ぎ広げ砂を防ぐ盾にした。互いに視界が塞がれてできる事は限られる。その結果、彼女は耳を塞ぎ、俺は目を閉じ服の上から力の限りの発勁を喰らわせた。彼女は少しだけ吹っ飛ばされ場外に背中から落ちた。

「俺が咆哮みたいに叫ぶとでもと思ったか?身動きを止める為に。こっちはあんたが腹痛めてるから大きな声は出せないとわかってた。それに殴ろうとすると上着の動きで俺の攻撃が読めて反撃できるから殴ったりはしてこないって考えただろ。だからあんたの行動が読めた。そんなとこいるから逃げることもできないしな。それと少しだけなら俺も反響定位ってやつが出来るから視界が無くても何となくわかる。あとは腹部に発勁でも打ち込めばしばらくは動けないだろ。まぁあんたがそこにいてくれたお陰で簡単に場外出せたけどな。」

彼女はお腹を抑えながらも俺を睨みつけていた。やがて唇から血が流れやがて零れ落ちる。俺は何も言わずに冷たくも哀しく彼女を見つめた。そしていつからかいた客席に座った審判らしき人がホイッスルを鳴らした。それを合図に俺はリングを降りた。


東の門から出るとそこにいた覆面の2人に腕を治療して貰った。勿論完治なんて魔法みたいなことにはならなかったが。次の試験に影響がなければいいのだが。2人は相当に慣れているらしくものの5分と経たず治療は終わり、新たな覆面の人が現れた。恐らく次のところの案内役だろう。

「失礼お覚悟は...。」

「?」

ぼそぼそとそんなことを言う。お覚悟って何、次の試験に向けてのってことか。そんなの今更聞いてどうするんだよ。ないって言って帰してくれるわけでもないだろ。

「いいから早く案内しろよ。」

階段を降りると真っ暗で覆面の人が懐中電灯を照らしながら歩を進める。やがて小さな広場のようなところに着くとポケットからもう1つ懐中電灯を出しこちらに手渡す。そしてどこから取り出したか1枚の紙を手渡してきた。

『このフロアのどこかに次へ進む道がある。3分以内に進め。』

3分で見つけろって ...。見渡すだけでも扉が相当数あるぞ。闇雲に探しても絶対に見つからないし。

「丹念を怠らずに...。」

またもぼそぼそとそれだけ言うと一礼して来た道を戻ってしまった。細かなことまで注意しろってことか。とりあえずはアドバイスとして受け取っておくよ。


しかしいくら考えても正解がわからない。時間は1分ほど経って唯一気づいたことは、扉の上に薄っすら数字が書いてあるくらい。けれどそれもあまり法則性が見えない。まずいまずい全く分からない。何か他にヒントみたいなものはなかったか。...そういや治療後の案内人の言葉、なんとなく違和感があったな。お覚悟ってここまで来てリタイヤなんて絶対ないし。もしかして何か意味のある言葉だったんじゃないか。他にも何かないか。もっと前にも何かなかったか。

考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ

『その後は案内人が継ぐから。』

『失礼ご覚悟は…。』

『丹念を怠らずに。』

...あ。違う。

『あんないにんがつぐから。』

『しつれいおかくごは…。』

『たんねんをおこたらずに...。』

なるほど。日本語って本当に厄介だな。

俺は考えることをやめ全力で駆け出した。


結論から言って扉の上の数字にはあまり意味がなかった。所々読めないところもあったし、古い建物だからか倒壊しているところもあった。桁もバラバラで法則性も何もない。法則性を見出そうと考え込んでいたら絶対に間に合わなかった。

エレベーターでゆっくり下降していく中、俺は激しい呼吸を繰り返した。体力はさほど使わなかったが、それ以上に問題が解けるまでの焦りや、次の試験を突破できるかの不安が大きかった。それでもここまで来たらもう引き返せない。最後の退路が切れたということが俺のごく僅かな迷いを切った。もう進むしか道はない。

思いの外エレベータ-の到着がゆっくりだったため、呼吸を整えることができた。でもこのままエレベーターが着いて扉が開いてゴール、なんてさせてくれないんだろうな。ここまで来ると開いた瞬間銃で撃たれても驚かないな。壁に寄って極力隠れておくくらいはしておくか。

けれど予想していた祝砲でハチの巣なんてことはなかった。というか何もなかった。罠に警戒していたのが馬鹿みたいに。

エレベーターが開くとそこは一面真っ白な人工の景色だった。気味の悪いほど真っ白な景色に呆然としていると、変な仮面をつけた奴が俺の前まで歩いてきた。

「入学おめでとう少年。私はこの0組を担当するoseだ。」

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