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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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とある中学校で人体実験をしているという風の噂に聞いた。調べたところそれはここよりもかなり離れた土地の超が付くほどのエリート校だった。偏差値、倍率が冗談みたいに高いが、合格してしまえば人生勝ち組と言っていい、海雪が通うつもりである中学と肩を並べる最高峰のものだった。両親の事や大切な人の死の事もあり、力が欲しかった俺は縋る思いでその学校に志願した。

家族には「この学校に行って学びたいことがある」と言った。別に嘘は言ってないから心は痛まなかった。親としても確かに3年会えなくなるのは寂しいが、それ以上に名門に入るのは嬉しいし、子供がそう言ってるのであればと納得してくれた。親は暖かい目で、兄は無関心に、妹は心配そうに俺を見ていた。ひかりには黙っていた。俺が遠くに行くと言ったら間違いなく引き留めると思ったから。「ちょっとこれからは中学の準備とかで忙しくなる」とこれもまた嘘ではない言葉を掛け、それを理由に次第に足が遠のいていった。


受験当日は父に送ってもらい学校に着いた。まだ時間は十分あるはずだが会場は受験者でごった返していた。俺は人混みを避けながら指定の教室まで足を進めた。まだ小学生だった俺にとってこの学校の大きさは大きすぎたが、迷うことはなく教室にたどり着いた。その途中、何人か目が死んでいる子供を見た。もしかしたら同じ穴のむじななのかも、と思ったがそんな訳はない。俺らは同類であっても仲間ではない。仲間を必要とはしないのだから。

肝心の試験は何の滞りもなく終わった。国語、数学、理科、社会、英語に加え面接。前の5つは完全に小学生でやる範囲を超えているが、そんなものここに受けるなら誰しもわかっていたことだろう。面接なんてのはどれだけ綺麗なことを言えるかが重要なだけで自分のことなんてどうでもいい。因みに最後に「両親に対しどのようなことを思ってますか?」なんて質問された時は不覚にも少し焦ってしまった。問題はなかったと思うが...。

ただ少し気になったのは試験中何度も同じ人を廊下に見た気がした。1人1人を観察しているようにも見えた。その人は先生と呼ぶには何か違う、形容し難いものだった。何となく嫌悪感を抱き目を合わせないようにした。

「何だか人を選別しているような?...なんてな。」

少しだけそんなことが頭をよぎったがすぐに問題に目を戻した。手を抜いてると足元をすくわれかねない。これで不合格なんて笑えない。

解答が終わりふと外を眺めると、灰色の空から雪が降って来た。雪って遠目だと灰とか埃にも見えるよな。実際そんなきれいなものでもないし。雨よりもめんどくさいし交通に影響を与えるしほんと迷惑。そんなことを考えながら時間が来るのを待った。


数日後、学校側から手紙が届いた。あまりに薄っぺらいその紙に俺は違和感を感じたが、家族は合格判定が来たと、開けろ開けろと急かしたが、予想通り中身は少し違っていた。

「この度件の試験にてご不明な点が見つかりました故取り急ぎ確認したい内容がございます。お手数をお掛けしてしまいますが、再度当学校にお越し頂くことをここにお願い致します。」

「不備が見つかっても教えてくれるなんて親切だね。」「なるべく早いうちに行ったほうがいいな。」など言いみんな自然解散していったが、勿論不明になる点など何1つとしてなかったはず。これでも何度も確認はした。

「...。」


父さんだってそんなに暇ではない。それは母さんにも言えること。そんなわけで手紙が届いた翌日に俺は学校を休み1人中学へ向かった。電車に長らく揺られること数時間、少しだけ微睡みかけ始めたころに目的の駅に到着した。人はほとんどおらずこの前来た時とは大違いだなと感じながら、またも曇天の中歩き始めた。

警備員さんに要件を伝えると教務課まで案内された。担当の人が出てくるまで少し待ってほしいとのこと。

「1人でここまで来たのか?すごいね、偉いね。」

なんだか頼りない男だな。そんなご機嫌取り今の子供にはきかないと思うが。

「もう中学生にもなるんですからこのくらいはできるようにならないと。」

大人しく待ってやるからお前は戻って働けよ、給料もらってんだろ。小学生だからってなめんな。

「この時期は君みたいな子多いんだよね。試験の書類書き間違い?でもう一回来てもらうの。毎年必ずはいるからもう少しわかりやすいのにすればいいのにね。理事長がなかなか意見聞いてくれなくてね。」

もしもあの噂が本当で俺がそれに近づいていってるなら、俺の他にも何人もいるってことか。確かに会場には何人かそういう人は見たがさすがに毎年ってなるとその数もなかなかのものになるぞおい。

「すいません。そのお話もう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ごめんなさい、お待たせしました。」

俺達の会話に入って来たその女性は話をそこで打ち切り俺を別の場所に案内した。歩いている時何かを言って笑ってるのは分かったがいまいち内容を思い出せない。割り込んできたときのこの人の目が頭から離れない。俺はマウスでもなければ新商品でもないぞ。




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