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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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「…おいなんだこれ。洒落にならねぇぞ。」

海雪にしては珍しく焦りが見えた。かくいう俺も冷静さを欠いていた。設備万端のこの学校であそこまでの被害が出てるとしたらここでも何か起こってるとは思ったが、さすがにここまでとは思ってなかった。黒は血、何かは肉塊と骸。幾人の屍がそこにあった。

「お前の学校、イかれてるよ。」

「じゃあそこらで休んでろ。終わったら呼ぶよ。」

足を進める俺にもちろん海雪はついて来た。随分と肝が座ってることで。

しばらく歩いたが先ほどまで酷いのはあそこだけで、他に血らしき跡は数か所だけだった。ここの地下の施設も地上よりかは劣るがそれなりの大きさがある。少なくても100人ほどの人間が収容できるほどに。結局2時間ほど歩いて回ったが特に何かを得ることはなかった。

「ここが夜一が過ごした場所なのか。そういや前にこの学校について調べたけど1つ変な噂があったな『人体実験をしてる』って。もしかしてその為にこの学校に来たのか?」

逆にそれ以外にここに来る理由なんてない。にしても俺も馬鹿だよな。噂に過ぎないことに本気で縋ってここまで来たんだからな。でもそんなことをしてまでも強くなりたかった。大切なものを護れるだけの力が欲しかった。そのために自ら被験体になった。

「まあな。……ごめん、ちょっとの間花を手向けもいいか?」

「気が済むまでしていけばいい。きっともう2度とここには戻れないと思うぞ。」

遺骸の数に対して眇眇(びょうびょう)たる程の花を鞄から出し、それらに(ささ)げ、祈りを捧げた。

「次はきっと、幸せな人生でありますように。」


帰りに海雪から聞いた話だとこの学校は取り壊しになったらしい。大規模火災が起きたところに再度学校を建てても生徒が集まらないだろうとのこと。そして当然あの闘技場にもその手が行くだろう。そうしたら2度とあの地下にはいけなくなる。……それでいいんだろうな。あんなところ元々ないに越したことはない。

「なんだか現実離れしてて未だに実感湧かないな。」

「俺が学校を卒業した時もそう思ったよ。空が青くて、森が緑で、小鳥が鳴いてて。なんだか涙が出た。

そうだ、お前オセについて知ってるんだろ?どこにいるとか何かわからないのか?」

「知ってるよ。というかそいつから俺に接触してきた。この手紙をお前に届けろと。というかあいつ学校の理事長だったぞ。知らなかったのか?」

「……それは知らなかった。」

学校の校長というのは式などにも出席するからわかるが、理事長はほとんど見る機会がない。校長は知ってるが理事長は知らないなんて珍しくもないことだと思う。さらに俺たち0組はより一層だろう。ほとんどが自分のことしか考えていなかったのだから。0組は全員が敗北者で負け組で落ちこぼれで出来損ないで負方で溢者で穀潰しで落伍者で、だから誰よりも望み願い希い欲し祈り求め飢え翹望(きょうぼう)し要し渇求し切望し希求し冀望 (きぼう)し志し、憧れた。幸せに。

「……あの学校は0~10組まであったんだよ。1~10組までがごく普通のクラス。0組は少しだけイレギュラーなクラスだった。勿論非公式のな。0組担当に当たったのが自称オセと名乗る不気味な仮面をした男とも女とも判らない人間だった。oseってのは悪魔学のソロモン72魔柱の序列57番、教養を教え、また人間を変える力をもつ悪魔らしい。ま、本当に名前の通りの奴だったよ。素顔まで豹だったりしてな。確かあいつの目標は完璧な人間を作ること、そしてそれを思うがまま従わせることだったかな。」

「さながらデウスエクスマキナだな。悪魔が神を作るとは笑わせる。それで?お前は神になれたのか?」

「んなわけないだろ。」

俺達は人間だ。どんなことが起きようとも神や悪魔になんかなれはしないんだよ。教徒には悪いが、俺から言わせればあんなの人の弱さが作り出したものに過ぎない。弱い自分たちが作り出した都合のいい存在。

それに俺はあいつ曰く失敗作だったらしいしな。でもその方が遥かに嬉しいけどな。俺は人でありたい。


その後オセのところに行くかと提案されたが、今日のところは帰ることにした。あいつから手紙が送られてきたことは気になるので近々行くだろう。それに今更だが「また今日は帰れない」とあまりみんなを心配させたくないという気持ちが大きくあった。


家に着く頃には18時を回っていた。この時期になると少し肌寒く感じ、家の中が暖かく感じる。リビングには篝とあかりと鉋が問題を解こうとしていた。

「あ、おかえり。今このなぞなぞみたいなの解いてるんだけどさ、これあかりさん差し出しじゃないんだってさ。お前さんもこれ解くの手伝っとくれや。」

「夜一さんならわかりませんか?私たちでは全くわからなくて。」

「もうあたしも限界……。」

ゴツンと音を立て机に突っ伏してしまった。静かに額を摩ってるあたりちょっと痛かったらしい。

「わかりますか?」

あかりの目が救いに満ちていた。ここで「わからない」と突っ放すこともできなくもないけれど俺の良心が酷く痛む。ここは……。

「俺も実は分からなくてな。今日海雪に相談したらヒントをくれたぞ。『1つ目はなぞなぞと最初の記号がちゃんと読んでれば解ける。2つ目は篝はまだ解けないだろうって。3つ目は空白。』らしい。」

それをヒントにまたみんな考え始めた。探偵はすぐに犯人を言わないもの。

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