表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
58/168

58

階段を駆け下り、廊下を走り抜けた。1階に着くと、遠くの曲がり角で小さくなる影が見えた。俺は高鳴る鼓動を抑えつつ、その影を追いかけた。

あかりの足が思いの外速いのか、もしくはただ俺が足が遅いのか、距離は全然縮まらなかった。幸い学校には人がいなかったので足音がよく響く。そのおかげで見失うことはあったが、どこにいるかはわかった。

そんな事を10分くらい続けたくらいにやっと数メートルの距離になった。あかりの体力も限界らしく壁伝いになりながら歩いていた。かくいう俺も心臓がバクバクうるさい。久々にこんなに動いた気がする。

ついにあかりの体力が尽きたのか、その場にヘタンと座り込んだ。激しい呼吸音が静かな廊下に響く。俺はようやく彼女の元に辿り着けた。


「やっと、捕まえた。」

あかりは下を向き、荒い呼吸を整えてる。

「はぁはぁ。捕まえるなら、もっと早く捕まえてください。はぁ。甚振(いたぶ)るなんて、趣味が悪くなりましたね。」

「はぁ、はぁ。うるさい。思いの外足、速いんだな。」

「はぁ。そんな事、ないです。ちょっと、休憩しませんか。」

それには賛成。この歳になると鬼ごっこ1つでこんなに疲れるものなのか。さすがにだらけた生活を送りす「油断しましたねっ!」

……は?

最後の抵抗のつもりだろうか、あかりはまた駆け出した。しかし体力はほとんど回復しておらず、嘘にも速いものとは言えなかった。俺も1つ溜息をついて追いかける。そしてわずか数メートルで追いついた。少し力を入れ、あかりの腕を掴む。

「頼むから俺のいう事を聞いて欲しい。」

「……」

「さっきの事は本当に誤解なんだ。言い訳みたいにしか聞こえないけど本当にそうなんだ。頼むから、信じてくほしい...。」

わかってる。水無月さんの昨夜のあの言葉の意味も、さっきの行動の意味も、あの盗撮についても、全てはひかりをあかりから遠ざけるため。写真などを使っていかにも俺と水無月さんが付き合ってる様に見せあかりを遠ざける。理由はわからないが。だから水無月さんは俺に対して好意など全く持っていない。当然俺も恋愛的な好感は持っていない。だけどそんなものは関係ない。あかりはそれを知らないのだから。

...だから、信じてくれなんて言えたもんじゃない。だけど誤解されたまま何か絶対に嫌だ。

無意識に掴んだ肩が震える。その震えはあかりのものだった。

「わかんないよ...。」

今にも消え入りそうな声が聞こえた。

「わかんないんですよ。なんで私が夜一さんから逃げてるんですか?この気持ちは何なんですか?もう頭の中ごちゃごちゃですよ。訳が分からない。

……でも何故か今、あなたの顔を見れないんです。見たくないんです。手を……離して。」

俺は何も言えずあかりの肩から手を離した。どちらかというと力が抜けたといった方が合っているかもしれない。自分の中で何かが崩れていくような感じがした。何が、崩れているのだろう。何が、何が、何が、な...


彼女は立ち去り、彼は残された。彼女は振り返ることはなく、彼も引き留めなかった。廊下には無機質に足音が響く。いつの間にか暗くなった校舎に彼が崩れ落ちる音がした。校庭の火は未だ勢いよく燃え、若人たちも負けずに盛り上がっている。この差は一体どこから生まれるのだろうか。なぜ一生懸命に生きている彼が絶望しているのか。父は母をしいし、己が父を命を賭して鉄格子にほだし、あまつさえ大切な仲間たちも目の前から離去れた。

現実はいつだって残酷で、不条理で、つまらない。そんなものはわかっていた。だけどそんな中でも燈はあると信じてきた。信じてきたから頑張れた。けれど今全て投げ捨ててしまいたい。そうすればこんなに苦しまずに済む。よくある「知らなければ傷つかない」みたいな。考えてみれば最初から酷かったな。なんで父が母を殺すかな。殺すなら俺を殺しといて欲しかったよ。子どもだから殺しやすいだろ。もしあそこで殺してくれれば、彼女だって死なずに済んだ。名前、なんだったっけかな。あれ、ど忘れした。……俺さ、あかりがあの子なんじゃないかなってたまに思うんだよね。最初会った時の印象がなんとなく。そうあったくれたらどんなに嬉しいか。……でもなー、最後のあのあかりの顔見ちゃうと、顔合わせられないな。なんだかな〜。もう、どうでもいいや……。何もかも…。


「「バカ。」」


「ほんとばかだな、私。」

誰もいない屋上で1人呟く。当然言葉を返してくれる人なんていない。吹き付ける風に少しだけ寒さを覚えた。

今から思うとなんであんなことをしてしまったのか。多分一時の感情に流されてしまったのだろう。神倉君とひかりちゃんには悪いことをしたな。後で謝罪に行こう。こんな(こす)い手を使わないで真っ向からぶつかればよかった。

「今頃神倉君必死に弁解してるかな。あの誤解を解くのは少し大変そうだけど。」

「結果から言うと誤解は解けてないよ~。」

え?誰?

いつの間にか隣にいたその人から急いで離れる。制服ではないので多分この学校の生徒ではない。歳は恐らく近いだろうが。桜花さんと神倉さん友達だろうか?

「あ、別に害を与えるようなことはしないから警戒しないでいいよ~。私はあなたのことを知らないしあなたも私を知らない。ね?」

そう言われても。警戒しないでいいよって言われると逆に警戒しちゃうよ。

「じゃあ今から私についてきてね。案内はするから。言っておくけど選択肢なんかないよ~。これはあなたの責務だから。あなたの犯した罪の重さ、しっかり痛感するんだね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ