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「じゃあこのことを黙ってる代わりに夜一さんも教えてください。海雪さんは昨日、夜一さんには別の目的があり、見事それを成功させた。そう言ってました。別の目的とは何ですか?」
「はて?私にはさっぱりわかりませんが?海雪さんの考えすぎでは?」
「とぼけてもいいですが、じゃあ私もさっきの事言いますよ?」
バチバチと2人の視線がぶつかる。
「何見つめ合ってんだよ、ラブラブか。」
扉からそんな声が聞こえる。全く、ノックくらいしなさいよ。
「さっきすぐに来るっつたろ。それともあえて見せつけてるのか?お前がそんな姿じゃなかったらぶん殴ってたぜ。」
「今はご勘弁を。メールには全く気付かなかったんだ、すまんな。」
ずいぶんと見なかった幸生は肌が程よく焼け、少し髪も長くなったように見える。ひかりが伸紘に襲われた件で何発かはパンチもらう覚悟はしてきたが、どうやらこの怪我のおかげで殴られずに済んだ。あかりは顔を赤らめ、何かぼそぼそと呟いてる。さっきのは冗談だよ気付けよ。
「にしてもずいぶんなやられようだな。もっと鍛えとけよ。でも守ってくれる人いたんじゃないのか?あのー、ボディーガード?」
「その中に敵の仲間が何人かいたらしくて助けに行けなかったそうですよ。まあでも?聡明な夜一さんはそれに気づいてたらしいですが?そんな危険を冒してまでなぜ強行なさったのですか?」
「ははは、なあ幸生。年頃の男の子に秘密の1つ2つはあるもんだよな?」
「フッ、当たり前だろそんなの。俺なんか1つ2つと言わず10や20はあるぞ。」
俺から振っといて悪いが20はさすがに多すぎじゃね?
「あ。もしかして私なめられてます?女だからですか?バカだからですか?嫌だな~、そんな風に思われてるなんて。じゃあどっちが先がいいですか?」
待って落ち着け冷静に。何?『先がいい』って。絶対死刑宣告じゃん。指ポキポキ鳴ってるし。執行猶予とかつかないんですか?
「夜一で。」
即答で友達を売ったよ。人間て怖いね。
結局看護婦さんが来てこの場は抑えられました。だいぶしごかれました、患者なのに。
「あなた、どこかで会ったことある?」
「いえ、ないと思いますけど...。」
そんなよくわかんない会話を看護婦さんとあかりはしていた。
「何?あかりあの人と知り合いなの?」
看護婦さんが部屋を出て行ったあと聞いてみた。
「いえ、気のせいかと思います。少なくとも私の記憶には。」
ついでに言うと一応俺は前にあの看護婦さんとは面識がある。海雪が火災で病院に行ったとき、あの人は受付をしていて少し話をしていた。
「それより、本当に教えてくれないんですか?」
あかりもなかなか引き下がってくれないな。……まあ確かにこのまま俺が言わなくても、海雪に聞けばすぐにわかることだ。ならば俺が話したほうがいいんだろうな。他人から知られるくらいは。
「わかったよ、降参。話しますよ。幸生ももうある程度は知ってるんだろ?だったら幸生もここにいてくれ。」
気遣ってくれたのか部屋から出ようとする幸生を止める。ひかりを傷つけたせめてもの贖罪として。
「何から話したものかな...。あかり、今回の作戦?の目的は何だと思う?」
「……それ、海雪さんにも言われました。伸紘さんを捕まえること、じゃないんですよね。」
まあ海雪ならそう言うだろうな。目的さえわかれば簡単なことだ。
「いや、大体合ってるよ。もちろん捕まえることが目的だ。だけど捕まえるだけじゃ今回の件の根本的なところは何にも解決しない。」
「根本的なところ、ですか?」と頭を傾かせる。幸生はただ黙っている。この話が終わったら俺はひどく怒られるだろうな。嫌だなぁ。
「ひかりには事前に何かあればすぐに逃げるように言っておいた。これは当然ひかりを守るため。それと俺の近くに誰も居させないようにするためだ。ボディーガードの中に敵がいてくれて寧ろこっちのほうが俺としては良かった。」
何を言ってるんですか?と言いたそうな顔をしている。裏切り者がいると分かった上で取るべき選択肢は、そいつを追い出すことかそれを利用すること。俺は今回後者をとった。
「俺は最小の被害で最大の利益を取りに行った。作戦は順調に進んでいった。が、最後の最後でミスが起きた。あかり、お前が俺のところに来たことだ。」
「わ、たし、ですか?私が夜一さんのところに向かったのはダメだったんですか?」
正直ダメかどうかはわからない。でも良くはなかった。すると黙っていた幸生が顔を上げる。
「心配だからその人のところに行くってのが悪行だとは思わないけどな。」
「...…あかりが来たことによって伸紘から襲われる可能性があった。それともう1つ。あかりが俺が銃で撃たれてもチョッキを着てると知って、「良かった」とか言う可能性が大いにあったからだ。これが重要なことだが...その様子だと言ったそうだな。」
そんな、でも、なんで...。あかりは事態が呑み込めず錯乱してしまっている。
「伸紘は俺を10年以上も憎んでたんだぞ。殺したいほど憎んでたはずだ。俺が生きてる限り何度でも殺しにくる。」
「だからってこんなこと...」
やっと気づいたか。幸生もとても不機嫌そうな顔から見て気付いたんだろうな。
「何でいつも、私のいう事を全く聞いてくれないんですか?」
ごめんな、あかり。