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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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あの花火大会の日、家に帰った俺はあの花男の正体を探るためにアルバムやビデオを漁った。両親はあまりそういったものには無頓着で、大したものは見つからなかった。でも、気になることはあった。

俺の幼い頃の写真が1枚もなかった。最も小さい頃のが小学生の入学時のものだった。一般の小学生が持つであろう期待や不安などの表情が一切感じられず、ただそこに立っていた。

そしてもう一つ。アルバムのカバーを外すと、わずかに凹凸があり、それをを指でたどると丁度写真ほどの大きさがあった。悪いとは思いつつ、慎重にカッターで切り、中身を取り出した。写真には前に鉋の部屋で見た、当時は全く知らないおっさんを彷彿とさせる人がそこにいた。写真の姿は若いがそれでもあの人と分かった。その人は隣で奥さんらしき人と並び、赤ちゃんを抱きかかえていた。そしてその周りにはそれを祝福する人々、その中に若い頃の母さんと父さんもいた。ゆっくりと裏を捲ると、寄せ書きが書いてあった。


とりあえずお疲れ、そしておめでとう! 蓮香れんか伸紘のぶひろ出産おめでとう! これから大変かもしれないけど頑張れよ! これからも末永くお幸せにね。 鶴久家つるくげさん、お幸せに! 全く、うらやましいぞ!こんちきしょう! 困ったらいつでも頼ってね! 夜一君と3人仲良くね! これで蓮香も立派なお母さんだね! 今度うちの子とも遊ばせようぜ! 

そして中心に大きく『happy birthday yahito‼』


他にも似たようなコメントがいくつもあったが、途中でやめた。そしていくつかわかったことがあった。

1つ。俺の実の両親はこの2人だ。誕生日も一緒だったから多分間違いない。

2つ。名前を鶴久家、女の方は蓮香、男が伸紘というらしい。

3つ。この2人は今の俺の両親の親戚、もしくは友人らしい。

4つ。俺は当時、夜一よいちではなく、夜一やひとだったらしい。


「別に怒りとかそういうのはなかった。これを言いづらいって気持ちもわかるし、恐らくあの犯人が俺の実の父なんか知られたくないだろうし。」

アルバムの写真を机に置いた。これは鉋も見たことがないらしく、父さんと母さん以外は驚きを隠せないようだった。俺には確かに怒りはなかったが、「今更これを知ったところで」という、諦めのようなものでいいっぱいだった。ドラマなどでよくある「それでも母さんは母さんでしょ?」とか「ここにいるお父さんだって、本物の父さんだよ」などといった感情もなかった。それにしても、俺の周りにはどうしてこういう何か訳アリの事情があるやつが多いのか。類は友を呼ぶというやつか。

「でも何となくは繋がった。この伸紘とかいう男はこの後、俺の何かが原因で家庭崩壊させた。蓮香さんは殺され、俺はどこかに逃げて母さんたちに拾われたんだろ?かなり前、俺が捨てられていたひかりを家に連れ帰った時に驚いた理由は子供が捨て子を拾ってきた。それもあるかも知らないけど、恐らく母さんたちが拾った子が、今度はその子が捨て子を拾ってきたから。そんな感じに。」

俺はひかりを見た。しかし項垂れているため頭頂部しか見えず、何を思っているのかは俺にはわからない。するとずっと黙っていた父さんが口を開いた。

「...…あの男は今ではあんなのだが、昔はとても真面目でいい奴だったんだ。だけどその真面目さが仇となり、会社ではいいように利用させられていたんだ。家に帰るといつも蓮香さんが励ましてくれて、それを支えにしてなんとか生きていた。しかし子供ができると当然そういうわけにはいかなくなる。子供に構わなくを得なくなる。それがあの時のあいつには自分を捨て、子供と遊んでるように見えたんだろう。後は何となくわかるな。」

それで怒りが爆発し蓮香さんを手にかけ、最も殺してやりたい俺が逃げて今も生き残ってると。そしてその俺が新しい家族と楽しそうに暮らしていると。欠落した記憶が次々と紡がれていく。


...…そうだ。思い出した。俺がヒーローになりたかった理由。俺は蓮香さん、当時はお母さんが伸紘さんに殺される際、俺に言ったんだ。

「夜一...…。あなたは、人に夢を、与えなさい。例えそれが…一夜の夢だとしても。....それが、その人の...希望に....なる..」

臭いセリフだけど皮肉かな、死ぬ直前だったからこそそれが本心の言葉だったと心からの願いだとわかる。当時の俺は暗い押し入れの中、必死に息を殺し、それを聞いていた。何もできず、ただ大好きな人が死にゆく姿を見送ることしかできない自分が情けなかった。そして祈った。いつも画面の中で悪を倒すヒーローが来てくれることを。だけど当然そんなものはない。数分が経ち、俺を探しに伸紘が家を出て行ったあと、俺は母さんに泣きついた。いつも泣けば頭を撫でてくれた。それはとても気持ちよく、また安心できた。だからもう一度だけ、どうか撫でてほしい。だけどその願いは叶わない。俺はお母さんにさよならを告げると家を出た。どこも行き先もなく、何も持たないで。だけど1つだけ確固たる意志はあった。ヒーローになりたいと思った。ちっぽけなヒーローでも、せめて自分の大切な人を守れるほどに。


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