41
面会にはひかりとあかりが来た。ひかりはまだ頭に包帯を巻いているがそれ以外に目立つ怪我は見当たらなかった。
「ごめんね、私が勝手に動いたからこんなことになっちゃって。」
あはは、と力なく笑う。全然笑えない。その顔を見て、さらに申し訳なさが増す。
「違う……。俺が全部悪いんだ。誰にも言わずに家を出て、みんなに心配かけたからこんな結果になった。それでひかりをそんなにも傷つけた。取り返しのつかないことをした。すまない。」
いっそ怒鳴られたほうがよっぽどよかった。いや、怒鳴られることが少しでも罪滅ぼしになるなんて考えたのかもしれない。こんな時でもそんな事を考えた自分が本当に嫌になる。
俺とひかりが黙り込んでしまったため、進行役はあかりが行ってくれた。
「とりあえず報告事項を言っておきますね。罰金はもう払ってあるので明日にでも出られますよ。怪我をされた警察の方たちも回復に向かってるとのことです。ひかりさんもこの通りほとんど回復してます。」
隣のひかりはフンスッと、ドヤ顔でこちらを見てきた。
「それから家に帰ったら家族会議だそうです。全ての事情を話すとのことです。それと……」
話す、か話せ、ではなく。その後の言葉はひかり代弁した。肘をついてそっぽを向き、嫌みをこぼすように。
「幸生が夜一に激おこなんだよ。私は夜一が悪いわけじゃないって言ってるのに、「あいつがもっと周りに頼らないのが悪い」って全然聞く耳持ってくれなくてさ。まあでも、一応あれでも心配はしてたから一度会ってあげてよ。」
幸生の言葉が胸に刺さった。頼らないってことは信用されてないと捉えられても仕方がない。あいつも何よりそのことが嫌だったのだろう。
面会の終了が知らされ、「また明日」と告げると、2人は笑って手を振ってくれた。その笑顔を見送ると俺もまた戻っていった。簡易なベットに寝転がり、しばしの考え事をした。そういえば。シンガポールから帰って来た後、鉋で見たあの火災の写真。今から思えばシンガポールのだったのか?それにあの写真のおっさん、母さんと父さんの不可思議な会話、それと花火大会の後に見たアルバムとビデオか。それが何か繋がった気がした。
翌日の夕方ごろ、俺は無事刑務所を出た。ここで「やっぱシャバの空気はうまいぜ!」とまでは思わなかったが、新鮮な空気は美味しかった。見る景色全てが鮮やかに感じた。懐かしいこの感じ。俺はまだ未成年であり、両親の迎えは必然だった。むしろなぜ面会にあの2人が来たのかが不思議なほどだった。
「多大なるご迷惑お掛け致しました。」
「...…帰るか。」
両親に深々頭を下げ誠心誠意の謝罪の意を述べた。その後両親と気まずい雰囲気の中、俺は車に揺られながら帰った。俺はその間、一言も話さなかった。
家に帰るとすでにみんながリビングにいて、その中にはあかりの姿もあった。そういえばあかりは一体いつまでうちにいるのだろうか。そんなことを考えながらもひかりのとなりに座ると、すぐに話し合いが始まった。
「まず夜一から話を聞きたい。」
父さんにそう言われると、俺が今朝ひかりに言ったことを話した。篝はシンガポールの火災について全く知らなかったので、とても驚いていた。他の人もやはり驚きは隠せない様子だった。そして一通り話終えると沈黙が流れた。
「なるほどな...…。」
父さんは椅子に背を預けると腕を組んで何か考え込んでいた。母さんが考え込んでいる父さんに声をかけると、父さんは顔を上げ、静かに話し始めた。
「まずは桜花さん、ひかり、篝、そして夜一。大変申し訳ないことをした。」
父さんが頭を下げると続いて母さんと鉋も頭を下げた。あかりもひかりも篝もみな状況が理解できてないらしい。
「父さん達はみんな最初から犯人を知ってたんだよ。」
これが海雪に言われたことなのだろうか。「頭が切れる」なんて言うがそんなのただの運に過ぎない。俺に大それた才能なんてない。父さんが話そうとするのを遮り、俺が話し始めた。それは誰かに俺が今考えてることを否定してほしかったからだ。俺は俯いた姿勢のまま、父さんと母さんの顔が見えないよう続けた。
「もちろんその人を捕まえようと必死になっていたことも知ってる。母さんも夜遅くまで、鉋も火災の件調べてたり、父さんもきっとそうだと思う。それも俺たちには、いや、俺にはばれないように。外出なんかは人が多いショッピングとか花火を進めたり、でも極力は家から出さないように。俺が前に父さんと母さんから聞いたひそひそ話もその犯人についてだろ。」
顔を上げると母さんは俯き、鉋は視線を逸らす。父さんだけはまっすぐにこっちを見ていた。ひかりも篝も不安そうに俺を見つめる。あかりも不安そうな顔を浮かべながら、口を開く。
「ええと、お父さんとお母さんは今回の真犯人というかを知っていたということですよね。でもそうするとなんで秘密にしていたのですか?夜一さんに知られたくないことがあったとしても、私たちに話すことはできたでしょう?」
「万に一でも知られたくなかったんだと思う。今も多分言いたくはないと思うぞ。」
3人は黙ったまま何も言わない。その沈黙が答えだった。