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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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しばらくの沈黙が流れた。いつしか雨も降り始めていた。海雪とこのように向かい合うのは初めてだろうか。小学校の頃は一方的に俺が嫌ってた時期はあったけれど、それ以外は特に争いもなく接してきた。お互いの事情にも深く関与しようとしたことはなかった。しかし今、その一線を超えようとしていた。

「俺は小学校を卒業したら全寮制のお坊ちゃまが通うような中学校に進んだ。」

そしてその卒業アルバムを本棚から出した。よく名前の知った学校だった。

「しかしそこは想像より遥かにつならなかった。みんなが一色単て感じで個性なんかほとんどなかった。みんないい子を演じて、自分が一番と考えてた。当然その努力は大したものだが、好きでもないものを無理やりやらされて伸びるわけもない。実に空虚な3年間だったよ。みんな俺を遠ざけるし、俺からも近づきたいとは思わなかった。そしてお前がいた頃はなかなか楽しかったって気づいたよ。そして高校は同じところがいいなって思った。」

多分それもあるけどそれだけじゃないとも思った。その理由もある程度は予想がつかなくもない。

パラパラと卒業アルバムを捲る海雪の目線は全く動かなかった。俺も訪花も黙って聞いていた。そしてアルバムを閉じる。

「だけど俺の話なんかどうでもいい。俺が聞きたいのは夜一の事だ。高校で初めて見た時は「こんなふうになったんだな」としか思わなかった。けど時間が経つほどお前のことが分かんなくなってきた。この前の体育祭もそうだったし、この前の火災の件の犯人特定もお前がやったらしいな。運動神経も頭の切れも相当大したものだ。しかもまだ本気とは思えない。……単刀直入に言うが中学校で何をしていた?」

心配、ではなく疑いの目で俺を見てくる。

海雪は少し俺の事を買いかぶりすぎだ。俺には特に大した才能もないし、ごくごく普通の人間だ。寧ろ負け組の失敗作だ。

「特に何にもないよ。勉強、運動をそれに少し青春ぽいことを普通にやってただけ。海雪の気のせいだろ。」

とは言ったものの、見た感じあんまり信じてもらえないらしい。どうしたもんかな。これ以上詮索はしてほしくないし話題転換するか。

「というかそれならなんで訪花の話をしたんだ?別にそんな話しなくてもいいだろ。それこそ単刀直入に訊けば。」

訪花を見るとじっと俺を見て何か考えてるようだった。……なんだか照れるな。

「いや、大した意味はない。俺もこの前あの話を知って、夜一は悲しいとか感じるのかなってな。」

多分嘘だろうな。真意はわからないけど。


そんな重たい空気の中、俺の携帯に電話が来てることに気付いた。開いてみると幸生からすごい数の電話が来ていた。流石におかしいと思い、電話に出てみる。

「お前今どこいんだよ!?」

もしもしを言う間もなく怒鳴られた。冗談などては無く本気の怒声。正に深刻そのものだった。

「いくらひかりに電話しても出ないんだよ。メールも反応ないし、家にもいないらしいし、バイトでもないって。」

幸生の息が切れ切れなのが電話越しにもよくわかる。この雨の中ずっと探しているのだろうか。急に心配になり「俺も探しに出る」と伝え電話を切った後、通知offを切るとひかりから連絡が来ていた。時刻は俺が家を出た時、刑務所に着いたあたり、そして刑務所を出て車に乗ってしばらくした頃。

「どこ行ったの?」「今そっち向かってるから待ってて。」『不在着信』

俺は部屋を駆け足で出てひかりに電話をした。後ろから何やら声が聞こえたが悪いが無視した。ひかりの携帯に電話をしてみると1コールで出た。

「またお前の大切なものが壊れていくぞ?」

しかしその相手はひかりではなく電話もすぐに切られた。

雨はいつしか土砂降りになっていた。太陽の明るさは消え、ところどころの電灯が道を照らす。俺はがむしゃらに走った。電話もあれから1本も繋がらない。もうどのくらい走ったのかわからない。何度も転び服が汚れ、擦った箇所からは血が滲んできた。でもそんなことはどうでもよかった。ただひかりが無事でさえいてくれればそれでいい。


そして見つけた。激しい雨に打たれ、力なく横たわっていた。服はところどころ破れ、頬は腫れ、頭からは血を流していた。まるで初めてひかりを見つけた時のようだ。嫌な記憶が蘇る。

「貴様の弱さがまた人を傷つけたのだ。」

不意によぎるあいつの言葉。俺は結局弱いままなのか。俺は結局何も守れないのか。

不意に誰かに肩を叩かれた。その先はもう覚えていない。


翌日の新聞には見出しとして『高校生が地元警察に襲い掛かり警官19人負傷。』とあった。

俺は気が付くと刑務所にいた。拳にはうっすらと血の跡が残り、口内も血の味がした。そしてあのひかりの姿。

「ごめん……本当に。…ごめん。」

俺は面会が許されるまでの間、ただ謝り続けた。


あの日、朝からひかりの様子はおかしかった。あかりと篝の土壇場にも一切関与せず、朝食も終始黙っていた。声をかけると何か言いたそうだったが、何を言いたかったのだろうか。俺がシンガポールと花火大会のことを話した時、ひかりは俺の事を守ろうとしたのだろう。そして俺が海雪に呼ばれ出ていこうと準備していた時、携帯にGPSか何かつけていたのだろう。その後俺が警察に着いたのを知ってひかりも来た。最後の電話は恐らく俺が海雪の車で出てしまったから急いでかけたものだろう。

だからなんだというのだ。こんなこと今更わかったところで何の意味もない。本当に死にたくなった来るな。…俺が死んだらみんなにこれ以上被害出ないのかな。




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